
巨大恐竜の足跡をたどると、思いがけず命を落とす恐れがある。
24頭分ほどの小さな恐竜の骨格化石が眠る、謎めいた“死の落とし穴”がある。最新の研究によると、1億6000万年前に巨大恐竜が残した足跡かもしれないという。
およそ10年前、中国北西部の辺境、新疆ウイグル自治区で初めて発見されてから、落とし穴は全部で3つ見つかっている。
穴の深さはいずれも1~2メートルで、内部には小型の獣脚類の完全な骨格が多く残されていた。獣脚類は二足歩行の肉食恐竜で、ティラノサウルスもこの系統に属する。
貴重な化石が発掘され科学者たちは喜んだが、1つの謎が残った。なぜ穴が開いて動物たちを呑み込んだのか。
カナダ、アルバータ州のロイヤル・ティレル博物館に所属する地質学者デイビッド・エバース氏のチームは、恐竜の化石の周りにある岩石を分析した。その結果、火山活動が生み出した泥岩と砂岩が穴に溜まり、その混合物に不運な動物たちが閉じ込められた可能性が示されたという。この研究には、ナショナル ジオグラフィック協会が資金の一部を提供している。
「地質データから判断して、堆積物は多量の水分を含んでいたとみられる。このあたりの窪みは常に水浸しだったのだろう」とエバース氏は説明する。
同氏らは「PALAIOS」誌2月号に掲載される研究論文の中で、落とし穴は最大級の竜脚類、マメンチサウルスの足跡だったという説を提唱している。
3つの穴がある場所は現在はゴビ砂漠だが、1億6000万年前はぬかるんだ湿地だった。ところがジュラ紀後期、複数の火山が噴火し、一帯に大量の灰が降り注いだ。火山泥などの流砂が詰まった複数の窪みを堆積物が覆い、半固体の地面が形成されたのだ。
この奇妙な地形を巨大な草食恐竜マメンチサウルスがのし歩き、大きな足が灰に覆われた地面に穴を開けた。その後、足跡は分厚い泥におおわれたと、エーベルト氏らは推測している。浜辺のぬれた砂に残る足跡が波に洗われるように、埋め立てられた巨大恐竜の足跡が“見えない落とし穴”となったのだ。
体重18~23キロくらいの比較的小型の獣脚類や動物は、灰で固められた地面の大部分を難なく歩くことができただろう。しかし、マメンチサウルスが残した泥の罠にはまった途端に身動きがとれなくなったはずだ。命を落とした動物の死骸(しがい)は、少なくとも一部が泥に沈んだはずだ。やがて累々と死骸が積み重なっていったのだろう。
論文によると、マメンチサウルスが歩いてから数カ月経っていれば、死骸の上に立つことができるようになり、命拾いした動物もいた可能性があるという。
アメリカ、スミソニアン研究所国立自然史博物館の学芸員として古脊椎(せきつい)動物学を担当するハンス・ディーター・スーズ氏も、足跡の説は有望と考えている。
スーズ氏は第三者の立場で次のように述べている。「一帯に多くいたリムサウルスは小型の獣脚類で草食だったとみられており、小さな群れで移動していた可能性がある。多くが危険な地面に呑み込まれてもおかしくない」。
スーズ氏は続ける。「穴からはティラノサウルス類に属する捕食性の小型獣脚類、グアンロン・ウカイイ(Guanlong wucaii)とみられる化石も見つかっているが、リムサウルスを格好の餌食と自らも泥にはまってしまったのだろう」。
ただし、落とし穴も興味を引くが、重要なのはその中で見つかった化石骨格のほうだと同氏は言い添えている。この時代の獣脚類は鳥類と近縁関係にあると考えられている。そのため、飛行の進化を解明するのに重要な存在なのだ。
「小型の肉食恐竜はジュラ紀には多くいたが、死骸が発見されることはめったにない」と同氏は言う。捕食恐竜が死骸をズタズタに切り裂いてしまうためや、小さい骨ほど現代まで残る可能性が小さくなるためと考えられている。
穴から同種の複数個体が一緒に見つかれば、恐竜の成長と加齢のプロセスに対する理解がより深まる。また、生態系で果たした役割も知ることができるだろう。
24頭分ほどの小さな恐竜の骨格化石が眠る、謎めいた“死の落とし穴”がある。最新の研究によると、1億6000万年前に巨大恐竜が残した足跡かもしれないという。
およそ10年前、中国北西部の辺境、新疆ウイグル自治区で初めて発見されてから、落とし穴は全部で3つ見つかっている。
穴の深さはいずれも1~2メートルで、内部には小型の獣脚類の完全な骨格が多く残されていた。獣脚類は二足歩行の肉食恐竜で、ティラノサウルスもこの系統に属する。
貴重な化石が発掘され科学者たちは喜んだが、1つの謎が残った。なぜ穴が開いて動物たちを呑み込んだのか。
カナダ、アルバータ州のロイヤル・ティレル博物館に所属する地質学者デイビッド・エバース氏のチームは、恐竜の化石の周りにある岩石を分析した。その結果、火山活動が生み出した泥岩と砂岩が穴に溜まり、その混合物に不運な動物たちが閉じ込められた可能性が示されたという。この研究には、ナショナル ジオグラフィック協会が資金の一部を提供している。
「地質データから判断して、堆積物は多量の水分を含んでいたとみられる。このあたりの窪みは常に水浸しだったのだろう」とエバース氏は説明する。
同氏らは「PALAIOS」誌2月号に掲載される研究論文の中で、落とし穴は最大級の竜脚類、マメンチサウルスの足跡だったという説を提唱している。
3つの穴がある場所は現在はゴビ砂漠だが、1億6000万年前はぬかるんだ湿地だった。ところがジュラ紀後期、複数の火山が噴火し、一帯に大量の灰が降り注いだ。火山泥などの流砂が詰まった複数の窪みを堆積物が覆い、半固体の地面が形成されたのだ。
この奇妙な地形を巨大な草食恐竜マメンチサウルスがのし歩き、大きな足が灰に覆われた地面に穴を開けた。その後、足跡は分厚い泥におおわれたと、エーベルト氏らは推測している。浜辺のぬれた砂に残る足跡が波に洗われるように、埋め立てられた巨大恐竜の足跡が“見えない落とし穴”となったのだ。
体重18~23キロくらいの比較的小型の獣脚類や動物は、灰で固められた地面の大部分を難なく歩くことができただろう。しかし、マメンチサウルスが残した泥の罠にはまった途端に身動きがとれなくなったはずだ。命を落とした動物の死骸(しがい)は、少なくとも一部が泥に沈んだはずだ。やがて累々と死骸が積み重なっていったのだろう。
論文によると、マメンチサウルスが歩いてから数カ月経っていれば、死骸の上に立つことができるようになり、命拾いした動物もいた可能性があるという。
アメリカ、スミソニアン研究所国立自然史博物館の学芸員として古脊椎(せきつい)動物学を担当するハンス・ディーター・スーズ氏も、足跡の説は有望と考えている。
スーズ氏は第三者の立場で次のように述べている。「一帯に多くいたリムサウルスは小型の獣脚類で草食だったとみられており、小さな群れで移動していた可能性がある。多くが危険な地面に呑み込まれてもおかしくない」。
スーズ氏は続ける。「穴からはティラノサウルス類に属する捕食性の小型獣脚類、グアンロン・ウカイイ(Guanlong wucaii)とみられる化石も見つかっているが、リムサウルスを格好の餌食と自らも泥にはまってしまったのだろう」。
ただし、落とし穴も興味を引くが、重要なのはその中で見つかった化石骨格のほうだと同氏は言い添えている。この時代の獣脚類は鳥類と近縁関係にあると考えられている。そのため、飛行の進化を解明するのに重要な存在なのだ。
「小型の肉食恐竜はジュラ紀には多くいたが、死骸が発見されることはめったにない」と同氏は言う。捕食恐竜が死骸をズタズタに切り裂いてしまうためや、小さい骨ほど現代まで残る可能性が小さくなるためと考えられている。
穴から同種の複数個体が一緒に見つかれば、恐竜の成長と加齢のプロセスに対する理解がより深まる。また、生態系で果たした役割も知ることができるだろう。