
ジャズの有名な器楽演奏に、そのアドリブ部分も含めて歌詞をつけて歌ってしまうというのがある。これがヴォーカリーズだが、そのヴォーカリーズを語るとき、まず最初に上げられるのが「I'm In The Mood For Love」という曲だ。
「On The Sunny Side Of The Street」、「Exactly Like You」、「I Can Give You Anything But love」などを書いたドロシー・フィールズとジミー・マクヒューのヒット・コンビが、映画「夜毎八時に」(Every Night At Eight)の主題歌として提供したものだ。ジョージ・ラフト、アリス・フェイ、フランセス・ラングフォードが出演した35年の作品(ラオール・ウォルシュ監督)で劇中ラングフォードが歌ったという。
エラ・フィッツジェラルド、ローズマリー・クルーニー、ナット・キング・コールなどが得意にしていたが、この手の悩ましい歌はジュリー・ロンドンにピッタリ(笑)。ギターのバーニー・ケッセルとレイ・レザーウッドのベースだけのシンプルな伴奏で夜のムード満点の歌いっぷりである。全体のテンポをキープするベースと合間を縫うように入るきめ細かなギター・ワークも素敵だ(55年)。
こんな感じの甘ったるいバラードで、正直、どうってことはないラヴ・ソングなのだが、他の映画にも使われたりしているうち、次第にとりあげるアーティストが増えていき、遂にはスタンダード曲の一角を占めるまでになってしまった。人はやはり甘美な歌が好きだということなのだろう。
で、ヴォーカリーズだが、49年にサックス奏者ジェームズ・ムーディがスウェーデンのストックホルムでこの曲を録音した。元々、セッションの一番最後にもう一曲録ろうと言われて演奏したものだったらしい。これが名演と評され、後に「Moody's Mood For Love」という別のタイトルがつけられるほどとなる。
この後、エディ・ジェファーソンが、ムーディの素晴らしいアドリブのパートに歌詞をつけて歌ったところ、これを聴いたキング・プレジャーが気に入り、ジェファーソンの許可もないまま(笑)、52年にはさっさと女性歌手ブロッサム・ディアリーと録音してヒットさせてしまった。
ジェファーソンの「Moody's Mood For Love」の歌詞は「There I go, there I go...」と始まるが、当然ながらこれは蚤助の手には負えない。ただ、ところどころに「Heaven is in your eyes..」、「Why stop to think of whether...」、「We've put our hearts together...」など、ドロシー・フィールズが書いた元歌の歌詞が顔を出しているようだ。
ヴォーカリーズの開祖は、キング・プレジャーと言われたりするのも、こうした事情からくるものだ。すっかり出し抜かれてしまったジェファーソンの方は、30年代からヴォーカリーズの試みをしていたというから、彼がヴォーカリーズの元祖であることは間違いない。だがこのジェファーソンはどこまでもツキのない男で、ようやく人気が高まってきたころ、彼に共演を断られた男にピストルの弾丸を4発浴びせられあえなく最期を遂げてしまう。79年5月のことであった(享年60歳)。
この「Moody's Mood For Love」もアレサ・フランクリン、ジョージ・ベンソンをはじめ、エイミー・ワインハウスなど多数のアーティストがカヴァーするようになっている。
元々、ジェームス・ムーディのオリジナル演奏はチャーリー・パーカーの影響を強く受けたものだが、そのパーカーも「I'm In The Mood For Love」を録音している(50年)。発表当時、大きく賛否が分かれたウィズ・ストリングスである。確かにふくよかさに欠けるアレンジやストリングスなど粗が目立つ問題作だが、嬉々として吹きまくるパーカー自身のサックス・プレイは素晴らしい。
「On The Sunny Side Of The Street」、「Exactly Like You」、「I Can Give You Anything But love」などを書いたドロシー・フィールズとジミー・マクヒューのヒット・コンビが、映画「夜毎八時に」(Every Night At Eight)の主題歌として提供したものだ。ジョージ・ラフト、アリス・フェイ、フランセス・ラングフォードが出演した35年の作品(ラオール・ウォルシュ監督)で劇中ラングフォードが歌ったという。
エラ・フィッツジェラルド、ローズマリー・クルーニー、ナット・キング・コールなどが得意にしていたが、この手の悩ましい歌はジュリー・ロンドンにピッタリ(笑)。ギターのバーニー・ケッセルとレイ・レザーウッドのベースだけのシンプルな伴奏で夜のムード満点の歌いっぷりである。全体のテンポをキープするベースと合間を縫うように入るきめ細かなギター・ワークも素敵だ(55年)。
I'M IN THE MOOD FOR LOVE (1935)
(Words by Dorothy Fields / Musaic by Jimmy McHugh)
I'm in the mood for love, simply because you're near me
Funny, but when you're near me, I'm in the mood for love
Heaven is in your eyes, bright as the stars we're under
Oh, is it any wonder that I'm in the mood for love?
Why stop to think of whether this little dream might fade?
We've put our hearts together, now we are one, I'm not afraid
And if there's a cloud above, if it should rain, we'll let it
But for tonight forget it, I'm in the mood for love...
ただあなたがそばにいるだけで 私はすっかり恋の気分
あなたの瞳の中には天国がある 星のように輝いている
恋してる気分になるなんて不思議じゃない?
この夢が覚めないか考えるのは止めましょう
私たちは一心同体 恐れるものは何もない
空が曇ろうと 雨が降ろうと
今夜はどうでもいい だって恋した気分なんだから...
(Words by Dorothy Fields / Musaic by Jimmy McHugh)
I'm in the mood for love, simply because you're near me
Funny, but when you're near me, I'm in the mood for love
Heaven is in your eyes, bright as the stars we're under
Oh, is it any wonder that I'm in the mood for love?
Why stop to think of whether this little dream might fade?
We've put our hearts together, now we are one, I'm not afraid
And if there's a cloud above, if it should rain, we'll let it
But for tonight forget it, I'm in the mood for love...
ただあなたがそばにいるだけで 私はすっかり恋の気分
あなたの瞳の中には天国がある 星のように輝いている
恋してる気分になるなんて不思議じゃない?
この夢が覚めないか考えるのは止めましょう
私たちは一心同体 恐れるものは何もない
空が曇ろうと 雨が降ろうと
今夜はどうでもいい だって恋した気分なんだから...
こんな感じの甘ったるいバラードで、正直、どうってことはないラヴ・ソングなのだが、他の映画にも使われたりしているうち、次第にとりあげるアーティストが増えていき、遂にはスタンダード曲の一角を占めるまでになってしまった。人はやはり甘美な歌が好きだということなのだろう。
で、ヴォーカリーズだが、49年にサックス奏者ジェームズ・ムーディがスウェーデンのストックホルムでこの曲を録音した。元々、セッションの一番最後にもう一曲録ろうと言われて演奏したものだったらしい。これが名演と評され、後に「Moody's Mood For Love」という別のタイトルがつけられるほどとなる。
この後、エディ・ジェファーソンが、ムーディの素晴らしいアドリブのパートに歌詞をつけて歌ったところ、これを聴いたキング・プレジャーが気に入り、ジェファーソンの許可もないまま(笑)、52年にはさっさと女性歌手ブロッサム・ディアリーと録音してヒットさせてしまった。
ジェファーソンの「Moody's Mood For Love」の歌詞は「There I go, there I go...」と始まるが、当然ながらこれは蚤助の手には負えない。ただ、ところどころに「Heaven is in your eyes..」、「Why stop to think of whether...」、「We've put our hearts together...」など、ドロシー・フィールズが書いた元歌の歌詞が顔を出しているようだ。
ヴォーカリーズの開祖は、キング・プレジャーと言われたりするのも、こうした事情からくるものだ。すっかり出し抜かれてしまったジェファーソンの方は、30年代からヴォーカリーズの試みをしていたというから、彼がヴォーカリーズの元祖であることは間違いない。だがこのジェファーソンはどこまでもツキのない男で、ようやく人気が高まってきたころ、彼に共演を断られた男にピストルの弾丸を4発浴びせられあえなく最期を遂げてしまう。79年5月のことであった(享年60歳)。
この「Moody's Mood For Love」もアレサ・フランクリン、ジョージ・ベンソンをはじめ、エイミー・ワインハウスなど多数のアーティストがカヴァーするようになっている。
元々、ジェームス・ムーディのオリジナル演奏はチャーリー・パーカーの影響を強く受けたものだが、そのパーカーも「I'm In The Mood For Love」を録音している(50年)。発表当時、大きく賛否が分かれたウィズ・ストリングスである。確かにふくよかさに欠けるアレンジやストリングスなど粗が目立つ問題作だが、嬉々として吹きまくるパーカー自身のサックス・プレイは素晴らしい。
いちばんのムード演出月明かり 蚤助
この作品でも、ヴァリと彼らのヒット曲のほとんどを書いたメンバーのボブ・ゴーディオと出会うきっかけとなるのがこの「I'm In The Mood For Love」(Moody's Mood For Love)として描かれていました。蛇足ながら、あらためてなるほどと思った次第です。