東京大学入試地理B

東京大学入試問題(前期)地理Bの問題・解答・解説。2006年・2007年の2年分。

東大地理B第2問設問C

2006年09月10日 | 東京大学
2006年東京大学前期入試地理B第2問

設問C 日本は木材の8割を輸入している。下の図のように、木材輸入量の中ではチップ(木材チップ)の輸入量がきわめて多い。チップに関連し、各問いに答えよ。
(1)チップの主たる利用目的は何か。一つ答えよ。
(2)その目的のため、かつて丸太で供給されていたが、供給形態が丸太からチップに変化した理由を、60字以内で述べよ。



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解答
第2問設問C
(1)紙の原料
(2)木材輸出国は天然林護のため、人工林を造成し、その木材を伐採してチップに加工し輸出する。大型専用船で安価な輸送が可能である。
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解説
1.チップの統計
2001年木材統計、農林水産省の木材統計から、チップが消えた。残るのはJETROの「アグリビジネスブック」だけである。
チップはチップ製造専用機で木材・古材をつぶして、5cm程度の長さにそろえたものである。針葉樹・広葉樹のどちらからでもつくることができる。古くは人絹原料にもなったが、現在はほとんどが製紙用パルプ原料である。まれにコンクリートの舗装道路にパルプを混ぜ込んで、歩きやすくすることがある。競馬場のコースに使われることもある。
量的には99%が製紙用、つまりパルプ原料である。



2.日本のチップの輸入量推移
チップの輸入依存率は1990年には53%であったが、2005年には72%に上昇した。製紙用に丸太を輸入し、日本国内でチップに加工していたのをやめ、チップそのものを輸入するようになったのである。
輸出国側にとっては、製紙用に丸太を輸出するよりは、チップを輸出する方が付加価値が高い。チップの製造は機械を日本から輸入設置すると、操作は簡単である。
輸入国側(日本)にとっては、丸太を輸入すると、輸送船にすき間が空きすぎ、空気を運ぶ割合が高い。コストが高くなる。また、木材運搬船は荒天でしばしば荷崩れを起こして丸太を廃棄したり、船が転覆したりする。
現在は、チップ専用船を使い、日本の製紙工場が必要な時に、必要な量を運ぶ体制ができている。

東海商船東海丸24394トン(パルプ専用船)
チップの積み下ろしは、大型パイプで船と陸とをつなぎ、送風機でチップを送る。


輸入木材は7~8割で推移し、木材価格の高い国産材は少なくなった。さらにチップの輸入量は上昇する一方で、製紙用丸太の輸入は減少傾向が顕著である。



3.チップの輸入先
チップの年間輸入量は1300万トン、輸入金額は2000億円である(2004年)。7割以上を輸入に依存し、そのほとんどは製紙用のパルプ原料になる。


◆オーストラリア
オーストラリアのチップは全部日本向けの輸出である。年間輸出量は477万トンである。オーストラリアには日本の製紙関連会社が長年ユーカリやポプラのような成長速度のはやい樹種を植え、その木材チップを日本に輸出している。
この日本企業の植樹のあり方に対しては、本来のオーストラリアの生態系を壊す、という批判がある。
オーストラリアで日本企業の植えた樹木が二酸化炭素を吸収すると、その分を日本国内の二酸化炭素減少量とみなすことができる(京都議定書)。
日本の製紙企業にとって、製紙原料のチップを安定確保できるし、二酸化炭素の削減とみなされるし、オーストラリアにおける植林とそのチップ輸入は、実にうまい話、できすぎの話である。将来、天罰のありそうな話である。
日本で二酸化炭素を削減せずにオーストラリアで植樹して、日本の温室効果ガスが削減できるのではない。地球全体を考えると、そのようなことがあるかもしれないという程度の根拠にもとづいているのである。
◆南アフリカ
南アフリカのチップは全部日本向けである。オーストラリア同様、日本の製紙企業の植林地の木材からチップをつくり、日本に輸出する。日本企業は京都議定書の二酸化炭素6%削減の義務をクリアーするとともに、安価なチップを輸入し、紙の生産コストを下げることができる。
◆チリ
日本の製紙企業かその関連子会社が、チリの草原地帯にユーカリを植林し、それをチップにして、日本へ輸出する。チリのチップ輸出は全部日本向けである。日本企業は、チリに植林して二酸化炭素を吸収させたことになる。日本国内で二酸化炭素6%の削減義務を、チリの植林で代行してもよいのが、京都議定書のルールである。
日本に製紙会社にとっては、二酸化炭素の6%削減ができる。また、安価なチップの輸入で製紙コストを下げることもできる。

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総括
環境問題を考えるための良問である。
2006年の入試には直接関係はないが、地球温暖化をとめるためには京都議定書は役立たないと批判して、京都議定書から脱退したのがアメリカ。京都議定書を批准せずにもっと先を行くと宣言したのが、オーストラリアである。
日本は京都議定書の、例外的手段としての逃げ道、排出権取引にすべてをかけている。チップの輸入から、環境問題についての各国の姿勢が見える。




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