3.アヘン剤(モルヒネ)受容体発見
1970年のある日、ジョンズ・ホプキンス大学医学部のソロモン・スナイダー博士は
学長に呼ばれた。
「スナイダー君、君もベトナム戦争に従軍した帰還兵士の薬物乱用の話は
知っているね。」
「連邦政府はこの問題に重大な関心を寄せ、薬物乱用防止の研究を強力に
推し進めようとしている。」
「我が大学も、その研究センターの一つになった。」
「君には、脳に及ぼすアヘン剤の作用について研究してほしい。」
スナイダーは、いくつかある課題のうち、脳の中にあると思われる
アヘン剤受容体を探すことを選んだ。
同じ課題に興味を持っていた大学院生のキャンデーシ・パートを研究チームに入れる。
パートは当時としては珍しい女性の薬理学研究者だった。
試料としてマウスの脳を使い、アヘン剤が脳のどの部位で結合されるかを調べる。
〇アヘン剤として放射性のジヒドロモルヒネ使用
受容体見つけられず
〇モルヒネ分子とよく似た構造を持ち、モルヒネの作用を
妨害する放射性のナロキソン使用
↓
モルヒネに特異的な受容体のみ探し出し、結合
モルヒネ受容体を特定
このようにしてスナイダーとパートは、脳の神経細胞の中の
アヘン剤受容体を発見することができた。(1973年)
*ナロキソンはモルヒネ過剰投与に対する緊急の解毒剤として用いられている。
時を同じくして、スゥエーデンのテレニウスのチーム(ウプサラ大学)
とニューヨーク大学のサイモンのチームも、それぞれ独立にアヘン剤受容体を発見する。
参考図:「脳内麻薬」、中野信子、幻冬舎、2014