kei's anex room

日々の歌日記(硲 比呂介)http://blog.goo.ne.jp/hiro5713 の別館です。

投稿用元原稿倉庫

2006-08-30 14:48:51 | Weblog
七月三十日(日) 季節は夏

日々の創作短歌 | 2006-07-30 08:35:24
 
        季節は夏
 
*ふりかへり見れば光陰矢のごとく窓の外を過ぐ儚きひと世(外=と)
 
*夢はつひに夢に終はりぬ夏猛ける夜の静寂に噴き上ぐる汗(静寂=しじま)
 
*夏といふはげしき季節 遠がすむ過去か未来か暗き森見ゆ
 
*夜のこと朝のことども頭をめぐるされど再び来ぬ夏と知れ
七月二十九日(土) 月影に想ふ

日々の創作短歌 | 2006-07-29 05:34:47
 
        月影に想ふ
 
*「月読」は光陰あふらしめ狭庭辺の暑きに萎る茴香を起たす(光陰=かげ)
 
*雲を追ひゆるり山端に曳かるるがごとくその光陰揺らしゆく月
 
*真闇なる中天にいま燦とありかのひとも見む大きつきかげ
 
*かのときのかの月いづこ二人して茫と眺めし鵜飼夜の かの
七月二十八日(金) なつかしき香

日々の創作短歌 | 2006-07-28 14:24:59
 
       なつかしき香
 
*そのひとの夏の香りの懐かしきひとり伏す夜にほのか顕つ香よ
 
*かぐはしき香に酔ひ恋ひぬそのあまり白きししむら百合の顔貌(顔貌=かんばせ)
 
*わが生活日々細るなかかねて酔ひしひとの香のする夢さへも見ず(生活=たつき)
 
*この生命果てなむ日々も近からむ昨日・今日・明日疾く走り過ぐ
七月二十七日(木) 梅雨明けぬ

日々の創作短歌 | 2006-07-27 06:02:08
       梅雨明けぬ
 
*逢へることのぞみ得ぬ日々送らしめ池に輪を成す雨を見つ居り
 
*なみださへ涸れ果つる身に夏の夜のしげく降る雨なぜ欲せざる

*やうやくに梅雨明け初めし夕暮れの雲のくれなゐその彩ぞ佳き(彩=あや)

*わたくしの心の揺れかはた地震かかそか地の面の定かならぬは(地震=なゐ)
七月二十六日(水) 夏の目覚め

日々の創作短歌 | 2006-07-26 06:54:29
      夏の目覚め

*呟きのやうないかづち遠鳴りてやつぱり夏をわたしは嫌ふ
 
*いたつきに伏す耳に鳴る夏の夜の風は囁く亡き母の声に
 
*長き雨なほ降り止まぬ朝にして記憶失ひつつ目覚む身は
 
*目覚むれど重き頭の冴えゆかず夢にうつろふこれもしあはせ
七月二十五日(火) けふあす

日々の創作短歌 | 2006-07-25 05:54:20
 
       けふあす
 
*濫造は歌をけがすとわがともの謂ひの痛さに耳ふさぎたし
 
*逢ふことのふたたびは無き寂しさに独り枕を固くいだきぬ
 
*臑ながき乙女ふたりの輝きてわが棲み得ざる世界ともしき
 
*差し迫る驟雨に追はれ飛び込みし「鴉族の巣」なる茶房冷ややか 
七月二十四日(月) 宿命なりせば

日々の創作短歌 | 2006-07-24 11:39:42
 
       宿命なりせば
 
*運ぶ風持ち去る風等うづまきて千々に散り居りわが恋ひ心
 
*あまやかに喉とほりたり小夜更けて吾に禁断のひと口の水
 
*塩と水控へたるゆゑ味うすくパサパサなれど食むは 夕餐
 
*この時に在るといふこと如何やうに辛くとも耐ゆ宿命なりせば(宿命=さだめ)
七月二十三日(日) 透析室にて

日々の創作短歌 | 2006-07-23 08:54:26
 
        透析室にて 
 
*こころ冷むままに仰臥を強ひられつ数リットルの血を洗ふため
 
*二の腕に蛇のごとくに捲きつきしわが血に赤く照るカテーテル
 
*ときならぬ尿意に止むを得ず呼びぬ 若きナースへさらす老体
 
*目を閉じて耐ゆひたすらに若き等の好奇溢るるさげすみの眼に
七月二十二日(土) 夏の晨

日々の創作短歌 | 2006-07-22 07:21:21
        夏の晨
 
*冷感のあな裏に快・むし暑き夜々の最なかに庭に下るれば
 
*歯に沁むは老いたるゆゑかあさあさに漱ぐ水道水の逆襲
 
*走り去る影とし見ゆる朝ぼらけ月を追ふがに逃ぐる雲ぐも
 
*夏の朝さはやかに明く昨夜来たる阿修羅のごとき不整脈去る(昨夜=よべ)


夕映えのひと  

*「忘らるる身はわれかかのあやまちに」古人の歌の悲しくもあり

*後朝のわかれも杳き思ひ出にひとり寝の朝ほほ濡らす 露(後朝=きぬぎぬ) 

*去り行きしひとの香りす遠山に夏夕映えの色彩のたしかさ(色彩=いろ)

*虹をわたりゆくがごとくに夕雲のかのひとに似る形懐かし  
七月二十日(木) 未練

日々の創作短歌 | 2006-07-20 05:53:53
       未 練

*君去りし理由さへ知らず 悶々の時よ空しく過去へ疾く去れ (理由=わけ)
 
*そを訊くもつひに答へず去り行きしひとの心を計りかね居つ
 
*還暦のひとを喜寿なる老いびとのわが恋ひぬるは儚きや・否 (否=ノン)
 
*一瞬に変るこころを知らばこそをみなとはげに解らざるもの 
七月十九日(水) 哀悼 嗚呼 蔵本瑞恵さん

日々の創作短歌 | 2006-07-19 06:28:33
       哀悼 嗚呼 蔵本瑞恵さん
 
*訃報ひとつ胸の空虚にひびきけり夏更くる夜に風鳴りのして
 
*おもかげのふと浮かび来る颯爽の風姿すずしき過去の遥けし
 
*「炎を孕む」如く激しき日もあらめ君安らかに嗚呼眠りませ
 
*ときとして胸詰まるまま繰る歌集 切々と呼ぶ声聴くがごと

七月十八日(火) 嫩き日の恋ひへ

日々の創作短歌 | 2006-07-18 07:11:26
      嫩き日の恋ひへ

*トシ坊よいづこにおはすあの白き脛にときめきし日の懐かし
 
*ヒロコヒロコ夏のホームの陽炎に揺めき消えしあの終の日よ
 
*夕陽差す木立のかげに佇ずみしセーラー服の襟の まぶしき
 
*手をひとつ握ることすら無き別れされど胸刺す思ひいまだに

七月十六日(日) 小島ゆかり讃

Weblog | 2006-07-16 05:45:46
        小島ゆかり讃
 
*うづくほど熱き夕べに鳴るベルは恐らくは汝れ 小島ゆかりよ
 
*汝が歌集飽かず読みつつ眠る夜の夢にまた見ぬ 小島ゆかりを
 
*汝が残す香り慕ひてあゆみたしその名うるはし 小島ゆかりよ
 
*季節を抱くこころに熱き風の中たゆたひて恋ふ 小島ゆかりを(季節=とき)


  




「氷原」八月号掲載歌 夢はむなしく

2006-08-05 18:49:02 | Weblog
 
 
       夢はむなしく

*帰らざるひとを追うふことむなしくて月の欠けゆく空に真向ふ
 
*肉むらはとうに老い果つ皐月夜の風の香りも聴けぬ身となり(肉=しし)
 
*老ゆることその悲しさをいまさらに人には言へず読む潤一郎
 
*うら庭に春のにほひはうすれゆき山査子のうす汚れたる 白
 
*星ひとつ見えずなりゆく深更のそらわが失ひしもの呑みゆく
 
*耳奥に残るアルトの甘やかに されどかの日は遠きまぼろし
 
*真夜に呑む水一掬が腎を病むわれにとどめの一刺か 知らず
 
*四十年わが深奥につねに在りかのかぐはしきかをり顕つ秘所

ナイル八月号 掲載歌  日々偶感

2006-08-01 07:03:51 | Weblog
   『ナイル』 八月号  掲載歌  


     日々偶感
 
*一語すら発するのなき時を送り休日の夜のだるきひとり居
 
*庭に顕つ春のゆらぎやかげろふのたゆたひ匂ふ近き死が香が
 
*ひとり居の時は遅々たりバスタブの湯の揺れさへもあるかなきかに
 
*眠られぬままに思ひを走らすも茫たりすでに亡妻は杳きに(亡妻=つま)

*朝夕に弛びゆく四肢わが知らぬ老いに戸惑ふ揺るる夕雲(弛び=ゆるび)
 
*亡き妻の細きかひなの思はれて庭の古木にそと触れて見る
 
*われに添ふ翳のごとくに夕風を揺らし今宵も猫のそと寄る
 
*言葉にはならぬ遺恨を飲み込みて向かふ透析室とふ 地獄
 
*エアコンをあがなふことの是非を問ふわれの寿命の機器に劣れば
 
*眷族のあひ似たる顔並び居て亡妻は他界に笑むや皐月夜(亡妻=つま