新聞記者になりたい人のための入門講座

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作文・小論文の実例  5

2011年10月14日 | ジャーナリズム

 

れまで、作文、小論文のいずれでも書くことが可能な抽象的な題の実例を紹介してきたが、就職試験の場合、小論文を書くように求められることが多い。作文は内容が題にうまく関連すれば、何を書いてもいいが、小論文では題に込められたテーマに対し、自分なりのはっきりした意見、見解を書かねばならない。新聞などマスコミ関係に限らず、多くの職種の企業、組織が時事問題、社会問題について題を出す。

多くの場合、その時点で世界やアジア、日本で大きな問題になっている事柄が焦点になる。未来に生き延びなければならない日本の企業、組織は、当然のことながら自社を志望する若者がどのような意見、見解を持っているか関心が強い。例えば円高、世界的な金融不安など経済危機の中で、どのように活路を見出していくか?

志望者は時事・社会問題に対する豊富な知識を持ち、さまざまな問題に対する説得力ある意見、見解を小論文で書かなければならない。私が大学で書くように求めた学生たちは必ずしもマスコミ志望ではなかったが、比較的充実した内容の作品を紹介したい。

 

 ジアと日本

ジアに属している。アジアの中でも、境界線が隣国と陸地で接していない島国だ。一見、領土問題はないように思えるが、そうではない。ロシアとの北方領土問題や、今、話題となっている中国との尖閣諸島問題などがある。             

二〇一○年九月七日、尖閣諸島をめぐって事件が起きた。尖閣諸島付近をパトロールしていた海上保安庁の巡視船に、中国の漁船が衝突してきたのである。現在、中国漁船の船長は処分保留のまま中国へ帰されたが、その後の措置はまだ取られていない。しばらくして、日本では漁船衝突映像の流出をめぐっても、大きな問題となっている。  

そもそも、なぜ、このような領土問題が起こったのだろうか。日本とアメリカとの条約では、尖閣諸島は日本の領土であると認められている。しかし、中国側でも、中国固有の領土として考えられており、今回の事件に発展したと考えられる。尖閣諸島付近には、油田などの貴重な資源が埋まっていることからも、中国としては手に入れたい領土である。          

中国は近年、北京オリンピックや上海万博の開催地となり、産業の面でも大きく成長している。いわゆる、日本の高度経済成長期である。貿易面でも、日本より中国が注目されるようにもなっている。日中関係は今後、どうなっていくのだろうか。    

中国が成長し世界に注目されているからといっても、尖閣諸島は日本の領土であるとはっきりと主張する必要がある。日本の対応として良くなかったことは、証拠となる衝突映像をすぐに公開しなかったことと、船長を処分保留のまま帰してしまったことである。この背景には、日中関係悪化の懸念や、中国からの圧力などが予想される。同じアジアの国として協力できる関係が望ましいが、まずは一日も早くこの問題が解決することを願っている。             

 

尖閣諸島での事件があった昨年秋に書かれた文章だが、事件の概要を正確に理解し、経済成長を続ける中国の存在に注目しているのが分かりやすい。海上保安庁撮影による中国漁船衝突の映像がすぐに公開されなかったことと、逮捕した中国人船長を処分保留のまま帰してしまったことの誤りを率直に指摘しており、筆者の明確な立場が伝わる。

身の周りから見た「アジアと日本」を書いた作品もある。

 

 

と日本

 

年、私の地元の大型スーパーでは、中国や韓国からの留学生と思われる店員が増えている。どの人も流暢に日本語を話し、日本式の接客をこなし、日本人のアルバイトより一生懸命に見えてくる。このように、アジアの各地域から来日した人々が日本の労働力となっている。もはや、外国人の助けがなくては、日本の労働現場は成り立たないのだろうか。

最近、人手不足で特に問題になっているのは医療現場である。地方の過疎の地域などで、人を必要としている。そこで、政府は東南アジアなどから研修生を呼び、看護師などを育成しようとしている。ここで、問題が挙げられる。まず、高度な技術を必要とする職場では、言葉の間違いなどからミスが起こる可能性がある。そのため、言語教育に多くの時間を費やし、本来の技術の習得までに時間がかかるのではないだろうか。また、賃金は、同じ職場で働く日本人と平等になるのだろうか。人件費の抑制を目的にして外国人を呼ぶのであれば、長く仕事を続けたいと思う人が少なくなるのではないだろうか。同じ環境で働く以上は、賃金や生活保障などの面で差があってはならない。

一方では、外国人の採用に良い面もある。日本で習得した技術を自国に持ち帰り、広めてもらう。もし、開発途上国であれば、その国に技術面で貢献できる。また、日本の方式を知ってもらうことで、日本の企業が参入する機会が増えるかもしれない。

日本の労働現場は、賃金を抑制するために、アジアなどから人材を得ようとしている面がある。しかし、安易に急いで行うのではなく、受け入れる環境や制度をきちんと整える必要がある。

 

人手不足に悩む医療・介護現場から日本とアジアを書き、「人件費の抑制……同じ環境で働く以上は、賃金や生活保障などの面で差があってはならない」と、自分の意見をはっきりと書いているのが分かりやすい。ただ、外国人研修生がいる医療現場の現実を、もう少し具体的に書けば説得力が出るはず。

 (写真:ベトナム・ハノイに残る撃墜された米軍機の残骸。私の風景写真アルバムから)