画家 田中恵子のブログ

画家 田中恵子の鎌倉七里ガ浜のアトリエから

「満ちる時3」田中恵子 2014年の写実作品

2017年05月31日 | 私と写実絵画

「満ちる時3」田中恵子 2014年の写実作品
~私と写実絵画2~

「満ちる時3」The Time Has Come3
Tempera & Oil on panel
テンペラ,油彩,板 F6 41.0×31.8cm
2014.11完成

 

モチーフはブラックティーという私が最も愛するバラ。

私は2008年の脊椎の大手術で二カ月間入院しました。
手術から12日間寝たきりで、その後、起ても貧血にならないためのリハビリを経て、
胸の上から腰までを覆うギブスを巻いての歩行訓練。
クリスマスを前に、頑張っている自分へのプレゼントに、
バラ園を持つ鎌倉のバラ専門店マダムビオレにブラックティーを注文しました。
開きかけたつぼみで届いたブラックティーは、クリスマス当日に満開になりました。
脊椎の広範囲の固定により、写実絵画を描く前傾姿勢を保持することは、
困難になることがわかっていたので、
写実を描けるようになることはないと思っていましたが、
それでも個室の青空が見える広い窓辺にブラックティーを置き、絵の構成をしていました。

退院してから、何度もブラックティーを取り寄せ、
描くことは不可能と思いながらも、何度も構成を試みました。

素晴らしいバラを作っていたマダムビオレの作出者のご夫妻は他界され、
息子さんがやっていた西鎌倉のお店は閉店して、
最高のブラックティーを入手することが出来なくなりました。
ネットで探して取り寄せたり、最終的には日比谷花壇にお願いして取り寄せてもらいました。

2011年にやはり入院中に構成していた病室の壁の絵を、
退院以来、初めて写実作品として完成させ、
また、小品のブラックティーを描いて後、2014年にこの作品に取りかかりました。

何としても青空の背景にしたかったけれど、逆光だとどうしても思ったイメージにならない。
結局、光は左から、でも背景は青い空ということにしました。
その光の条件で描くと、花びらに反射と透過の光を呼び込むことが出来、
私が求める光の表現が出来ます。

このバラが私の思い出と共にあるだけであったら、この作品の意味合いは薄れます。
私がこのブラックティーに特別なものを感じるのは、
黒をかんだ朱色という微妙な色彩を持ち、咲き誇って後、
黒みを持った薄紫に褪色しながら、最後まで美しく咲き尽くす。
それはあたかも力強く生きる一人の人生を観ているが如くで、
心に深い感銘を覚えるからなのです。

制作過程も、その色彩の変化の如く、花びらの下の絵の具層では朱色(カドミウムレッド)を使用し、
その後、クリムゾン系を使用し、最後に黒の混ざったクリムゾン系で影の部分の深みを塗り重ねています。
その塗り重ねの間にテンペラ白によるハッチング層を挟んでいます。

身体の負担を考え、1日の制作時間が制限される中で、
術前研鑽した油彩とテンペラの混合技法を最も効率的に使うことができ、
この作品は2014年11月、無事完成しました。

 

鎌倉伊織 URL http://www.kamakura-iori.net

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「写実道」 リアルのゆくえ展を観て感じたこと

2017年05月27日 | 私と写実絵画

「写実道」 リアルのゆくえ展を観て感じたこと
~私と写実絵画~

約1年前、アトリエを鎌倉七里ヶ浜に移しましたが、
美大受験時代以来、約25年ぶりに訪れた鎌倉の文海堂。
近年は絵画を趣味とする人が減り、画材屋さんが激減している時代に、
以前と変わりなく、そこに文海堂があって、とても嬉しく思いました。
ミニフレームやサムホールの額を探していたので、お店の人と話し、
ふと目にしたのが、「リアルのゆくえ」のチラシ。

現在、平塚美術館で「リアルのゆくえ」という展覧会が開催されています。
なんとも私向きの展覧会ですが、4月は一カ月間、銀座で個展だったので、
バックオーダーもあり、今週やっと行ってきました。
我が師匠の作品も展示されています。

どなたでもご存じの鮭の絵(美術の教科書に載っていた)の高橋由一、
岸田劉生らすばらしい写実画家がいながら、
写実絵画は日本の洋画の主流とはなり得なかったけれど、
近年ちょっとした写実ブームでもあります。

私は美大で写実が学べないので、デザイン科を卒業しましたが、
その後、三浦明範先生との出会いにより、油彩とテンペラの混合技法を学び、
写実の夢を実現しました。

今回展示のそれぞれの写実画家の真摯な姿勢。
この展覧会を見終えて、武道家でもある私の脳裏に浮かんだのは「写実道」。
「道」は、真理を求める「道」。
仏道、武道、茶道、華道、「道」がつくものは方法は違っても目指すものは「真理」。
自分のことに終始している画家が多い様に感じられる中で、
今回展示の写実に取り組む画家の姿勢に、それは「写実道」と言えると感じました。


次回から私の写実絵画作品について連載をスタートします。

 

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