そのミニトマトの苗を見つけたのは、去年の9月のこと。
生ゴミを埋めたところから、15cmほどの小さな苗が顔を出しているのに氣がつきました。
なんと今ごろ?
これからどんどん涼しくなるというのに。。。
こちらの心配をよそに、苗は日ごとに大きくなり、晩秋の日ざしを浴びて、可愛い黄色い花を咲かせるまでになりました。
12月に入っても 比較的暖かい日が続いたのも幸いしたのか、やがて小さな緑色の実がいく粒も生りました。
とはいえ、いかになんでも12月、食べられるまでになるとはとうてい思えません。
でも。。。心の中で トマトに話しかけました。
もし、ひとつでも熟してくれたら 種が採れるから、そうしたらきっと次の春に蒔くからね
しかし、やはり冬の日ざしでは無理があったのでしょう、どの実も青いまま落ちてしまいました。
それでも、もしかしたら追熟してくれるかも。。。と、あきらめ悪く つやつやの緑の実を拾って キッチンペーパーを敷いた小皿に入れて置いておきました。
ほとんどの実は、やっぱりというか 青いまま傷んで終わってしまいましたが、ひとつだけ うっすらと赤く色づき始めたものがありました。
わずかな望みをつないで、小皿のまわりを 毛糸のマグカップカバーやコースターでおおって防寒し、天氣のいい日はお日さまに当てて、少しずつ赤みが増していく様子を見守りました。
12月初旬の寒波はどうにかしのいだミニトマトの木も、葉が黄色くなってしおれ出し、年末の寒波はとうてい越せそうにありません。
お正月の支度で実家に向かう直前に、木にお別れの挨拶をしました。
長いこといっしょにいてくれて、きれいな葉や花や実を楽しませてくれてありがとう。
あなたが枯れてしまっても、あのひとつ残ってる実から種が採れれば、いのちをつなぐことができるからね。
どうか見守ってやってね。
年が明けて戻ってみると、木はやはり枯れていました。
が、毛糸でくるんだ小皿ごと 窓際に置いておいた実は、すっかり赤いミニトマトとなって、つやつやと元氣な様子で収まっていました。
それからずっと、天氣のいい日は日光浴、寒い日は家のなるべく暖かいところで、ひとつだけのミニトマトは 活き活きした姿を保ち続けました。
今思うと 不思議でなりません。
トマトであれなんであれ、野菜がこれほど長く 新鮮さを失わずにもつものだろうか。
買ってきた野菜が 4ヶ月も5ヶ月もそのままなんて、普通じゃ考えられないよね。
枯れも腐りもしないということは、木から離れて数ヶ月経っても生き続けているということ。
どんな力が働いているんだろう?
3月ぐらいから、ヘタの深緑が徐々に枯れ色に変わり始め、4月に入ると ついに実のほうも 皮にしわが寄り出し、終わりが近づいてきたのがわかりました。
たぶんあと数日でお別れでしょう。
そうしたら、中の種を取り出して、苗床に下ろして 新しい苗作りです。
時期的に少し遅いけど、年末まで頑張りとおした木の子孫、きっと寒さには強いはず。
ひと月やそこらの遅れなど ものともしないでしょう(^^)
まだ種がどうなっているかはわからないけど、無事育ってくれていることを祈ります。
木から落ちてしまった実が たったひとつ、冬を越して守り通した種なのだもの。
半年近く共に過ごした赤い実とのお別れ、なんだか淋しいような。
あの親木は、立ち枯れた姿のまま 残してあります。
青いまま終わってしまった実たちは、根元の土に返してやりました。
種を採った後の赤い果肉も いっしょにしてあげましょう。
もし無事に新しい芽が出たら、親木に見せて、こう言ってから 抜くことにしようと思います。
“あなたの思いがひと冬を越してはぐくんだ子どもたちだよ。
これからすくすくと育って、夏のお日さまをいっぱいに浴びて たくさんの花や実をつけ、種を残して また次のいのちをつないでくれるよ。
あなたのことも、あの赤い実も、青いまま終わった実たちも、ずっとずっと忘れないからね。
会えてよかった、ありがとう”