#737: あなたの勝ちよ(負けたわね)

2016-03-17 | Weblog
 58年の「恋のゲーム」(It's All In The Game)という歌はトミー・エドワーズによる全米ナンバーワン・ヒットだが、実は、知れば知るほど異色のヒット曲だ。

 まず51年に、トミーをはじめダイナ・ショアやカーメン・キャバレロなど多くのアーティストが競作したのだが、トミーの歌がヒットチャートで最高全米18位まで上った。そこまでは良かったが、彼はその後鳴かず飛ばず、危うくレコード会社を首になるところ、最後の賭けとして、ロッカ・バラード風に再アレンジしたヴァージョンを当時流行し始めていたステレオで録音した。これが起死回生の大当たりとなって、全米トップのリバイバル・ヒットとなってしまったのである。

 この作品は、シカゴの銀行家で、アマチュアの音楽家でもあったチャールズ・ゲイツ・ドーズが1912年に書いた「イ長調のメロディ」というインストゥルメンタル曲がオリジナルなのだが、このドーズさん、後に、第一次世界大戦の敗戦国ドイツの経済復興安定化計画に携わりノーベル平和賞を受賞、さらにはクーリッジ大統領の副大統領を務めることにあいなったという傑物なのだ。51年になって、このドーズのメロディにカール・シグマンが詞をつけて出来上がったのが「恋のゲーム」なのだが、作者、ヒットの経緯という面では、ポピュラー・ソングの中でも結構珍しい由来の作品と言えよう。後年、クリフ・リチャードやフォー・トップスのカヴァー盤がヒットしている。


 だが、今回の本題はこの歌ではない。でもこの「恋のゲーム」というように、恋をゲーム感覚にしてしまう言い方がある。特に、近年、勝ち組とか負け犬とかいう言い方を耳にするが、あんまり品のいい言葉だとは感じられない。

 「Alright, Okay, You Win」という歌がある。これは勝ち組、負け犬といった品性の劣る言い方ではなく、恋に落ちた瞬間をあえてゲームの勝敗にたとえているのだ。惚れた相手に完全脱帽しながら、私と同じくらい愛してくれなきゃとか、抱きしめてほしいとか、相手にちゃっかりと要求することも忘れていないユーモラスなラヴ・ソングである。

ALRIGHT, OKAY, YOU WIN (1955)
(Words & Music by Sid Wyche & Mayme Watts)

Well alright, okay, you win, I'm in love with you
Well alright, okay, you win, baby, what can I do?
I'll do anything you say, it's just got to be that way

Well alright, okay, you win, I'm in love with you
Well alright, okay, you win, baby, what can I do?
Anything you say, I'll do, as long as it's me and you...

そうだ!わかった お前の勝ちだ お前に惚れてしまったよ
そうさ そのとおり 俺の負けだ 俺に何ができよう
お前の言うがまま 何でもするさ

そうだ!わかった お前の勝ちさ お前に惚れてしまったんだ
そうさ そのとおり 俺の負けだ 俺に何ができるってんだ
お前の言う通り 何でもするさ お前と俺でいる限り...

 ゲームとはいえ、先に惚れた方が負けというわけだ。惚れた弱みというやつだ。負けているけど、陽気な口説き歌である。スタンダードとしてはかなり新しい部類に入る。ジム・ワイチとメイム・ワッツという人の共作だ。ワッツという人はよく知らないが、ワイチは、エルヴィス・プレスリー、59年の全米ナンバーワン・ヒット「恋の大穴」(A Big Hunk O'Love)の作曲者として知られている。本家本元はカウント・ベイシー楽団の専属歌手時代のジョー・ウィリアムズが初吹き込みでヒットさせたものだ。はずむようなベイシー・バンドのリズム感を生かして歌う彼のヴォーカルは名唱の名に恥じない。


 女性歌手では、何と言ってもはまり役、ペギー・リーだろう。少々蓮っ葉な語り口で軽快に歌う。こういうタイプの歌をサラリと生き生きと歌ってくれるのでたまらない。彼女の得意中の得意なナンバーだ。


 もっと新しい歌手では、ベット・ミドラーの歌がいいと思う。調子がよくてバウンスする曲なので、カッコよく聞こえるせいなのか、ジャズ・シンガーと称される日本人の歌手もよく歌っている。

交渉の相手が美女ですでに負け



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