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庭戸を出でずして(Nature seldom hurries)

日々の出来事や思いつきを書き連ねています。訳文は基本的に管理人の拙訳。好みの選択は記事カテゴリーからどうぞ。

付録

2005-01-07 20:35:00 | 大空
推力に伴う3つの力作用

1 プロペラ反動トルク 
2 ジャイロの摂動 
3 非対称推力 

  1 プロペラ反動トルク(PTE)

プロペラの回転と反対方向に発生する回転モーメントのことを「プロペラ反動トルク」(PTE)と言います。これはプロペラからの抗力の他にクランクシャフトやフライホイールの慣性からも発生しますが、ほとんどのPPGユニットではプロペラは後ろから見て左回りに回っているので、パワーユニット自体は右方向に回ろうとします。

反動トルクはプロペラの質量・直径・ピッチ・回転数によって変化しますが、基本的には推力が増せばそれに従って反動トルクも増加します。
その結果、推力を使った飛行中、右肩を下げ左肩を上げることになり、グライダーの右ロール或いは右バンクを引き起こし、飛行が右に偏向していくことになります。

これへの対処方法には受動的方法と能動的方法があり、適当に組み合わせて使います。

(受動的方法)
・テイクオフの前に右カラビナ取り付け位置を少し上げておく。或いは長めのカラビナを付けておく。
・ユニットフレームかハーネスなどの左サイドに重い装備(リザーブバラ・タンクカメラ等などを付けておく。
・ハーネスによっては反動トルク解消クロスバンドが用意されているものもある。

(能動的方法)
・パイロットが能動的に左ウエイトシフトする。
・左カウンターブレイクを当てる。
・トリム付きグライダーでは右トリムを必要量開放する。
・アクセラレーター・フットバーの右側を必要量踏み込む。

注意しないといけないのは、PPGの推力は滑空部分よりも数メートル下に付いている為、特にテイクオフや上昇中は既にグライダーのピッチやAOA(アタックアングル)が上がっており、どのようなブレーク操作も翼のオーバーピッチを招きがちだということです。激しい右偏向を抑えようとして過大に左ブレークを使うと、グライダーの左翼は簡単に失速状態になります。

PPGは常にノーブレークで(時にはトリムやアクセルを使って翼のピッチを下げて)最も効率的に飛行できるということを忘れないで下さい。充分なフライトスペースがある場合、テイクオフ後安全な旋廻高度に達するまでは、無理に真っ直ぐ上昇しようとしないである程度右偏向に任せておいたほうが無難です。

   2 ジャイロの摂動(GP)

回転しているプロペラ(クランクシャフトやフライホイールも)はジャイロの性質を持っています。回転体がその三次元的姿勢を保持しようとする性質を「ジャイロの剛性」といいますが、その回転面の或る点に力を加えると回転方向にちょうど90度の所にその力が作用したような結果が生じることを「ジャイロの摂動」(GP)といいます。
例えば、後ろから見て左回転のプロペラでは回転面の真下を前方に押すとユニットは上方ではなくて左方向に回ろうとします。真上を前方に押すとその反対の右方向に回ろうとします。



PPGではユニットのピッチ(傾き)が変わる時にこの現象が起こります。特に助走からテイクオフに移る瞬間に「飛び乗り」など急激なピッチ変化を起こすと、鋭くヨー方向左に回転しようとします。パワーを使いながらライズアップする時に前傾姿勢で右方向に大きく振られるのもGPの仕業で、テイクオフの動作で推力を後傾させて使うことのメリットの一つもここにあります。

 テイクオフの瞬間、反動トルクの影響でグライダーは右に曲がろうとしているのに、ユニットは左に曲がりたがるのですから、ラインツイストなど非常に危険な状況になり得ます。多くのPPGフライヤーがあまり意識しないでこの状況を経験していますが、ほとんどは本能的にスロットルを緩めてなんとか危険な状態をクリアしています。飛行中のブレークやスロットルのオーバーコントロール,ハーネスへの座り直しの際の体の動きなどの姿勢の急激な変化でも同様のことが起こります。

 今まで何件かこれが原因のパイロット・スピン(ラインツイスト)事故があったと聞いていますが、イギリスでは数秒間に何回も廻ってパワーカット後も回復せず、グライダーがダウンウインド方向に転向しながら建物の壁面に激突し大怪我を負った練習生もいます。この危険から逃れる方法はパワーをゆっくり緩めてレベルフライトかグライディングに戻るということですが、多くは充分な高度が無い段階で起こります。

  3 非対称推力(ABT)

 非対称推力(ABT)もパイロット/ユニットの向きとグライダーの向きを食い違わせる原因になります。これはプロペラ回転面が飛行中に進行方向に対して垂直になっていないことから起こります。地上でユニットを装着してシミュレーターにでもぶら下がってみると良く分かりますが、プロペラのブレード面がかなり下方に向いている場合があります。



 その結果、後ろから見て左回転のプロペラで、どういうことが起こるかというと・・・

1)プロペラの左側(上トップから下ダウンまで)の対気速度は「グライダーの対気速度」+「プロペラの回転速度」+「プロペラの前進速度」ですが、右側(下ダウンから上トップまで)の対気速度は「グライダーの対気速度」+「プロペラの回転速度」=uプロペラの前進速度」となり左サイドの方が推力が高くなり右ヨーが生まれる。

2)空気の流れに対するプロペラのピッチ角が左側で大きくなり、左サイドの方が推力が高くなり右ヨーが生まれる。。

3)ユニットの前にはパイロットの体があり、これがプロペラに当たる空気の流れを多少なりとも妨げている。先にあげた右ヨーによって体が右方向に向いていると、左サイドからの方が空気の流入量が多くなって、推力が高くなり更に右ヨーが生まれる。。

 ジャイロの摂動(GP)と非対称推力(ABT)の違いは・・

 GPはパイロット/ユニットのピッチが変わった時に起こる一時的な作用であり、ある時突然激しくやって来てパイロットを驚かしたりしますが、ピッチの安定化によって自ずと消滅するものであるのに対し、ABTはほとんど常に作用している力で、それから生じるヨーがライザー/ラインを通じてグライダーに伝わり常に偏向を促しているということです。

 またABTは「振り子効果」との連動によって継続的なローリングを引き起す場合があります。それを修正しようとしてブレーク操作すると大概はローリングを加速します。

 GPもABTも速やか且つスムーズにパワーを下げることによって対処することが出来ます。またGPはユニットの急激なピッチ(傾き)変化を避けることで予防できます。

 ABTは飛行前のハンギングチェックで吊り下げ位置や重心をきちっと調整しておくことである程度予防できますが、完璧に調整されたとしてもPPGの推力は翼(抗力の中心)から6~7m下に位置している為に飛行中は進行方向から大体15度程は傾いているので特に大きプロペラを使った高推力ユニットでは充分注意しないといけません。

 動力飛行特有のこれら3つの力作用は全てのPPGパイロットが理解し、その対処方法を実際の飛行の中で習得してゆくべきものですが、その作用の程度は使用するユニットやグライダーの種類、パイロットの体重(静的慣性)によって様々です。

 特に大気の動きが活発な時や、動力を補助的に使いながらサーマルソアリングなどをする時は、これらの作用をはっきり認識しそれに対応できる技能が不可欠です。更に体重の軽いパイロットは相対的にその影響が大きくなりますから、この3点につい充分に理解し慣熟しながら、更に自由で快適なフライトができるようにしてください。