
昨日依頼が来た2曲分のアレンジの仕事でデモ演奏と譜面をチェックしていて、面白いなあと思った事がありました。そのうちの1曲のキーがG♭(=F#)だったのです(もう1曲はC#)。
G♭(=F#)というのはロックやポップスでは使われる事が非常に少ないキーです。パッと思い浮かんだのがビートルズの「イエロー・サブマリン」ですが、これは音から言えばキーがG♭ですけど、ジョンのギターのヴォイシングを聴けばわかるように、ギターのチューニングを半音落としてGのポジションで弾いた結果であり、最初からG♭の押さえ方で作られた曲ではありません。
これがF#m(G♭=F#のマイナーキーです。譜面上G♭mではなくF#mと書かれるのが一般的です)になると、数が増えてきます。これはキーにAやDやEのコードが絡んで来るからです。ビートルズで言えば「ウェイト」のキーがF#mです(正確に言えばF#m7から始まりますが)。
G♭(=F#)のキーが少ない理由は、ただ単純に「ギターで弾きにくい」からじゃないかと思っています。多くのロックやポップスの曲でギターやベースが使われていますが、G♭がキーの場合、開放弦を使った演奏がほとんどできなくなります。ロックのキーでEやAが圧倒的に多いのは、その元々の弾きやすさやリフを作って弾くのが楽だからというのが大きな理由でしょう。
EやAの太い開放弦を使うとサウンドがヘヴィになり、よりロックっぽくなる効果もあります。RCサクセションの「キモチE」という曲のタイトルは、キーがEだという事にもひっかけてあります。
ちなみにピアノやキーボードではG♭の構成音は全部黒鍵になりますが、鍵盤楽器ではそんなに面倒なコードでもありません。オルガンやピアノで幼稚園児や小学生が良く弾いている「ねこふんじゃった」のキーもこのG♭です。
バックバンドを従えて歌うシンガーの場合はその歌手の声域に合わせてこのキーも使われるでしょうけれど、ギター中心の編成のバンドでは非常に珍しいキーと言えます。バンドでは演奏のしやすさも考慮されますので、半音ずらしてFやGに移調してしまった方がずっと楽になるからです。僕が依頼された曲のデモもギターに1カポをしてFで弾かれた物でした。
僕にとって、普段使われないキーでアレンジや演奏をするというのは、ちょっとワクワクいたします。
ここらかはオマケのお話です。
ロックやポップスではほとんど使われないG♭というキーですが、実は日本にG♭の曲で大ヒットを飛ばしたロック・バンドがいます。
それが奥田民生さんが作詞・作曲した、ユニコーンの「大迷惑」という曲です。スカ・ビートにパンクを混ぜたような曲調で、フル・オーケストラと共演して話題になりましたが、この曲のキーがG♭なのです。
ビデオやLDを見ると、ライヴでもちゃんとG♭のままで演奏されています。このようなバンド編成でG♭がキーの大ヒット曲というのは、他に例がないのではないでしょうか。
というわけで、今日はG♭がキーの曲のお話でした。