
国立天文台などの研究者チームは、すばる望遠鏡に搭載されたコロナグラフで、太陽系外の若い恒星の周りにあるガスと塵の円盤 (原始惑星系円盤) の表面に固体の水である氷が存在していることを初めて直接的に確認しました。 これまでの観測から氷の存在は示唆されていましたが、円盤にあるのか円盤を取り巻く構造 (エンベロープ) にあるのかは良く分かっていませんでした。今回、すばる望遠鏡の高い解像力により、氷が惑星形成現場である原始惑星系円盤にあることが初めてわかったのです。
惑星は、原始惑星系円盤の中でチリが大量に集まってできると考えられています。そのときに、塵に含まれていた氷が惑星の海の材料になる可能性があります。今回発見された氷は、将来、この恒星のまわりに惑星が生まれるときに、そこでの海や生命の誕生を議論するための貴重な観測データになります。
解説
約40億年前、地球の表面をおおう広大な海の中で、最初の生命が誕生したと考えられています。私たち人類の体の主成分が水であるように、地球上の生命にとって欠かすことのできない水。地球は「水の惑星」と言われますが、この豊富な水はどこから来たのでしょうか?
地球をはじめとする太陽系の惑星は、約46億年前に生まれた太陽の周りにあったガスとチリの円盤の中で、チリの粒が互いにぶつかってくっつきあい、さらにそれらが寄り集まって合体してできたと考えられています。その際、一部のチリには氷、つまり固体状態の水が含まれていました。さらには、彗星 (チリと氷の塊) が生まれたての地球に多数衝突しました。それらに含まれていた氷は、合体や衝突の衝撃で加熱されて水蒸気となりつつも、生まれたての地球の重力に引かれてとどまり、やがて冷えて雨となり、海となったとする仮説があります。つまり、地球の海の材料は、その昔宇宙のチリに含まれていた氷だったのかもしれないのです。
ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡をはじめとする各種の最新鋭望遠鏡の活躍により、太陽系外の若い恒星の周囲にあるガスとチリの円盤 (原始惑星系円盤) が見つかっています。このような円盤の中では、今まさに、惑星が生まれつつあると考えられています。また、1995年の最初の発見以来、現在までに300個以上の太陽系外の惑星が見つかっています。一方で、地球のように、表面に海がある惑星は、今のところまだ見つかっていません。
さて、太陽系を作った円盤がそうであったように、今まさに惑星が生まれつつある原始惑星系円盤にも、氷を含むチリがたくさん存在するはずです。実際、これまでの観測では、円盤とその周辺の領域に氷が存在する兆候が見つかっていました。しかし、氷が円盤のどこにあるのかは分かっていませんでした。そこで研究チームは、中心にある恒星から出た光が円盤の表面で散乱されて生じる、散乱光に刻まれた氷の兆候を調べることにしました。
散乱光に刻まれる氷の兆候とはどんなものでしょうか?氷の分子は、可視光線より波長の長い赤外線の波長3.1ミクロンの光を特に吸収する性質があります。そこで、円盤表面にある氷が光を散乱する場合を考えてみると、散乱光のうち波長3.1ミクロンの光だけが吸収され、他の波長の散乱光に比べて暗くなることが理論的に予想されます。一方、氷を含まないチリによる散乱光にはそのような吸収は現れません。このようにして、円盤表面に氷があるかどうかを見分けることができます。
今回の観測は、2005年6月30日と2007年7月26日にすばる望遠鏡に補償光学つきコロナグラフ撮像装置 (CIAO;チャオ) を取り付けて行なわれました。観測した天体は、おおかみ座にあるHD142527という地球から650光年の恒星です。その質量は太陽の2倍弱ほど、年齢は約200万年程度と推定されています。以前の観測から、この恒星の周囲には原始惑星系円盤があり、惑星が生まれつつあることが分かっていました (2006年度発表の「すばる、新しい形の円盤を発見 ~多波長赤外線でみる惑星誕生現場の姿~」をご覧ください )。 今回は、可視光より波長の長い赤外線の波長3.1ミクロンと3.8ミクロンでのHD142527周囲の円盤の画像を取得しました。この画像は、円盤表面で散乱された中心恒星の光の分布を表わしています。 今回観測した波長3.1ミクロン、3.8ミクロンの散乱光の強さを、以前の観測で分かっていた波長2ミクロンあたりの散乱光の強さと比べると、波長3.1ミクロンの散乱光だけが暗くなっていることが分かりました。円盤表面にまさしく氷があったのです。
今回氷が見つかった場所は、中心の恒星から100AU (天文単位。地球-太陽間の距離が1AUなのでその100倍) 以上離れた円盤の表面でした。実際に惑星が生まれるのは、中心の恒星にもっと近い場所と考えられます。今回見つかった氷は、惑星の材料というよりはむしろ、 将来の彗星の材料なのかもしれません。しかしそれは同時に、海の材料となる可能性もあるのです。実際、はじめにも述べたように、地球の海は彗星に含まれていた氷を材料としてできたとする説があります。今回見つかった氷は、将来、彗星となり生まれたての惑星に降り注ぎ、やがて海となるのかもしれません。そしてそこで新しい生命が生まれるのかも… と想像が膨らみます。
今回の観測では、円盤の比較的外側の表面に氷が存在していることが示されました。では、惑星が生まれるような、もっと恒星に近い部分はどうなっているのでしょうか?残念ながら、今回撮影された画像では中心の恒星の明るい光の影響のため、円盤の内側部分の様子は良く分かりません。理論的には、恒星に近い部分は恒星の強い光に加熱されて氷が蒸発してしまっていると考えられます。つまり、中心の恒星からの距離がある程度離れた部分だけに氷があると考えられます。この氷が存在できる境界線のことを、「スノーライン (雪線)」と呼びます。スノーラインの位置は、惑星ができる様子や、惑星にどのように水がもたらされるかに大きな影響を与えると考えられているため、今後の観測では、このスノーラインの位置を特定することが目標です。
惑星は、原始惑星系円盤の中でチリが大量に集まってできると考えられています。そのときに、塵に含まれていた氷が惑星の海の材料になる可能性があります。今回発見された氷は、将来、この恒星のまわりに惑星が生まれるときに、そこでの海や生命の誕生を議論するための貴重な観測データになります。
解説
約40億年前、地球の表面をおおう広大な海の中で、最初の生命が誕生したと考えられています。私たち人類の体の主成分が水であるように、地球上の生命にとって欠かすことのできない水。地球は「水の惑星」と言われますが、この豊富な水はどこから来たのでしょうか?
地球をはじめとする太陽系の惑星は、約46億年前に生まれた太陽の周りにあったガスとチリの円盤の中で、チリの粒が互いにぶつかってくっつきあい、さらにそれらが寄り集まって合体してできたと考えられています。その際、一部のチリには氷、つまり固体状態の水が含まれていました。さらには、彗星 (チリと氷の塊) が生まれたての地球に多数衝突しました。それらに含まれていた氷は、合体や衝突の衝撃で加熱されて水蒸気となりつつも、生まれたての地球の重力に引かれてとどまり、やがて冷えて雨となり、海となったとする仮説があります。つまり、地球の海の材料は、その昔宇宙のチリに含まれていた氷だったのかもしれないのです。
ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡をはじめとする各種の最新鋭望遠鏡の活躍により、太陽系外の若い恒星の周囲にあるガスとチリの円盤 (原始惑星系円盤) が見つかっています。このような円盤の中では、今まさに、惑星が生まれつつあると考えられています。また、1995年の最初の発見以来、現在までに300個以上の太陽系外の惑星が見つかっています。一方で、地球のように、表面に海がある惑星は、今のところまだ見つかっていません。
さて、太陽系を作った円盤がそうであったように、今まさに惑星が生まれつつある原始惑星系円盤にも、氷を含むチリがたくさん存在するはずです。実際、これまでの観測では、円盤とその周辺の領域に氷が存在する兆候が見つかっていました。しかし、氷が円盤のどこにあるのかは分かっていませんでした。そこで研究チームは、中心にある恒星から出た光が円盤の表面で散乱されて生じる、散乱光に刻まれた氷の兆候を調べることにしました。
散乱光に刻まれる氷の兆候とはどんなものでしょうか?氷の分子は、可視光線より波長の長い赤外線の波長3.1ミクロンの光を特に吸収する性質があります。そこで、円盤表面にある氷が光を散乱する場合を考えてみると、散乱光のうち波長3.1ミクロンの光だけが吸収され、他の波長の散乱光に比べて暗くなることが理論的に予想されます。一方、氷を含まないチリによる散乱光にはそのような吸収は現れません。このようにして、円盤表面に氷があるかどうかを見分けることができます。
今回の観測は、2005年6月30日と2007年7月26日にすばる望遠鏡に補償光学つきコロナグラフ撮像装置 (CIAO;チャオ) を取り付けて行なわれました。観測した天体は、おおかみ座にあるHD142527という地球から650光年の恒星です。その質量は太陽の2倍弱ほど、年齢は約200万年程度と推定されています。以前の観測から、この恒星の周囲には原始惑星系円盤があり、惑星が生まれつつあることが分かっていました (2006年度発表の「すばる、新しい形の円盤を発見 ~多波長赤外線でみる惑星誕生現場の姿~」をご覧ください )。 今回は、可視光より波長の長い赤外線の波長3.1ミクロンと3.8ミクロンでのHD142527周囲の円盤の画像を取得しました。この画像は、円盤表面で散乱された中心恒星の光の分布を表わしています。 今回観測した波長3.1ミクロン、3.8ミクロンの散乱光の強さを、以前の観測で分かっていた波長2ミクロンあたりの散乱光の強さと比べると、波長3.1ミクロンの散乱光だけが暗くなっていることが分かりました。円盤表面にまさしく氷があったのです。
今回氷が見つかった場所は、中心の恒星から100AU (天文単位。地球-太陽間の距離が1AUなのでその100倍) 以上離れた円盤の表面でした。実際に惑星が生まれるのは、中心の恒星にもっと近い場所と考えられます。今回見つかった氷は、惑星の材料というよりはむしろ、 将来の彗星の材料なのかもしれません。しかしそれは同時に、海の材料となる可能性もあるのです。実際、はじめにも述べたように、地球の海は彗星に含まれていた氷を材料としてできたとする説があります。今回見つかった氷は、将来、彗星となり生まれたての惑星に降り注ぎ、やがて海となるのかもしれません。そしてそこで新しい生命が生まれるのかも… と想像が膨らみます。
今回の観測では、円盤の比較的外側の表面に氷が存在していることが示されました。では、惑星が生まれるような、もっと恒星に近い部分はどうなっているのでしょうか?残念ながら、今回撮影された画像では中心の恒星の明るい光の影響のため、円盤の内側部分の様子は良く分かりません。理論的には、恒星に近い部分は恒星の強い光に加熱されて氷が蒸発してしまっていると考えられます。つまり、中心の恒星からの距離がある程度離れた部分だけに氷があると考えられます。この氷が存在できる境界線のことを、「スノーライン (雪線)」と呼びます。スノーラインの位置は、惑星ができる様子や、惑星にどのように水がもたらされるかに大きな影響を与えると考えられているため、今後の観測では、このスノーラインの位置を特定することが目標です。