東京大学入試地理B

東京大学入試問題(前期)地理Bの問題・解答・解説。2006年・2007年の2年分。

東大地理B第1問設問A

2006年09月14日 | 東京大学
東京大学2006年前期入試地理B第1問設問A

第1問 南アメリカの自然と産業について、各問いに答えよ。
設問A 図1のア~エは、図2のa~d(各国の首都)の月平均気温と月降水量の年変化を示す。
(1)ア~エは、a~dのいずれか。
(2)イの判断理由を60字以内で書け。


   

   


第1問設問Bに続く

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解答
第1問
設問A(1) ア-d イ-a ウ-b エ-c
(2)年中13℃で,気温年較差がほとんどない。赤道直下の高山と考えられる。aは赤道エクアドルの首都、高山都市キトである。(58字)
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解説
第1問設問A

1.気候型-都市
(ア)地中海性気候-(d)サンチャゴ(チリ)
(イ)高山気候-(a)キト(エクアドル)
(ウ)砂漠気候-(b)リマ(ペルー)
(エ)高山気候-(c)ラパス(ボリビア)


2.グラフ(ア)はどこの気候か。
◆理科年表2000年版  376-Santiago 期間1951~80年
   年平均気温14.3℃  年降水量265.6mm 
    14.3×20=286
   → この場合の気候はステップ気候BS
◆理科年表2002年版 180-Padahuel 期間1971~2000年
   年平均気温13.8℃  年降水量300.3mm
        13.8×20=276
  → この場合の気候は地中海性気候Cs
◆理科年表の比較
    Santiago 南緯33.26度。西経70.41度。高度520m
    Padahuel 南緯33.23度。西経70.47度。高度474m
Padahuelは北に300m、西に1000m、高度で46m移動した新観測点である。Santiago市内であり、旧観測点の気候とほとんど同じであろう。
しかし,旧観測点がステップ気候,新観測点が地中海性気候であり、なかなか同じとは考えにくい。
観測期間は,旧観測点が1951~1980年、新観測点が1971~2000年である。1971~80年はどちらでも観測されている。この重なった10年間に、新旧2地点で気温・降水量にどれだけの差があるのか、知りたいものであるが、この頃のチリは軍事政権の独裁が続いていて、正確な気象観測をし、その記録保存をするだけの人員が確保されていたのかどうか・・・・。
新旧2観測点のデータが正しければ,Santiago市内にステップ気候と地中海性気候の境界がある、と考えることができる。
あるいは1970年以降、Santiagoの降水量は増加した、とも考えられる。
グラフ(ア)はPadahuelのデータにもとづくグラフである。6月の気温と降水量から判定できる。したがって、(ア)は地中海性気候CsのSantiagoとなる。

3.グラフ(イ)はどこの気候か。
気温年較差が非常に小さいから、赤道直下の高山気候と判断できる。エクアドルEquadorは赤道の意味、首都は世界遺産に街全体が指定されたキトである。
雨季が2回ある。秋分・春分の頃の年2回、太陽が真上にあり、対流活動が盛んになり、スコールがあるためである。
◆理科年表2000年版。366Quito(1961~81)
00.09S 78.29W 高度2812m 
年平均気温13.3℃(13.2~13.5℃)、降水量1003.2mm
◆理科年表2002年版。177Quito Aeropuerto(1971~ 82)
  00.08S 78.28W 高度2794m
年平均気温13.7℃(13.4~13.9℃) 、降水量1044.7mm
キト空港(Quito Aeropuerto)が新観測点。経緯度のデータから西に100m移動したことが分かる。高度は18mほど下がった。平均気温は0.4℃ほど高くなった。
4月が最も降水量が多いことから、出題されたグラフはキト空港の観測値にもとづくことが分かる。
観測期間がキトは1961~1981年であるが、キト空港は1971~1982年である。2地点の観測期間には10年の重複がある。この重複期間のデータにはほとんど差がないはずである。


4.グラフ(ウ)のペルーは海岸砂漠である。
ペルー砂漠とアタカマ砂漠は、海岸砂漠である。寒流のペルー海流がチリとペルーの海岸を北上する。低温の海流のため、海面では大気下層が冷やされる。午前中は霧はできるが、降水量の記録となるほどの雨にではない。植物も生育しにくい。
寒流によってできる海岸砂漠は、ペルー海流のペルー砂漠・アタカマ砂漠以外に、アフリカ南西岸を北上するベンゲラ海流(寒流)が大西洋岸にナミブ砂漠をつくる。

5.ボリビアの首都はラパスか。
16.31S、68.11w、高度4058mである。緯度からは熱帯に属するはずだが、高度が4.000mを越え、最寒月平均気温が6.4℃であり、熱帯気候にはならない。7月の冬が乾季、1月の夏が雨季だから、Cwの区分でもよい。高山気候Hでもよい。ラパスはスペイン語の平和の意味。実質的にはラパスがボリビアの首都である。
ボリビアの憲法上の形式的首都は古都スクレ(下の写真)である。スペイン風の白い町並みが世界歴史遺産に指定されている。首都としての機能は最高裁判所があるだけである。


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第1問設問Aの総括
東大の頻出問題だが、詳細に検討すると、観測データが厳密には正しくなかったり、首都が2つあったりする。しかし、この程度のことには、入試ではこだわらない方がよい。結果的には解答が同じになるからである。















東大地理B第1問設問B

2006年09月14日 | 東京大学
東京大学2006年前期入試地理B第1問設問B

設問B 次表1は,南アメリカ6か国の農産物上位5品目を示したものである。
(1)表のカ~ケは、エクアドル、チリ、ブラジル、ペルーのいずれかである。カ~ケの国名を答えよ。



(2)サトウキビは砂糖の原料以外に、どのような用途があるか。
(3)ペルー東部のアンデス山系東斜面における土地利用の特徴を90字以内で書け。ただし、次の【 】内の語句を用いること。
 【高度 放牧 熱帯作物】   


第1問設問Cに続く

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解答
第1問設問B
(1)カ-ペルー、キ-ブラジル、ク-チリ、ケ-エクアドル。
(2)アルコール自動車の燃料用
(3)低地の熱帯雨林ではサトウキビ・バナナなどの熱帯作物、高度を増すとトウモロコシ、ジャガイモが栽培される。耕作限界より高い地域ではリャマ・アルパカが放牧の形で飼育される。
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解説
第1問設問B
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(1)
1.サトウキビ
国別に重量別順位がついているが、綿花・コーヒーなどの軽い農産物が消えてしまうので、注意が必要である。サトウキビの国別比較には有効である。(キ)の国のサトウキビ生産量は他国よりも桁外れに多い。
もともとブラジル・インドの熱帯・亜熱帯地域がサトウキビの大生産国である。ブラジルは砂糖の原料だけではなく、自動車燃料用アルコールの原料として、サトウキビの栽培を増やしている。熱帯では熱帯雨林からサバナまで、サトウキビ栽培が増加中である。他の作物で失敗した農民も熱帯に移動、サトウキビ栽培の労働者になっている。
 テンサイは砂糖大根のことであり、ヨーロッパの温帯・冷帯地域で栽培される。(ク)はテンサイの栽培が盛んなことから、地中海性気候Csと西岸海洋性気候の広がるチリであると分かる。

2.大豆
大豆とトウモロコシは、肉牛の濃厚飼料として非常に重要である。熱帯・温帯で栽培できる。大豆・トウモロコシが表に掲載されているのは、(キ)、ボリビア、アルゼンチンの4か国であり、圧倒的に(キ)の生産量が多い。(キ)はブラジルと判断できる。ブラジルの大豆は中国に輸出される。
ブラジルの大豆栽培農家は、アメリカ資本の穀物メジャー支配下にある。土地はブラジルの未開地の熱帯雨林や、日本人移民などが開墾に失敗したサバナを、安く買うが、その資金はメジャーからの借金である。大型農機具・農薬・肥料を買いカネも、穀物メジャーからの借金である。遺伝子組み換え種子の代金もメジャーからの借金である。
大豆は栽培が簡単である。ブラジルの農家は高値で買う国に輸出することはできない。メジャーが輸出先を決めるのである。メジャーは自分の会社の利益が第1、アメリカの穀物農家の利益が第2、その次がブラジルの契約栽培農家である。ブラジルの農家は大規模機械化農業でコストを下げても、利益はいくらも残らない。それにもかかわらず、さらに大豆栽培面積を増やすことで、利益の増加をねらっている。結果的に、大豆栽培農家がブラジルの自然環境の最大の破壊者となった。
ブラジルではトウモロコシ栽培も増加し、日本・韓国に輸出していたが、最近は中国への輸出が増加している。

3.バナナ(生食用)
バナナの輸出国は多い順に
エクアドル、コスタリカ、フィリピン、コロンビアである。
バナナの輸入国は多い順に
アメリカ、ドイツ、日本、ベルギー、イギリスである。
エクアドルのバナナ農場は、太平洋岸の低地に広がる。バナナ農場は、現地エクアドルの中小資本の経営である。アメリカバナナ資本には、フィリピンのバナナ農場を支配したような力はない。

4.料理用バナナ
料理用バナナは、生食用バナナより大きく、硬い緑の皮におおわれている。日本の料理用バナナの輸入量は少ないが、熱帯・亜熱帯地域では、ふだんの食事材料である。料理用バナナは、黄色く熟したものをなまで食べることはできるが、味はよくない。
バナナベルト(東南アジア・アフリカ・ラテンアメリカなどバナナ栽培地域)では、料理用バナナが、生食用バナナよりも高値で売られている。
料理用バナナは野生に近い小さいものがあるが、現在は品種改良の結果30~50cmの大きさのバナナが国際取引される。
世界全体の生産量では、料理用バナナと生食用バナナの生産量は同程度である。

5.チリの地中海式農業
首都サンチャゴ周辺の気候は地中海性気候Csであり、夏の乾燥に強いブドウが栽培される。チリのワインは、低価格であるとともに、フランス・イタリアのワインに飽きたワイン愛好者の人気を集め、輸出量を増やしている。

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(2)バイオ燃料
1.サトウキビ
自動車用燃料としてガソリン・軽油などが用いられている。石油資源の枯渇、産油国を巻き込んだ国際紛争、中国の大量輸入などのため、石油が値上がりし、石油に代わる燃料が必要になってきた。
ブラジルでは国内で大量に栽培するサトウキビからエチルアルコールを抽出し、そのアルコールを燃料とする自動車がブラジルの自動車の20%で使用されている。

2.ブラジル国営石油会社ペトロブラス
ブラジルの国策として、これまで廃棄していたサトウキビをエチルアルコール自動車燃料として、国内の石油消費量を抑制した。燃料用エチルアルコールの生産を手がけている企業の一つが、ペドロブラスである。
国内の石油需要をおさえる一方、ペドロブラスは海底油田開発を積極的に進め、年200万バーレルの生産が可能になった。


国内の石油消費量をすべてペドロブラスがまかない、さらに50万バーレル程度の輸出が可能になった。日本・中国などアジアに石油製品を輸出するため、沖縄の南西石油の製油施設を買収した。
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(3)アンデスの高度別土地利用
高度が100mだけ高くなると、気温は0.5~0.6℃低下する。低地の自然植生は熱帯雨林であり、農業に転換すると、カカオ・バナナ・サトウキビ・キャッサバなどの栽培に適する。
温帯相当の高度では落葉広葉樹林帯であり、小麦・トウモロコシの栽培に適する。亜寒帯相当の高度では針葉樹林が多くなり、大麦・ジャガイモのような耐寒作物が栽培される。
アンデス原産の農作物として、ジャガイモ、トマト、カボチャ、トウモロコシ、キャッサバなどがあり、原生種が栽培されている。
アンデスの高地で栽培限界を越えると、寒さに強いリャマ・アルパカ・羊などが放牧される。



アンデスの3,500m以上の高地には、ラクダの一種アルパカとリャマが自然の状態で生息している。高地の輸送手段としたり、毛を高級衣料として販売するため、家畜として飼育する農家も多い。
アルパカ(左手前)の毛色は1色、リャマ(右)の毛色は部分ごとに異なる。


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総括
ブラジルが深海底の油田掘削技術を開発した。アフリカ沖合の原油を次々と採掘し、アフリカへのブラジルの影響力が強くなった。また、ブラジルのリオデジャネイロ沖合でも深海底油田の掘削に成功、日本・中国への輸出を始めるところである。
ロシア・イラクの日の丸原油採掘は、どうも風向きがよくない。日産自動車のゴーンもブラジル人。何とか、日本もブラジルの油田開発に参入させてもらい、OPECやロシア、アメリカにふりまわされないエネルギー政策が必要と思うが。
ブラジルがサトウキビから抽出したアルコールで自動車燃料のいくらかをまかなったように、日本も稲ワラからのアルコールを使え、という声があるが、稲ワラ自動車の開発は高くつくから、やめた方がいい。それより、中東の貧困解消にカネを使う方が、エネルギーの安定供給になる。


   



東大地理B第1問設問C 

2006年09月13日 | 東京大学
東京大学2006年前期入試地理B第1問設問C

設問C 下表はエクアドル、ペルー、ブラジルの3か国の輸出品の構成を示したものである。
(1)ブラジルの輸出の特徴を、エクアドル・ペルーと比較しながら60字以内で述べよ。
(2)ブラジルの輸出構成の変化を生み出した、近年における産業構造の変化について、60字以内で説明せよ。 



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解答
第1問 設問C
(1) 輸出比率が高いのは、エクアドルは一次産品、ペルーは基礎金属。ブラジルは機械・輸送機器の工業製品である。
(2) コーヒーのモノカルチャー経済経済から、外資との合弁企業で、輸出指向型の鉄鋼・機械・自動車工業に変化した。
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解説
第1問 設問C
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(1)
1.エクアドルの輸出品(2003年。輸出総額60億ドル)
  原油  39.3%
  バナナ 18.2% 
  魚介類 12.6%
  切り花   4.9%
  石油製品 2.5%
問題(表2)では農産物35.3%、鉱産物37.1%となっているが、具体的輸出品は農産物はバナナと切り花、鉱産物は原油である。
エクアドルには自国通貨がなく、アメリカドルを使っている。最大の輸出先はアメリカ40.6%である。


2.ペルーの輸出品(2003年。輸出総額90億ドル)
  金  23.1%  
  銅  10.4%
  飼料  8.8%
  衣類  7.5%
  亜鉛鉱 4.9%
問題(表2)の基礎金属とは、金と銅である。ペルー国内で選鉱・精錬をして、金と銅の加工レベルを上げ、原石のまま輸出はしない。付加価値を高めて輸出している。日本では、金は非貨幣用、つまり工業用あるいは資産用金塊である。工業用とはハイテク産業の中で使用される。同程度に多いのは資産としてを金塊である。世界的にも同じ傾向である。
飼料の輸出とは、アンチョビーの魚粉を家畜の飼料として輸出することである。表2では、農産物の輸出の中に含まれる。アンチョビーは寒流のパルー海流で運ばれ、チリとペルーの漁獲量が多い。


3.ブラジルの輸出品(2003年。輸出総額731億ドル)
  自動車 7.8%
  機械  7.8%
  鉄鋼  6.9%
  大豆  5.9%
  肉類  5.6%
ブラジルはコーヒーの輸出金額は世界一であり、世界全体の32%を占める。しかし、ブラジルの経済に占める地位は低下した。農産物の中で比較しても、大豆・肉類よりも輸出額は少ない。
ブラジルはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中でも、政治・経済が安定している。

4.ブラジルの工業化
ブラジルは人口が多く、低賃金労働力が豊富である。また、発展途上国のなあって比較的政情が安定していた。1950年代にはアメリカ、ドイツ、フランス企業がブラジルに進出し、自動車の部品製造と自動車の組立生産を開始した。
日本の鉄鋼企業も、ブラジルの豊富で高品質の鉄鉱石を安定輸入するため、ブラジル企業と合弁で、イタビラ鉄山に近いイパチンガにウジミナス製鉄所(新日本製鐵)、輸出港ヴィトリアにツバロン製鉄所(川崎製鉄)が、製鉄所を建設した。
ブラジルの政権交代、石油危機でしばらく外国資本の進出が途絶えたが、1980年代からは、自動車、航空部品、小型航空機など、海外企業と合弁で付加価値の高い輸出用の工業製品を生産している。


ブラジルの日産ルノー自動車工場は、メルコスール(南米南部共同市場。アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)を新しい市場としてねらいを定め、これらの国に売れるデザインの自動車をつブラジル工場で生産した。日産がフロンティア、ルノーがマスターである。  
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総括
この入試問題の難度をあげるため、エクアドル・ペルー・ブラジルの個々の輸出商品をあげず、農産物・鉱産物・基礎金属・輸送機器のような、抽象的区分の統計(表2)を用いている。
エクアドルの農産物ならばバナナ、ペルーの基礎金属ならば金と銅、ブラジルの輸送機器となれば外資系の自動車となる。これに気づけば簡単な問題で、あとは作文力ということになる。
このような抽象的商品区分の表から具体的商品を推察するのは、並みの大学受験生のレベルでは難しい。やっぱり東大の問題である。
(2)予備校・出版社の解答例では、ブラジルの経済自由化が始まってから鉱工業が発展したかのように書かれているが、これは誤り。
ブラジルが外資を規制したのは1960年代に軍部が政権を掌握した一時期だけであり、戦後、ほぼ一貫して外資導入に積極的であった。


東大地理B第2問設問A

2006年09月12日 | 東京大学
東大入試2006年前期地理B第2問設問A

第2問 森林と木材について
設問A 次の表1は、いくつかの国の森林と木材生産についてまとめたものである。表1中のa~eは、インドネシア、カナダ、タイ、ニュージーランド、フィンランドのいずれかである。a~eの国名を答えよ。




第2問設問Bに続く
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解答 第2問設問A
a-フィンランド 
b-インドネシア
c-ニュージーランド
d-タイ
e-カナダ
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解説 第2問設問A
ラワンとは熱帯に多いフタバガキ科の総称である。
1.フィンランドは針葉樹林(タイガ)が広く分布する。
フィンランドの森林率は72%。主要国では最も高い。森林以外には氷河湖(スオミ)や氷河堆積物(モレーン)が多く、耕地に適した土地は7.2%だけである。高緯度のため、森林のほとんどは針葉樹林帯(タイガ)である。フィンランドは木材の付加価値を高めるために、紙に加工して輸出する。
◆フィンランドの輸出品(輸出額525億ドル)。
  電気機械 23.5% 
  紙 類    17.4%
  一般機械 11.9%
  鉄 鋼    11.9%
  石油製品  3.4%
 電気機械が一番多いのは、携帯電話の世界最大のメーカーノキア社の業績拡大を反映した結果である。しかし、コンピューターや携帯電話の、技術と価格の国際競争は非常に激しい。

2.インドネシアでは薪炭材の割合が高い。
マレーシアとインドネシアの木材事情はほぼ同じである。貧しくて、電力・石油・ガスを使えない者は、森林の樹木を切り倒して燃料とする(薪炭材)。
燃料としての樹木を買う人、売る人だけではない。運ぶ人もいる。

◆インドネシアの林業の特徴。
①熱帯雨林が大半を占め、針葉樹は存在しない。
②1980年代に日本にラワン材を丸太のまま安く輸出していたが、木材資源を保護するためと、輸出価格を高めるため、製品に加工して輸出する割合が増えた。建築材・合板だけではなく、紙の輸出量も増加した。
③輸出用木材を伐採する面積は広くない。伝統的焼畑農業として森林を焼き払ったり、プランテーション農場の拡張の方が、森林伐採の面積よりも広い。
④インドネシアではジャワ島への人口集中をおさえるため、熱帯雨林地帯への移住を奨励している。移住者は熱帯雨林を焼却して、その跡地を開墾して、商品作物を栽培する。

3.ニュージーランドの気候はCfbだが,冷帯林タイガが分布。
気温年較差はウェリントンで7.9℃。夏は涼しく、冬は暖かい。夏は涼しいというより、肌寒いような気温である。ウェリントンの2月(南半球の夏)は16.7℃であり、広葉樹は生育せず、針葉樹がほとんど全部となる。
7月(南半球の冬)は8.8℃であり、冬でも羊の野外飼育が可能である。羊は針葉樹に囲まれた通年牧場で飼育される。在来種コリデールなので、野外飼育に強いのであろう。


4.タイの森林率は今も昔も30%である。
タイは熱帯・亜熱帯にあり、全部が広葉樹であり、針葉樹はない。低地の森林は水田に転換されて、森林は存在しない。
1961年の第1次国家開発計画で、輸出用作物栽培が奨励された。これまでの自給用タロイモに替えて、輸出用作物としてキャッサバ(タピオカの原料)、ジュート、サトウキビが栽培された。
日本で牛丼ブームが起こった時、紅ショウガが大量に使われた。タイの山間地の農家が日本向けのショウガ栽培を始めた。栽培は簡単だが連作ができず、農地の荒廃を引き起こした。
山間地の農家は、韓国・日本向けの、朝鮮人参の栽培に手を出した。収穫まで5年、そしてそのあと5年は何も生えなかった。農地は荒れた。農地を荒廃させたが、森林率は下がらなかった。
タイの森林面積は1960年代には30%、2000年には29%とほとんど変わらない。高価な木材、例えばチーク材、黒檀、紫檀などの部分的盗伐はなされたが、森林率を大きく減少させるような、木材の大量伐採・大量輸出はなかった。


5.カナダの林業はブリテッシュコロンビア州中心。
アメリカ・中国・日本の3大木材輸入国は、カナダが最大の輸入先である。カナダ連邦政府は、熱帯林の自然破壊が激しかったように、カナダの針葉樹林(タイガ)の破壊を恐れている。しかし、ブリテッシュコロンビア州当局は、自然破壊は起こりえないほどの木材資源があるとして、針葉樹の輸出を許可した。かつては丸太のまま輸出していたが、現在は付加価値を高めるため、板・柱などを注文通りに大きさに裁断して輸出している。住宅1戸分の建材をコンテナに収納して、鉄道・トラック・船などを使い、海陸一貫輸送体制の形で輸出することも多い。
カナダ連邦政府はブリテッシュコロンビア州と協力し、連邦政府と州当局とが、森林の計画的伐採をして、「持続可能な開発」をめざしている。






東大地理B第2問設問B

2006年09月11日 | 東京大学
東京大学2006年前期地理B第2問設問B

設問B 日本の森林の4割は人工林である。下の図は、植林してからの年数を5年ごとに区分した日本の林齢別の人口面積の推移と、日本の木材供給量の推移を示したものである。
(1)1960年代以降の各年に植林された面積の変化を30字以内でのべよ。
(2)1980年代以降の人工林の伐採面積と人工林の林齢の動向について、60字以内で述べよ。
(3)人工林の林齢別面積が2002年にこのような形になった理由について、次の語句を使用して、90字以内で述べよ。
 【輸入自由化  木材価格】




第2問設問Cに続く
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解答設問B
(1)1960年以降は毎年植林の積が減少し、その減少割合も増大した。
(2)植林が大きく減少したので、若い林齢の森林面積が減少した。老林齢の森林伐採が進まず、老林齢の森林面積が増加した。
(3)1960年に木材の輸入が段階的に自由化されると、海外からは木材価格の安い木材が大量に輸入され、。安価な外国材の供給量が増えた。国産材は人件費・輸送費が高く、木材価格が高く、外国産材に対抗できなかった。
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解説
設問B
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(1)
1.木材の段階的輸入自由化(1960~69)
◆人工林の植林のグラフについて
1960年に植林した森林面積を、分かりやすいように緑色で示す。60年林は伐採適齢期を過ぎても、伐採されずに残っている。また、60年林以降は、新たな植林面積が減少し、その減少割合も大きいことが分かる。つまり、60年をピークにして、植林も伐採も減少し、国産材の使用量が減っている。
◆国産材・外国産材供給量推移のグラフについて
グラフ内の斜線は単なる装飾であり、何の意味もない。しかし、国産材と外国産材の斜線の連続・不連続で、何らかの意味のありそうな斜線に見える。非常にまずいグラフである。
このグラフは木材価格の高い国産材の供給量が減り、木材価格の安い外国材の供給量が増えたことを示すグラフである。斜線は不要な装飾である。
1960年代から日本では、木材の輸入自由化が拡大し、それに歩調を合わせ、外国産材の輸入が増加した、というグラフである。

2.フィリピン産ラワン
ラワンとはフタバガキ科の総称である。高木・硬木であり、現地では利用されなかった。日本でラワン丸太を輸入して、建材用合板をつくった。
1960年代の最大の輸入先はフィリピンであった。フィリピン産の安価なラワン丸太を、日本国内の製材工場でベニヤ(合板)に加工した。日本産木材よりもはるかに安くて丈夫なので、建築材料として盛んに使われるようになった。しかし、フィリピン産ラワンは、1960年代末には伐採可能な沿岸地域では枯渇して、日本の大量輸入は困難になった。

3.インドネシア産ラワン
1970年代はインドネシアのラワンを丸太で輸入し、日本国内で加工した。価格が安い上に、厚さ・大きさが自由自在であった。さらに表面にプラスチック薄膜をはり合わせ、さまざまの模様の新建材もつくられた。新建材は火災の時には強い有毒ガスを発生させる危険があっても、日本国内では大流行した。インドネシア産ラワンが枯渇して輸出価格が上がると、日本の製材業者は輸入先をマレーシアに変えた。


4.マレーシア産ラワン
1980年代に、ASEANの工業化が始まった。マレーシアは最初のうちはラワン原木(丸太)を日本に大量に輸出していたが、マレーシア国内の木材関連産業の工業化を進めるため、日本への輸出量を急激に減らした。
日本の木材加工業者にマレーシアに進出するように求めた。いつくかの日本の加工業者がマレーシアに進出、工場を建設した。マレーシアで合板・建材が大量に生産されて、日本に輸出された。マレーシア側の収入は、丸太の輸出よりは確実に増えた。しかし安価なマレーシア産の合板・建材の輸入増加のため、日本国内の木材加工業の多くは倒産廃業となった。
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(2)日本の森林の荒廃
1.森林の高齢化、林業労働者の高齢化
植林もしないが、伐採もしない、放置されたままの森林割合が増えた。40年前後の一番価値のある木材を伐採売却しても赤字であった。
一方、森林労働者は木材価格の低下のため、森林を放置したまま、他の仕事に従事する方が、現金収入が多かった。国産材価格の低下は、安価な輸入木材のためであり、林業労働者の努力では解決できる問題ではなかった。


2.国有林野事業の赤字
国有林は営林署の管理であった。林業従事者を雇い入れて植林・伐採・森林の手入れをして、国有林を守り、高品質の木材を国内市場に供給してきた。
しかし、1960年代に山村の過疎化が急激に進んだ。山村の林業労働者は都会の工場労働者として高い賃金を得ていた。営林署の雇う森林労働者が急激に減った。
営林署は林業の合理化のために観光道路兼用のスーパー林道を全国に建設し、作業の機械化を試みたが、林道建設は自然破壊そのものと厳しく批判され、林道建設は中途半端に終わった。国有林野事業の壮大なムダであった。
手入れのされない国有林は荒廃し、樹木の価値は低下した。国有林野事業は大きな赤字をつくった。営林署は統廃合され、ますます国有林の管理が困難になった。



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総括
グラフの斜線が悪い。誤解の原因になる。
日本の材木の値段が高いのは、1本2本ずつヘリコプターで運ぶからである。苗は道路がなくても背負って運べたが、50年後、成木は背負っては運べないのである。長期的視点を欠いた、戦後日本の林野行政の結果、日本の森林は荒廃した。特に、建築材を生産する人工林が荒廃した。

  






東大地理B第2問設問C

2006年09月10日 | 東京大学
2006年東京大学前期入試地理B第2問

設問C 日本は木材の8割を輸入している。下の図のように、木材輸入量の中ではチップ(木材チップ)の輸入量がきわめて多い。チップに関連し、各問いに答えよ。
(1)チップの主たる利用目的は何か。一つ答えよ。
(2)その目的のため、かつて丸太で供給されていたが、供給形態が丸太からチップに変化した理由を、60字以内で述べよ。



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解答
第2問設問C
(1)紙の原料
(2)木材輸出国は天然林護のため、人工林を造成し、その木材を伐採してチップに加工し輸出する。大型専用船で安価な輸送が可能である。
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解説
1.チップの統計
2001年木材統計、農林水産省の木材統計から、チップが消えた。残るのはJETROの「アグリビジネスブック」だけである。
チップはチップ製造専用機で木材・古材をつぶして、5cm程度の長さにそろえたものである。針葉樹・広葉樹のどちらからでもつくることができる。古くは人絹原料にもなったが、現在はほとんどが製紙用パルプ原料である。まれにコンクリートの舗装道路にパルプを混ぜ込んで、歩きやすくすることがある。競馬場のコースに使われることもある。
量的には99%が製紙用、つまりパルプ原料である。



2.日本のチップの輸入量推移
チップの輸入依存率は1990年には53%であったが、2005年には72%に上昇した。製紙用に丸太を輸入し、日本国内でチップに加工していたのをやめ、チップそのものを輸入するようになったのである。
輸出国側にとっては、製紙用に丸太を輸出するよりは、チップを輸出する方が付加価値が高い。チップの製造は機械を日本から輸入設置すると、操作は簡単である。
輸入国側(日本)にとっては、丸太を輸入すると、輸送船にすき間が空きすぎ、空気を運ぶ割合が高い。コストが高くなる。また、木材運搬船は荒天でしばしば荷崩れを起こして丸太を廃棄したり、船が転覆したりする。
現在は、チップ専用船を使い、日本の製紙工場が必要な時に、必要な量を運ぶ体制ができている。

東海商船東海丸24394トン(パルプ専用船)
チップの積み下ろしは、大型パイプで船と陸とをつなぎ、送風機でチップを送る。


輸入木材は7~8割で推移し、木材価格の高い国産材は少なくなった。さらにチップの輸入量は上昇する一方で、製紙用丸太の輸入は減少傾向が顕著である。



3.チップの輸入先
チップの年間輸入量は1300万トン、輸入金額は2000億円である(2004年)。7割以上を輸入に依存し、そのほとんどは製紙用のパルプ原料になる。


◆オーストラリア
オーストラリアのチップは全部日本向けの輸出である。年間輸出量は477万トンである。オーストラリアには日本の製紙関連会社が長年ユーカリやポプラのような成長速度のはやい樹種を植え、その木材チップを日本に輸出している。
この日本企業の植樹のあり方に対しては、本来のオーストラリアの生態系を壊す、という批判がある。
オーストラリアで日本企業の植えた樹木が二酸化炭素を吸収すると、その分を日本国内の二酸化炭素減少量とみなすことができる(京都議定書)。
日本の製紙企業にとって、製紙原料のチップを安定確保できるし、二酸化炭素の削減とみなされるし、オーストラリアにおける植林とそのチップ輸入は、実にうまい話、できすぎの話である。将来、天罰のありそうな話である。
日本で二酸化炭素を削減せずにオーストラリアで植樹して、日本の温室効果ガスが削減できるのではない。地球全体を考えると、そのようなことがあるかもしれないという程度の根拠にもとづいているのである。
◆南アフリカ
南アフリカのチップは全部日本向けである。オーストラリア同様、日本の製紙企業の植林地の木材からチップをつくり、日本に輸出する。日本企業は京都議定書の二酸化炭素6%削減の義務をクリアーするとともに、安価なチップを輸入し、紙の生産コストを下げることができる。
◆チリ
日本の製紙企業かその関連子会社が、チリの草原地帯にユーカリを植林し、それをチップにして、日本へ輸出する。チリのチップ輸出は全部日本向けである。日本企業は、チリに植林して二酸化炭素を吸収させたことになる。日本国内で二酸化炭素6%の削減義務を、チリの植林で代行してもよいのが、京都議定書のルールである。
日本に製紙会社にとっては、二酸化炭素の6%削減ができる。また、安価なチップの輸入で製紙コストを下げることもできる。

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総括
環境問題を考えるための良問である。
2006年の入試には直接関係はないが、地球温暖化をとめるためには京都議定書は役立たないと批判して、京都議定書から脱退したのがアメリカ。京都議定書を批准せずにもっと先を行くと宣言したのが、オーストラリアである。
日本は京都議定書の、例外的手段としての逃げ道、排出権取引にすべてをかけている。チップの輸入から、環境問題についての各国の姿勢が見える。



東大地理B第3問設問A

2006年09月09日 | 東京大学
2006年東京大学前期入試地理B第3問

第3問 世界と日本の産業の地理的変化に関する設問に答えよ。
設問A 表1、表2はパソコンの生産と利用についてまとめたものである。
(1)パソコンの生産ではアジアの生産割合が高い。表1の生産国は、いずれもアジアである。abcの国・地域名を答えよ。
(2)表1で、1977年には770万台を生産していた日本が、シンガポールとともに減少傾向にある。日本の生産が減少した理由を、60字以内で述べよ。

  



(3)表2は、主要国の国民所得とパソコン普及率を示している。この表から、国民所得とパソコン普及率とには、ある程度の相関がある。しかし、韓国とマレーシアとは所得が低いが、普及率は高い。その理由として、両国に共通することを60字以内で述べよ。なお、次の【 】の語句をすべて使用すること。
  【 経済発展 人的資源  政府 】  

  

第3問設問Bに続く
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解答  
第3問設問A
(1)a-中国  b-台湾  c-マレーシア
(2)パソコンの研究開発は知識集約型だが、大量生産は単純な労働集約的産業であり、低賃金の国・地域に生産を集約する。
(3)両国政府は、将来の経済発展の中心は情報産業にあるとし、人的資源の育成を進めているから、パソコン普及率が高い。
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解説 第3問設問A
(1)パソコンの生産量2005年(かっこ内は2002年)。単位万台。
中国=15349(5903) 
台湾=981(3731) 
韓国= 551(904)
日本= 484(577) 
マレーシア=259(473)
シンガポール= 85(145)
外資が中国人低賃金を使い、安いコンピューターを大量生産するようになった。
さらに中国最大のパソコンメーカーの聯想集団有限公司が、2004年12月に、アメリカ最大のIBMパソコン事業を買収した。中国ブランドのパソコンが世界支配をする時が近づいているのかもしれない。
    


(2)中国以外の国はパソコン生産量が落ち込んだ。韓国・マレーシアもパソコン生産量が減り、中国の一極集中になった。
中国の低賃金による組立が最も経済的に有利だからである。
コンピューターの新規開発はハイテクそのものだが、生産は単純労働、いわゆるローテクである。ラジオ・TVの組立単純作業と大差がない。

(3)韓国とマレーシアのコンピューター普及率が高い。韓国では、国策としてのコンピューター産業の育成、それに必要な人材の育成が行われているからである。
しかし、韓国の青少年へのコンピューター普及は、オンラインゲームへの参加が大きな理由であり、先進国のようなコンピューターによる商取引の段階には達していない。

◆マレーシア
1999年7月8日、マレーシアの首都クアラルンプール近郊に、アジアのシリコンバレーともいうべき、ハイテク産業都市「サイバージャヤ」がオープンした。サイバージャヤは、マレーシアが国家プロジェクトとして進めている新しい首都建設計画「マルチメディア・スーパーコリドー計画」(MSC)の一つである。MSCは、クアラルンプールから南に高速道路で30分(30キロ)ほどのところにある、縦15キロ、横50キロの、丘陵地域である。
この地域内に、インターネット・電話の高速回線を張りめぐらせ、金融取り引きから役所への申請まで、政府と民間の業務を、マルチメディアによって行おうとする計画である。
マレーシアの首都機能のほとんどや、大学などの研究施設が、ここに移転してくるほか、アジア屈指の新空港や、世界一高いビル「ペトロナスタワー」も完成している。
MSCでは、マレーシアの従来の法律(イスラム教徒最優先、英語教育制限)ではなく、今後の情報化社会に即した、新しい法律を実験的に使っていくことも計画されている。マレーシアは新首都を、情報化社会にどんな法律がふさわしいか、という世界的な実験場としても、位置づけようとしている。
新首都のビジネス地区が、サイバージャヤである。
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総括
どこの国も情報化社会に遅れないように、国策としての情報産業が育成されている。マレーシアの政策は、復古主義者の顔を逆なでするようで、イスラム原理主義者の餌食にならないことを祈るばかりである。

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ここから先は東大入試と一応は無関係。


マレーシアの国営石油会社ペトロナスがカネを持て余して、世界1高いビル「ペトロナスタワー」452mを建設した。日本の間組が1棟、もう1棟を韓国のサムソン建設がつくった。オフィスビルである。
韓国の方は暗い感じで、賑やかさに欠け、ビルがわずかに傾いているとかの噂もある。
間組建設の1号ビルだけが明るく賑わっている。
アメリカの9.11テロで破壊された貿易センタービルに何となく似ている。
貧困なイスラムを考えない贅沢さとか、手抜き建築の斜塔はカトリック風だとか、理由をあげると、いくらでもテロの標的になりそうな高層ビルである。


東大地理B第3問設問B(不適切な問題)

2006年09月08日 | 東京大学
2006年東京大学前期入試地理B第3問

第3問設問B
表3は、東北地方と九州地方で、それぞれ3県を取り上げ、高校卒業生の就職先の変化をみたものである。どの県でも高卒就職者数は減少しているが。就職先には共通の傾向がある。(1)(2)(3)の各問いでは、次の【 】内の語句を用いて、指定された字数で述べよ。

【 一極集中  企業誘致  経済成長  工業化  高速道路  国際化 サービス経済化 情報化 商業  新幹線  地方中核都市  都市開発 】


(1)東北地方。
東京圏への就職者の割合が減少し、県内の就職者が増加している。この変化の理由を、60字以内で述べよ。
(2)九州地方。
東京圏への就職者数は1980年~1990年に増加し、1990年~2000年には減少した。1980年代に東京圏への就職者数が増加した理由を、60字以内で述べよ。
(3)東北地方では宮城県への就職者数が増加傾向にある。九州地方では福岡県への就職者数が増加傾向にある。このような変化の理由を90字以内で述べよ。



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解答
第3問設問B
(1)高速道路沿いに企業誘致が進められ、低賃金労働力を必要とする半導体産業を中心に工業化が進み、雇用機会が増えたから。
(2)情報化、国際化は東京への一極集中となり、高速道路・新幹線建設の遅れた九州地方から東京圏への就職者数が増えたから。
(3)地方中核都市は高速道路・新幹線の開通とともに都市開発が進められ、商業機能が強化され、サービス経済化が進んだ。仙台・福岡は大企業・公的機関の地方の中核となり、雇用の機会が増えたから。

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解説
第3問設問B
(1)東北地方。
1980年代、東北地方の農山村では過疎化を食い止めるため、市町村による企業誘致が熱心に進められた。高速道路とそれにつながる産業道路、工業用水、港湾、住宅団地、工業用地造成などの産業基盤整備が進められた。さらに進出企業には土地代や税金の優遇策もあった。東北地方の低賃金に注目した、労働集約的なエレクトロニクス関連企業が、東北地方に進出した。
自宅から通勤できる工場に、高卒就職希望者が殺到した。工場側は、農繁期に休日を集めたり、夜勤で農業と工場の両立を可能にしたりした。
◆東北地方に工場が大量に進出したのは、ハイテク産業が低賃金労働力を大量に必要とした。農業と両立できる地元企業が人気を集めた。東京や仙台に行かなくても、自家用車で30分以内で通勤できる工場で働くことができた。
しかし、韓国などNIEsの安価な製品には勝てず、工場の多くは生産拠点を絞り込んだり、ASEAN諸国や中国に工場を移転したりした。21世紀に残った工場は、第3世界程度の驚くほどの低賃金で、しかも契約社員あるいは派遣社員の形であった。

(2)九州地方
大阪圏の経済力衰退により、九州には新たな工場の立地が少なかった。半導体工場が九州各空港近くにでき、一時はシリコンアイランドともてはやされた。空港からは航空機で、製品が東京圏に運ばれた。九州では半導体を結びつけた部品、製品をつくる工場はできなかった。それに半導体工場は設備をフル稼働するために夜勤や休日出勤も多いし、仕事も単調であった。九州では半導体の生産で終わりであり、それも高卒就職者には人気がなかった。
1990代、日本の半導体生産は、生産計画の国家的ミスで、韓国との競争に負けてしまった。高卒就職者は、東京あるいは大阪へ向かった。統計上は地元就職率が高いが、実数では減少している。その他の大部分は大阪である。

(3)高校卒業者は東京圏・大阪圏で暮らせるだけの賃金をもらうことはできない。就職してなお親からの仕送りが必要である。自宅から通う工場がなければ、仙台市あるいは福岡市に就職する。何とか自活できる程度の、地方中枢都市である。

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統計のウソ。出題者の意図的操作。
各県とも%では県内就職者数の割合は高くなった。しかし、実数を計算すると、県内就職者数は、東北地方も九州地方も一貫して低下している。%で地元への就職が増えた、と言うのは正しくない。
高卒者は地元にロクな職場がないので、専門学校や大学に進んでいるのが実態である。地元の誘致企業に就職する人数は減少している。理由は、低賃金、夜勤、単純作業だからである。
各県の地元就職者実数は、
1980年、1990年、2000年の順に並べる(単位千人)。

岩手県  6.67  6.13  3.97 
秋田県  6.50  5.36  3.00
山形県  7.00  6.10  3.85

長崎県  6.78  5.61  3.70
熊本県  8.77  6.78  4.27
鹿児島県 6.62  4.90  4.90

以上のとおり。一度も地元に高卒就職者数が増えたことはない。
誘致企業は高卒就職者には満足できる職場ではない。第3世界に進出するのと同様、低賃金と優遇税制を目当てに進出したのである。日本の若者を集めることができない。
それに若者には地元に埋もれたくない。東京、大阪、せめて仙台、福岡で暮らしてみたい、という気持ちも強い。
第3問設問Bは入試問題として成り立たない。数字の操作だけの出題であり、現実の地方企業と就職状況を無視した作問である。