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#736: 恋をしたみたい

2016-03-06 | Weblog
 「マイ・フェア・レディ」は傑作ミュージカルだ。しかし、である。音楽を担当したアラン・ジェイ・ラーナーとフレデリック・ロウ、すなわち「ラーナー&ロウ」として知られるソングライター・コンビが、アーヴィング・バーリンやジェローム・カーン、あるいはジョージ・ガーシュウィン、コール・ポーターなどとは違って、ミュージカルに新風を吹き込んだと評価されることはおそらくないだろう。二人はどちらかといえば19世紀的な作家コンビであり、ウィーン、あるいはオペレッタ風の作品ばかり発表したからである。少なくともバーリンやガーシュウィンのようにジャズやブルースといった新しい音楽を取り入れることは全くなかった。

 さらに、彼らはミュージカルに現代風の物語を取り入れることにもあまり関心を示さなかった。彼らの「ペンチャー・ワゴン」(Paint Your Wagon)は、カリフォルニアのゴールドラッシュを題材としていた。その後、大ヒットした「マイ・フェア・レディ」「キャメロット」、映画「恋のてほどき」は、それぞれエドワード七世時代(20世紀初頭)のロンドン、アーサー王時代のコーンウォール、20世紀初頭のパリが舞台であった。

 誤解をしてはいけないが、蚤助は彼らを古臭いソングライターだと言っているわけではない。何しろ他に類を見ないエレガントなミュージカル「マイ・フェア・レディ」を世に送り出したチームなのだから。極端なハナシ、この完璧な一作を生み出しただけでも、このコンビは後世に長く語られる資格があるといってもよいほどだ。とはいえ、この二人が初めてブロードウェイで大当たりをとった「ブリガドゥーン」(47)にしても、百年に一度だけ出現するスコットランドの不思議な村を幻想的に描いていて、やはり現代風の物語とは言えない作品であった。

 当初はプロデューサーが見つからず開演に至るまで難航したらしいが、舞台セットを思い切って豪華にし、バレエの振付けも加えたことが功を奏し、長期公演に成功、ベスト・ミュージカル賞を受賞した。この中で披露された主題曲といってもよいのが「Almost Like Being In Love」(恋をしたみたい、恋をしたようだ)という曲だった。ブロードウェイではデヴィッド・ブルックスとマリオン・ベルが歌ったそうだが、57年にヴィンセント・ミネリの手で映画化されたときは、主演したジーン・ケリーによって歌われた。ちなみに、よくアステアと比較されるケリーだが、ご承知の通り、ダンサーというより体操の選手もしくは軽業師のようなケリーと優雅で洗練されたアステアでは芸風が全く異なる。蚤助はどちらのダンスも好きなのだが、歌の方は断然アステアの方に軍配を上げたい。余談だが、故・向田邦子はケリーのダンスを「真面目すぎて遊びがない」と評していて、歌の方も何を歌ってもつまらない、と考えていた節がある(笑)。

ALMOST LIKE BEING IN LOVE (1947)
(Words by Alan Jay Lerner / Music by Frederick Loewe)

What a day this has been, what a rare mood I'm in
Why, it's almost like being in love
There's a smile on my face for the whole human race
Why, it's almost like being in love

All the music of life seems to be like a bell that is ringing for me
And from the way that I feel when that bell starts to peal
I could swear I was falling, I would swear I was falling
It's almost like being in love...

なんて日だったんだろう なんて特別な気分だろう
なぜだろう 恋をしているみたいだ
全ての人に 笑顔を向けたくなっちゃう
なぜだろう 恋をしているみたい

この世の音楽すべてが 僕のために鳴り響く鐘のよう
そしてその鐘が鳴り始めたときの この気持ちったら
恋に落ちるって感じ 間違いなく恋って感じ
なんだか 恋をしたみたいだ...

 この歌には「太陽が力をくれたのかも、ロッホ・ローモンド(ローモンド湖)を泳いで30分で帰れる気がする、風が僕に意欲をくれたのかも、だって気分は爽快、やる気に満ちているから…」というヴァースがついている。劇中の主人公(狩人)の思いを綴った歌なのでスコットランドの湖が出てきたりする。タイトルからして恋の歌のようにも思えるが、実はそうではない。「なんてすばらしい日なんだろう、こんな気分は滅多にない」と、百年に一度、スコットランドの高原に出現する伝説の村「ブリガドゥーン」の自然の美をたたえる歌なのだ。だから上機嫌で歌わなければならない。それが基本だ(笑)。

 愛娘ナタリーも快唱しているが、父親ナット・コールの表現力豊かな名唱、低音のヴェルヴェット・ヴォイスで魅了するジョニー・ハートマン、エレガントに歌うロレツ・アレキサンドリア、スマートなジョー・スタッフォード等の歌声が素晴らしいが、シナトラは曲が世に出た47年にレコーディングして、以後、彼の十八番としていた。中でもビリー・メイの編曲で歌ったものが、多分ベスト・ヴァージョンだろう。


 少しずつ下降していくコード進行がユニークだからか、インストゥルメンタルとしても好まれているナンバーである。ソニー・ロリンズはデビュー作でモダン・ジャズ・カルテット(MJQ)をバックに、ユーモア感覚あふれる豪放なプレイを披露した。


 そのMJQの精神的支柱であったジョン・ルイスと縁の下の力持ち、パーシー・ヒースが西海岸のミュージシャンと邂逅したヴァージョンも演奏物の代表作として推しておきたい。


 ロウはラーナーよりも20歳ほど年長で、比較的早い時期に作曲活動から引退したこともあり、ラーナー&ロウのソングライター・チームの活動期間は思ったほど長くはなかった。どちらも裕福で教養ある家庭の出身だったためか、その作風にクラシカルな要素が見え隠れすると考えるのは穿ちすぎる見方であろうか。

美人には弱いおいらの心電図


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