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冬のソナタに恋をして

思い出の消去


チュンサンはしばらく躊躇した後、ポケットから携帯を取り出して、誰かに電話を掛けた。その相手はサンヒョクだった。サンヒョクは電話を受けた時会社の屋上にいた。チュンサンとユジンが兄妹だと聞かされてから、再び仕事に集中できなくなってしまい、こうして時折屋上に来て、煙草を吸いながらぼんやりとするようになっていた。そこに思わぬチュンサンからの電話で、サンヒョクはびっくりしていた。一方で、チュンサンにとって、いまやサンヒョクは秘密を唯一共有できる、信頼する友人だった。チュンサンはサンヒョク頼みごとをした。

「今ユジンと東海に来てる。明日の夜、こっちに来てほしいんだ。頼む。」

サンヒョクは何をやっているんだともいわず、なぜとも聞かず、ただこう言った。

「わかった。行くよ」

チュンサンはサンヒョクが理由を問う事なく、引き受けてくれたことを深く感謝するのだった。

「悪いな」

「ところで君はどうだ?大丈夫か?」

「大丈夫、、、うん。大丈夫だと思う」

チュンサンの全く大丈夫でなさそうな答えに、サンヒョクは一つため息をついた。

「サンヒョク、もう一つ頼みがあるんだ。」

「いいよ。なんでも言ってくれ」

「この前、ユジンと記念写真を撮ったんだ。そのことは何にも知らなくて、ユジンの家に写真を送るように手配してしまった。そろそろつく頃だと思う。悪いけど、それを彼女が目にする前に回収して捨ててほしいんだ。」

「チュンサン?!」

「僕との思い出になるようなものは何一つ残したくない。煙のように消えたいんだ。頼む。」

「、、、ああ。じゃあ明日」


サンヒョクはしばらくの沈黙の後、了承した。ソウルの空も今日は快晴だったが、サンヒョクの心は晴れなかった。これから二人は最も辛い夜を過ごすことになる、いくらかつてのライバルで憎んだ男であっても、喜ぶ気にはまったくなれなかった。

チュンサンは電話を切ってしばらくぼんやりしていた。すると背後からそっとユジンが近寄ってきた。ユジンは不思議そうにどこに電話をしたのか聞いてきたが、チュンサンは会社だと適当に濁すのだった。

「ユジン、どこに出かけてたの?」

「ちょっと買い物にね」

「拾ったお金で?」


ユジンは得意そうにうなづくと、ポケットからインスタントカメラを取り出して見せた。

「これ、去年の夏から私たちへのプレゼント。この冬を忘れないで。」

ユジンは嬉しそうに笑って見せたが、チュンサンの顔はますますこわばった。

「ここでたっくさん思い出を作ろう。このくらいたーくさん」

ユジンは両手を思い切り振り回して無邪気に笑っている。チュンサンはうっすらと微笑むのが精いっぱいだった。

『思い出になるようなものは何一つ残したくないのに』

そう思ったけれど、「ねっ?」と顔を覗き込むユジンにつられてうなづいてしまった。ユジンはさらに続けた。手に握りしめたものをはいっと渡されたのだ。

「これは私からのプレゼント。」


そっと手を広げてみると、そこには表を貼り合わせた2枚のコインが置かれていた。

「映画みたいにコインを貼り合わせてみたの。こうすれば運命なんて怖くないから。どっちに投げても結婚するっていう答えしか出ないもの。これで運命を味方につけたでしょ?」



得意そうに明るい顔で笑うユジンを、チュンサンは静かに見つめていた。そして「そうだな」とつぶやくのが精いっぱいだった。チュンサンはインスタントカメラを手にすると、ユジンの姿をたくさん撮った。


ユジンはピースしたり変なポーズをとっておどけて見せる。しかし、しばらくたつと「なんで私ばっかり撮るの?チュンサンも撮ってあげる」と無理やりカメラを向けられた。どうしても写真に写りたくないチュンサンは、必死に抵抗したが、ユジンは「笑った方が素敵よ」とカメラを向けた。


しまいには近づいてきて口角を指であげられてしまう始末だった。チュンサンは困ってしまいながらも、ユジンにされるまま、ポーズをとり続けるのだった。チュンサンとユジンは、市場で屋台の料理を食べたり、歯ブラシや洗顔料など身の回りの物を買ったり、田舎町をぶらぶらしたりして、午後を過ごした。やがて、海辺の町にも夜のとばりが下りて、二人は今夜の宿を探すことになった。しかし、ほとんど思い付きでこの街にやってきたので、いざホテルを探そうと思っても、あまりに田舎過ぎて、泊まるところは見つからなかった。二人は夕食を食べてまた散策した後に、一軒の民家にやってきた。そこは漁師の家らしく、軒先にはたくさんのイカが干してあった。ここなら離れを貸してくれるかもしれない、チュンサンは思い切って民家に向かって声をかけた。

コメント一覧

kirakira0611
@hinata_bocco さま、ありがとうございます😊
ラララランド、まだ観てませーん。観たいです。
切ない東海のエピソードです。
ところで、扉の詩、ステキですねぇ。
日本、頑張ってくれましたね。沢山勇気をもらいました。クロアチアが🇭🇷優勝してほしいなー、と朝早くから観てました。
またステキな詩を待ってまーす。
hinata_bocco
ユジンの無邪気さが一番切ないですねぇ(・∀・)

ラララランドの夢のような回想シーンに
似て。。。

どっかに二人で、逃げてしまえば、と
思いますが。。。ドラマにならないし
(・∀・)
kirakira0611
@81sasayuri1018 さま、ブックサンタを教えていただいて、ありがとうございました😊
今日は娘が6時から部活スタートでした。寒くて暗くて頑張ってるな、と思いました。そんなわけで、サッカーも観ることが出来ました。そちらは寒いんですねー。わたしは雪国で暮らしたことがなくて、冬ソナも寒さがわからずに書いてるので、すごいなと思います。どうぞお身体を大切にお過ごしくださいませ。
冬のソナタが流行っていたころと今、きっと全く違うでしょう。いろんな思い出がありますね。
おっしゃる通り、ブログを始めたときと今、全くブログに対する想いが違いますね。途中、挫折しそうでしたが、今はゴールが見えてやりきりたいと思ってます。ゆりさんやbreezemasterさんはじめ、みなさんのおかげです。ありがとうございます😊
この冬に終われるように、目標は三月でいきたいです。
応援ありがとうございます😊
kirakira0611
@breezemaster さま、ありがとうございます😊
わたしもユジンのこのショットはお気に入りです。どれにしようか迷ったんですけど、これにして良かったです。
次回は初夜なんですよー。あと少しラブラブ時間が続きます。よろしくお願いします。
ありがとうございます😊
81sasayuri1018
こんにちは。

先日はブックサンタの御紹介と共に、過分なお褒めに与りましてありがとう存じました。

さて、ここ、ユジンは楽しそうですね。でも、チュンサンはユジンの目の前から消えようとしている・・・
いい人のようになったサンヒョクも、また再び豹変と・・・
キラキラさん、これから最後までは書きにくいでしょうね・・でも、あと一息・・・

こちらは「冬ソナ」のように雪が舞い始めました。
以前書いたように、凍てついた心で居たころ出あったのが「冬ソナ」でした。
あの頃より、ずいぶん成長した私がいます。まさに「姥ゆり」です(笑)

キラキラさんも、冬ソナをこうして書き始めて色んな事がおありでしたね。きっと大きく成長されたことでしょう°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
ご無理せず・・・最終話は3月でもいい!位なお気持ちでね。
いつも本当に楽しませて頂いております。有難うございます♡ 
breezemaster
おはようございます^^
今回のストーリー、
冬ソナであるところ一番悲しいストーリーのスタート(T_T)

それでも、タイトルの前の頬に手を付いているユジンの写真、
可愛さと幸せ感を感じます。
いい1枚ですねぇ~

サンヒョクは秘密を唯一共有でき信頼する友人
的確な表現ですね
そして写真の引取り、迎えを頼む、
悲しさを持つチュンサンを
色々な思い出になる楽しさを持たせてくれる、ユジン、
お互いの思いの違いはあれど、
写真のような明るい気持ちのユジンを素直に楽しませていただきました。
そして、次回・・・涙が先に出てきそうなストーリーが予想されますが、楽しみにしていますね
kirakira0611
@charlotte622 さま、チュンサンがかわいそうで仕方ありません。ユジンは無邪気だし。
あと2回で終わりなんですよねー。正直ここから先はあんまり好きじゃない展開です。次回は好きなんですけど、次回は初夜(笑)です。
ちなみに、ユジンが兄妹って知るところから先が書いてなくて、悩み中です。
いつも読んでいただいてありがとうございます😊
もう少しお付き合いくださいませ。
charlotte622
今晩は。チュンサンの気持ちを思うと辛いですね…
でもこのドラマ全20回なんですよね?あと2回のうちに兄妹であるという誤解は解けるのでしょうか?(もちろん解けるのでしょうけど)私は最終回は観たけどよく覚えてなくて…どんなふうに誤解が解けるのか、とても興味があります。
キラキラさん、いつもお疲れ様です❗😌
杏子
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