おじいさんがね、小学6年生になって、両親にある中学の試験を受験したいと話をしたんだ。
そのころ 我が家は 貧しくてね。貧しいというより 父親の収入を超える子供が12名
だった。子供の私にも うすうすわかってはいたんだが、中学に進学したいという
気持ちを抑えることができなかった。
そんな母親は わたしに言った。「中学を受験していいよ。その代わり 必ず合格すること。
もし 試験におちたら ここを志望しなさい。」と言って渡されたのが
「満蒙開拓少年団の入所申込書だった。当時政府の宣伝゛かなりたくさんの人が参加していた。
それだけ 我が家の経済は切羽詰まっていたのだろう。
隣の嘉先輩が当時上級生として在籍していた。「来年は必ずじゅけんするんだ。
きっと合格するんだよ。休暇で帰省した時 わたしにそう伝えた。
嘉兄のためにもぜひ合格せねばと思った。全部で5人が受験して 私一人が受かった。
嬉しい思いと悲しい思いが複雑な気持ちにさせた。
嘉兄は海軍兵学校を出て 戦艦ヤマトに乗り 沖縄で壮烈な戦死を遂げた。
もしあの時受験に失敗して満蒙開拓義勇団に入っていたら シベリヤに送られて
命を失っていただろう。
それから5年後私は 海軍将校を夢見て海兵団で 特別訓練を受けていた。
嘉兄に続こうと思っていた。
終戦は意外な形で行われた。有史以来初めて他国に占領された。
若い人たちは 戦争についてよく知らない。ほんとの戦争はまさに残酷だ。
ふたたび戦争してはいけないとおもう気持ちは今も持ちつづけている。
人をも殺してばいけない。人に殺されてはいけない。これは人間の鉄則だ。