小説「目覚める人・日蓮の弟子たち」

小説「目覚める人・日蓮の弟子たち」の連載と、上場投信日興225の勉強会をします。

小説「目覚める人・日蓮と弟子たち」二十六

2010-09-10 | 「目覚める人・日蓮の弟子たち」

 北条小源太 二十六  

「うむ、それで時宗どのはどうじゃった」

「はい、そなたは若いのになかなかの軍略家だの、見直したぞ。とた
いそう誉められました。私は正直に、父から教わっていたことをその
まま申し上げただけでございます、と申しました。
 すると執権どのは、

「そなたは正直者じゃ。それにいい父御をおもちで羨ましいぞ。わし
の父は、もう世にないがそなたの父御は健在じゃ、父御を大事にな、
と言われて思い出したように、
 そうじゃ、時昭どのは入道されて頭が寒いだろう。
この頭巾は父が使っていたものだが、そなたの父御に差し上げてく
れ、寒い折なので風邪などひかずご健在でいてもらいたい、とわしが
言っていたと伝えてくれ。そう仰ってご自分で棚の中から取り出して
くださいました」

「ほう、そうだったのか有難いことじゃな」

と言って小源太は、頭巾をおしいただいた。

「父上、私は執権どのは父上が頭を丸めていないのをご存じないか
ら、頭巾をくださったのだろうとおかしく思いましたが、ふとその時
気がついたのです。
父上が頭を丸めないのは、いざという時には冑を着て、戦陣にお立ち
になるおつもりではないかと、父上のお心の内を思いはかりました。
大軍を率いて戦った経験のない私を助けようとされているのではない
かと思うと胸が熱くなりました。」

そう言うと義昭は小源太の前に両手をついて頭を下げた。

「なんの、そなたはもう立派な武将だ。父が頭をそらないのは面倒だ
し、他に考えることもあってのことじゃ。そなたは大軍を率いる総大
将の器だとわしは思っている。
時宗どのをお助けして、この大事に心して当たるようにな」

小源太は言いながら、息子に腹の内を見透かされたかと、くすぐった
い思いと、義昭も人の心が分かる立派な大人に成長している、と安心
と喜びを感じていた。

「それからのう義昭、時宗どのにはよいが、めったに腹の内を人に明
かすでないぞ、黙って人の動きを見ておくのじゃ、上に立つ者が腹の
内を軽々と明かすと、周りの者は追従して本心を語らなくなるものだ
からな。承知のこととは思うが念のために申しておくぞ」

   大人になった息子に小源太は忠告したのだった。

 第一章 終わり