「時は現在、場所はここ」と「今、ここ」

① 「時は現在、場所はここ」
赤ちゃんに、あまりにも現実と違うものを見せるよりも、なるべく現実に近い本を選びましょう、みたいな教えがあります。
 過去がこうだったから今こうだ、などというような複雑な絵本は、赤ちゃん向きでないという説明のある文章が「BOOK END」(絵本学会の本)に載っていました。

② 「今ここ」
『絵本は赤ちゃんから』佐々木宏子/著(新曜社)の中に、この言葉があるのを読んで、前述の「時は現在、場所はここ」と、私たちは混同して使ってきたのだな、と気がつきました。
(混同していたのは私だけかもしれませんが)

①について、異論を言います。本という紙製の物を見て、子どもも赤ちゃんも「今ここでないどこか」がその紙の上に展開されるのを認識するのではないでしょうか。それをキャッキャッと喜ぶ。
 紙の上に印刷されれば、においも手触りも無く、それは空想上のものになりますので、どんなにリアルに書いてあってもそれは「時と場所は紙の上」で、要するに「時は現在、場所はここ」の絵本など、たとえ赤ちゃんむけ認識絵本であっても、ありえないのです。 赤ちゃんがリアルに書いてあるいちごの絵本を見て、よだれを流したり触ったりなめたりするのを大人は喜びますが、それは、赤ちゃんが、現実「今ここ」でないどこかを紙の上に認識する瞬間だと思います。
 私は自分の記憶があります。小学校に入ってからも、お人形さんの絵を書くとき、鏡を見て自分の鼻を触って、その次にお人形の絵(マンガ・ぬりえの線画)の鼻の棒線を触って「どうして線じゃないのに線を書くんだろう」と不思議だったこと。「紙の上では棒線を書くと鼻みたいに見える。鼻の筋の影かなあ」と納得するしかなかったです。納得できない人は、彫塑の道を行ったのかなー。

 「人生経験の少ない赤ちゃんのために、なるべく現実に近い本を与える」というのは、
Aパターンとして、現実に近い絵を見せてものの名前を認識させる教育効果があります。
Bパターンとして、「紙の上には、現実に似てるけど現実ではないことが書かれている。今ここでない別の世界があることを知るアハ体験のチャンスを与える」こともあります。
黒埼図書館で紙芝居の絵を見て朗々と語る子や、『論座』を祝詞のように読みあげる1歳児(『絵本は赤ちゃんから』前述15P)は、どこかでそんなアハ体験をしたのでしょうね。

 ブルーナの絵などを見て、現実に近い形をしているとか、現在のことが書かれているとか思う人はあんまりいないでしょう?つまり、ブルーナの絵本が赤ちゃん絵本として評価が高いのは、形が単純化され、「今ここでないどこか」に行き易いからではないでしょうか。
 『いちご』(福音館書店)では、待っている子どもと雪の中のいちごの絵が交互に出てきます。現実に近い子どもと今ここでない雪の上の絵が交互に現れます。
つまり、今ここ→絵本の上のちょっと近い空想→絵本の上の遠い雪の情景の空想 
がページごとに現れるということです。
 構成上、現実から飛び立ちやすいようになっていると思います。
      ・・・こんなこと、すでにどこかの評論本に書いてあるでしょうけれど。

 「子どもの絵本を大切に」などと言われて、形が妙に変わっている絵の本は、「子どもを軽視するもの」と嫌われてきました。でもそれはAパターンしか視野になかったのですね。Bパターンから考えると、形が違えば違うだけ「今ここ」でないどこかに旅立つきっかけになると思います。

「子どもの本を愛して大切にする人の地層がある。そこから引き剥がされていく」などと以前『こどもとしょかん』(東京子ども図書館)に書かれていました。でも、それって、大切にする人の地層ではなく、子どもをよく研究しない人の地層ではないかと思うのです。「導いてあげる」と思っていれば相手を対等に見て研究するはずはないのでは?

①に紹介された本は、自分で手を洗ったり外で歩いて遊ぶことが書かれているそうです。ここから考えると、主人公は赤ちゃんではないですね。赤ちゃんの認識の違いですが。赤ちゃん絵本というより、幼児絵本です。回想シーンがあって難しい本という印象があります。回想シーンがあるということと、「赤ちゃん絵本は、時は現在、場所はここ。だから赤ちゃんに向かない」(Aパターンの権化)というのと、別の話だと思えるのですが。
この言葉、なにか標語のようになっています。どこかで刷り込まれたのではないかと、自分を振り返って、ちょっと思いました。


 今日、朝日新聞に「おてて絵本」について特集がありました。「むかしむかし・・」と始めるのですね。これに関連して、次に書きたいと思います。

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