中島京子(なかじま・きょうこ)/1964年生まれ。出版社勤務などを経て作家に。2010年、『小さいおうち』で第143回直木賞。近著に『ゴースト』(朝日新聞出版刊)
血税635億円もかけた衆院選は自民党が283議席(追加公認含む)と大勝、公明党とあわせて全議席の3分の2を上回る勢力となり、憲法改正の発議が可能となった与党。“加計疑惑ロンダリング”と化した総選挙に直木賞作家の中島京子氏が怒りの声をあげた。
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今回の選挙でつくづく、永田町政治は国民をバカにしていると感じました。臨時国会で自身の疑惑の説明責任を果たさずに冒頭解散した首相に、風を吹かせたもん勝ちと考えた見極めの甘い希望の党。もちろん政権はつど選択できたほうがいいけれど、政策も考え方も似たような党が2つあればいいってもんじゃない。訴える内容も、とってつけたような教育無償化、ひどいものでは花粉症ゼロなど、「国民はバカだから、選挙の時だけ耳あたりのいいことを言っておけ」という意図が透けて見えます。「朝三暮四」という故事成語がありますね。春秋時代に宋の国でサルを飼っていた狙公がえさのどんぐりを減らす際、目先の利益をちらつかせてサルを口車に乗せて納得させた話からできた言葉です。政治家は、私たちのことをサルだと思ってるの? と腹立たしくなってきます。
国民をバカにする政治のひどさは、第2次安倍政権で底が抜けた気がします。メディアへ圧力をかけ、議会や憲法をないがしろにする。強行採決や冒頭解散など、安倍政権は「禁じ手」をいくつも使ってきました。私が一番恐れているのは、「緊急事態条項」を憲法に加え、内閣が「戒厳令」のようなものを出して議員任期を延長できるようにすることです。政権が選挙をしない権限まで手に入れるということですからね。
政治に失望している中で、立憲民主党の誕生だけはうれしく思っています。枝野さんが「下から押し上げる政治」と表現していますが、震災や安保法制のときに生まれた市民の声、そしてその後の野党共闘の流れをきちんとくんでいる。枝野さんの結党会見を見た時、これまでフラストレーションがたまっていた理由が分かった気がしました。安倍首相や菅さん、「私はAI」の小池さんなど、論点ずらしで質問に答えていない会見ばかり見てきたけれど、枝野さんは記者の質問に「答えて」いた。国民をごまかそうとはしていないと感じました。
震災前後の時期、日本人は自信を失ったと思うんです。デフレが続き、GDPは中国に抜かれ世界3位になった。福島第一原発事故で日本の技術への神話も崩れました。そんな時に、「日本はすごい。強い日本を取り戻す」と掲げる安倍さんの言葉は心地よかったのかも。そして、それが日本全体を覆う空気になってしまった。政権発足前後から、近隣諸国へのヘイトスピーチも激化しました。日本人は震災前後に持った劣等感や不安がぬぐいきれず、今でも過剰な自己肯定や他国批判を続けている。それが政権支持にもつながっているのでは。
いつまでも風や空気で政治をさせていてはいけません。バカをだます政治は、もう終わりにしなくてはいけないんです。だから、私たち国民も「だまされるバカ」で居続けてはいけないと強く思います。(構成/本誌・直木詩帆)
※週刊朝日 2017年11月3日号より
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