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#732: The Thrill Is Gone

2016-02-12 | Weblog
 第一次世界大戦が終わった頃のアメリカでは、景気が上昇して大衆文化の花が咲いた。アール・デコ様式、フラッパー、ジャズ、スコット・フィッツジェラルド、禁酒法、ギャングなど、後に「狂騒の20年代」(Roaring Twenties)と呼ばれるような時代である。中でも最も活気があった25年から30年にかけて、音楽ではアイラ&ジョージのガーシュウィン兄弟が大活躍をした。アメリカの景気が良かったことから、ブロードウェイの興行主たちは、ガーシュウィン兄弟やその他の有望な若手(ヴィンセント・ユーマンス、リチャード・ロジャース&ロレンツ・ハート)に次々と新作を依頼した。その若手ソングライターの中に、ルー・ブラウン(作詞)とレイ・ヘンダーソン(作曲)というコンビの名前もあった。

 お祭り騒ぎのような「狂騒の20年代」は29年10月に突然終りを告げる。大恐慌が発生し、明るく華やかなショウやミュージカルを楽しむどころではなくなってしまうのだが、ガーシュウィン兄弟や優れたソングライターたちはポピュラー音楽の中でゆるぎない地位を築き、ことあるごとに歌われ演奏されるようになっていた。これがスタンダード・ナンバーと呼ばれる楽曲群の土台になっているわけだ。

 31年の「George White's Scandal」というレヴューの中で、主演したバンド・リーダー兼歌手のルディ・ヴァレーが歌った「The Thrill Is Gone」は、ヴァレー自身のレコードでヒットしたそうだが、このレヴューのナンバーを集めたレコードが製作され、当時のSP盤両面にビング・クロスビーとボズウェル・シスターズが吹き込んだ。今でこそ、一つのミュージカル作品のナンバーを集めた録音は珍しくはないが、当時はこれが初めての試みで、後に各社がミュージカルのヒット曲集を制作するきっかけとなったようだ。

 20年代には陽気で楽観的な曲ばかり作っていたブラウンとヘンダーソンのコンビは、時代の要請からか、過ぎし日の恋を追想するバラードを書くようになっていた。

THE THRILL IS GONE (1931)
(Words by Lew Brown / Music by Ray Henderson)

The thrill is gone, the thrill is gone
I can see it in your eyes, I can hear it in your sighs
Feel you touch and realize that the thrill is gone

The nights are cold, for love is old
Love was grand when love was new
Birds were singin', skies were blue
Now I don't appeal to you, the thrill is gone

This is the end, so why pretend and let it linger on?
The Thrill is gone...

恋のときめきは消えた 消えてしまった
あなたの目を見れば分かる ため息を聞けば分かる
ときめきがなくなったことが分かる

恋が過去のものになってから 夜が冷たい
知ったばかりのころは 恋は素晴らしいものだった
鳥は歌い 空が青かった
今では あなたには何の興味もない ときめきが消えたから

これで終わり 偽らないで なぜためらうの?
もう恋のときめきがなくなってしまったのに...

 53年に若手トランぺッターとして人気急上昇中だったチェット・ベイカー(冒頭画像)が録音してからジャズの世界でも広く認知されるようになった。彼のヴォーカルはどこか怯えるような歌い方で面白い。好き嫌いの好みが出てきそうだ。


 スタン・ケントン楽団の女性歌手たち、いわゆる「ケントン・ガールズ」のアニタ・オデイ、ジューン・クリスティ、クリス・コナーはいずれもクール派のヴォーカル・スタイルを持つ名歌手だが、中でもコナーは重すぎず軽すぎず、甘すぎず辛すぎず、かといって凡庸ではなく、絶妙なバランスを持っていた。感情は抑制気味ではあるが、心温まるフィーリングがあった。フェイクやスキャットをせず、メロディをストレートに歌い、歌詞を大切にするアプローチは、男性歌手ではあるがナット・キング・コールの端正なヴォーカルを彷彿とさせるところがある。そのコナーの27歳(54年)のときのレコーディングは、チェット・ベイカーとは対照的に堂々としている。


 もうひとつ、カーメン・マクレエ、36歳(58年)の録音。まったくナチュラルにビート感を出し、ジャズのフィーリングとテイストに満ちている。クリス・コナーとは反対に、カーメンはテンポを落として悲しみをソフトに表現していて美しい。


 なお、「The Thrill Is Gone」というタイトルの曲は、かのB・B・キングがリバイバル・ヒットさせたものがある。ロイ・ホーキンスとリック・ダーネルの作ったブルース(51年)で、B・Bのライヴでは必ず披露される彼の最大のヒット曲(70年)として知られるが、全くの同名異曲である。今ではそちらの方を耳にする機会が多いかもしれない。

品書きの時価を会計するスリル


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