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ケンタシノリのバルコニーから眺めて

【第1話】ゲンキくんは赤おにの子供

 これは、今からかなり昔のお話です。

 海にうかぶヨシオネ島で、砂はまをかけ回る一人の男の子がいました。その男の子は、他の子供と違ってはだ色が赤色です。

「みんな、早くおすもうをしようよ!」
「ゲンキくん、たのむから手加減してよね!」

 赤おにの男の子であるゲンキは、いつも「ゲ」と書かれた青い腹がけ一枚で過ごしています。でも、おにのシンボルであるツノは生えていません。

 今日も、ゲンキが大好きなおすもうが始まります。

 子供たちは、ゲンキにおすもうで何度も勝負をいどみました。しかし、ゲンキのあまりの強さにはかないません。

「みんな、どうしたの? おすもうはもうしないの?」
「だって、何回おすもう取っても、ゲンキくんの前ではかなわないよ」

 子供たちは、どんなに力を入れてもゲンキを動かすことができません。すると、ゲンキは軽々と子供たちに土をつけました。

「おすもうでは負けたけど、木登りでは負けないぞ!」
「それじゃあ、ぼくは島で最も高い木のてっぺんまで登っていくぞ!」

 今度は、みんなでどこまで高く木登りできるか競争します。

 ゲンキは、他と比べてダントツに高い大きな木を登っていきます。手慣れた様子で登り続けると、あっという間にてっぺんまでたどり着くことができました。

「みんな、こっちを見て! こんなに高いところまで登ることができたぞ!」
「ゲンキくんはすごいなあ。あんな高い木のてっぺんまで登ることはできないよ」

 ゲンキのすごさと元気さには、他の子供たちもおどろくばかりです。

 そんなゲンキの様子を、遠くからながめている人がいます。そこには、やさしそうな男の人と女の人が立っています。この二人は、ゲンキのお父さんとお母さんです。

「あれだけ高いところへ登るのは、大人でもなかなかできないけど……」
「でも、ゲンキくんはそれをいとも簡単にやってのけたからなあ。赤おにの子供であっても、おれたちにとっては大切な子供だよね」
「そうだよね。ゲンキくんと初めて会ったときのことは、今でも覚えているわ」

 二人の心の中では、たらいが海から流れ着いたあの日のことを思い出しました。そのたらいの中にいたのは、大声で泣いている赤おにの赤ちゃんでした。

「赤おにの赤ちゃんを見て、あたしは死んでしまった赤ちゃんのことを思い出したわ」

「赤ちゃんが死んで落ち込んでいたその気持ち、おれにもよく分かるよ。この赤おには、おれたちに授かった新しい命じゃないかな」

 赤おにと言えば、何かにつけてこわいイメージがあります。でも、自分たちの子供が欲しかった二人にとって、そんなことは関係ありません。

 女の人は、赤おにの赤ちゃんをだき上げました。そのときに見た赤ちゃんの笑顔は、今でも忘れることができません。

 そして、二人は赤おにの赤ちゃんにゲンキという名前をつけました。その名前には、元気ですくすくと育ってほしいという二人の願いがこめられています。

 二人は人間なので、ゲンキの生みの親ではありません。ゲンキは、本当のお父さんとお母さんの顔をまったく知りません。

 しかし、生みの親ではなくても、お父さんとお母さんはゲンキがかわいくて元気な男の子に変わりありません。

 こうして、ゲンキはやさしいお父さんとお母さんに囲まれてすくすくと成長していきました。そして、島の子供たちも赤おにのゲンキとすぐに友達になりました。

「ゲンキくん、そんなに遠くまで泳がなくても……」
「みんな、ごめんごめん。すぐもどるからね!」

 ゲンキは海に入ると、あまりの元気さに遠くまで泳いで行きます。これには、他の子供たちにはまねをすることができません。

「パシャパシャパシャ! パシャパシャ~ンッ!」
「うわっ! ゲンキくん、やってくれたな! パシャパシャ! パシャ~ンッ!」
「まだまだ終わらないぞ! パシャパシャ~ンッ! パシャパシャ~ンッ!」

 ゲンキたちが楽しそうに水遊びをしているのを見て、お父さんとお母さんは笑顔でその様子を見つめています。

「ゲンキくんはまだ子供なんだし、あれだけ遊んで動き回るのは当然じゃないかな」
「でも、ゲンキくんには子供らしいかわいいところがあるわね」

 いつも元気いっぱいのゲンキですが、欠点がないわけではありません。お母さんの言う「かわいいところ」こそが、ゲンキの最大の欠点です。

※第2話以降は、こちらの小説投稿サイトにて読むことができます(無料です)。
エブリスタ:https://estar.jp/novels/25209241

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