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神奈川絵美の「えみごのみ」

境界を越える人 - 没後70年 吉田博展 -

午後6時過ぎの地震、ここ神奈川の端でもかなり揺れました。
大きな被害がないことを祈ります。

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(前回の続き)

都美術館へのお出かけには

桜色のスリーシーズンコートを着ていきました。

久しぶりの上野駅は、改装が進んでいて

ここは新しい公園口。改札を出れば道路を渡ることなく
すぐに東京文化会館や西洋美術館のある広場へ。

さて、
吉田博の展示は私、初めてだったのですが
非常に刺激を受け、考えさせられました。

登山家でもあった同氏は、近所にふらっと出かける感覚で
富士山や北アルプスへ出かけ、山頂からの眺めをスケッチし
ほかの芸術家では見られない構図での作品を数多く残しています。

それだけでもかなりの個性派、独自路線と思ったのに。

やがて版画に活路を見出し、米国へ販路を求めつくったという
初期の作品に、私は目を丸くしてしまいました。


これ、ぜったい外国人好み!

直感で、そう思いました。
浮世絵っぽい構図に色使い、でも題材が洋風。
ときは大正14年(1925年)。
油彩画で、海外の影響を受けた日本の洋画家は何人も知られていますが
版画でこのような、和洋が調和した作品を生み出す版画家は
そうそういなかったのでは……。

(時代は前後しますが、故・ダイアナ妃も吉田博の作品を好み
執務室に飾っていました。その写真も展示されています)

こちらも。


「ルガノ町」。
ルガノはスイス南部の、今はイタリア語圏の街です。
決して大きくないのですが、今回の展示で、私がもっとも気に入った作品です。

余談ですが、30年以上前に私、チューリヒから鉄道でルツェルン、ルガノ、ロカルノと
町巡りをしたことがあります。

ヨーロッパの街を、浮世絵の面影を残した独特なタッチで
和のような、洋のような、おそらく外国人にとっては新鮮にうつったであろう
雰囲気に仕上げていると思いました。

第二次世界大戦が勃発して、
吉田博は従軍画家として海を渡るのですが
そのときすでに60代。
(さぞ、たいへんだったのでは…)と、年表を見て思ったのですが

というのも、藤田嗣治が同じ経験をしたのち、日本を捨てるようにして
フランスへ行ってしまったことなどを知っていたので。

どうも吉田博にとっては「世界を画材にするチャンス」ととらえていたようで
(本展示の説明ではそのように私は受け止めました)
大戦前にも満州や朝鮮など日本の統治下にあった国へ行き
従軍時にも蘇州などを細密にスケッチし、

とにかくいつも彼の目は外の世界へ、外の世界へと向けられていて
実際は苦労もあったのでしょうけれど、やすやすと国境を越えて
いろんな縛りも越えて、作品を作り続けた、そんな印象を受けました。

なお、吉田博はひと世代前にあたるホイッスラーを信奉していて

こういう作品を描く画家。
彼も浮世絵に大きな影響を受け、和洋の境界を越えていたような
ところがあったので
親近感を抱いていたのではないかなあ、と。

後年になると

「弘前城」。こちらも大好きな作品になりました。
版画と絵画の境界を越えるかのような細密さと立体感のある
作品が目につき、


「亀井戸」。水にうつった橋のカーブなど、ため息ものです。

一つの作品で、88摺、93摺と驚異的な数の摺を重ね、
表現豊かでありながらも、小さくまとまらない奥行のある作品たち。

彫り師や摺り師の方はたいへんだったのでは…。

さらに感心してしまうのが、
外交力というか商才というのか、
自分や自分の作品を世に広めることにもたけていて
終戦直後、マッカーサーが来日の際、「吉田博はいるか」と
指名してきたとか。
現代とは比べようもなく閉鎖的だったであろう時代に
展示を観る限りでは気負いもなく「コスモポリタン」であった吉田博。
会期は28日(日)までで、残りわずかですが
もし観られる状況にあってご興味あれば、強くお勧めします。

特に、私のように1900年代初頭前後のアールヌーボーなど
ヨーロッパの近代美術が好きな人にとっては
“そうではない、もう一つの”
アメリカに放たれた日本美術のエッセンスがどのように評価され
熟していったか、その一端が感じ取れるのではないかなと思います。

コメント一覧

kanagawa_emi
香子さん、こんにちは!
行かれたのですね!いやーホント、同じ感想です。
スケッチのあの描写力! それを版画に活かしたところが
またすごいですよね。
発見の多い、充実の展覧会でした。
香子
ワタシも先週、サクっと行ってきました♪
いやあ、感激でしたね〜 (^-^)b
今まで この方を知らなかったのが悔やまれました。
それにしても版画はもちろん、水彩も油彩もスケッチまで微細詳細!
手を抜かない人なんですよね、すごいなあ〜☆
kanagawa_emi
冬林檎さん、こんにちは。
地震、怖かったことでしょう…こちらもかなり揺れましたもの。
着物は気分が上がりますよね。身支度をしている時間も含めて。
早く気兼ねなくどこでも、外出できるようになったら、と
私も待ち望んでいます。
冬林檎
えみさんのお着物姿が見られて
嬉しいです。
桜色のコートは
まるでドレスのようですね、
華やかです。

こんな時だからこそ
ココロに栄養を!と思っています。
が、こちらは
地震にコロナ、と
行動にブレーキが掛かります。

ワクチンが待ち遠しいですね、
とにかく、何が起きても
慌てずに、と思っています。
(最低限の外出もお着物を着て行くので、
気分転換にもなっております)
kanagawa_emi
朋百香さん、こんにちは!
素人の私でも、工程を知ると気が遠くなります~。
それまでの版画の概念をくつがえすやり方で、
その意味では職人さんとのぶつかり合いもあったようなのですが
何よりも卓越したスケッチ力がベースにあっての
成功だったのだろうな、と思います。
kanagawa_emi
U1さん、コメントありがとうございます!
こちらの投稿のみ残っていたので、掲載させていただきます。
吉田氏はご子息に穂高と名付けるほどの山好きでしたから
信州とも縁深かったですよね。
うろ覚えで、曲解しているかもですが、米国人は自然に対し
「支配するもの」との認識であるのに対し、
吉田氏は「崇拝するもの」と捉え畏敬の念をもって制作に
あたっていたので、「柔らかさ」はそういう気持ちの
あらわれなのかも知れませんね。
朋百香
絵美さま
レポ、ありがとうございました。
こんな版画があるんだ〜と、びっくりしました。
一つの作品で88摺、93摺とは驚異的ですよね。
だからこの奥行きが出るのですね!素晴らしいです。
U1
コメントの途中、誤操作で文章が消えてしまいました。もし送信されているようでしたら削除願います。申し訳ありません。
吉田博展は以前上田市で開催され、鑑賞しました。
独特な「柔らかな」表現に魅了されました。私が好きな道路山水という構図名もこの展覧会で知りました。
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