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「IFRSは製造業に向かない」を元IASB理事が検証(@ITより)

「IFRSは製造業に向かない」を元IASB理事が検証

IASBの元理事である山田辰己氏による講演の模様を伝える記事。IFRSへの様々な指摘を検証した内容だったそうです。

まず、会計基準と、歴史、文化、風土などとのかかわりについて。

「・・・「会計制度は、国における歴史、経済文化、風土を踏まえた企業の在り方(とかかわりがある)」については、「私はほとんどそういう例を知らない」と話した。」

「山田氏が10年以上前に日本の不動産関係者にIAS第40号(投資不動産)を説明したとき、関連してDCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)による時価評価を説明したら、「日本のマーケットにおける時価は直近の取引価格だ。DCFという考えは存在していない」とその不動産関係者から「かなり怒られた」という。「確かに当時は直近の取引価格をベースにいろいろな取引が行われていたという実態があった」(山田氏)。これが山田氏が知る唯一の例。ただ、そのDCFも不動産の証券化などの考えが広がることで一般的になった。」

日本の不動産鑑定基準でも、収益還元法は相当前から規定されており、取引事例だけで時価が決まっていたわけではないでしょう。(そういう傾向があったためにバブルが拡大してしまったという面はありますが)

「国際標準であるIFRSに対して日本のビジネス慣習とのミスマッチを指摘する声は多いが、山田氏は「突き詰めて考えると、IFRSが考えている取引形態と違う取引形態が(国内に)あるというケースには出会わない。こういう主張は分かるが、よくよく詰めるとその数は多くない」と指摘した。」

固定資産の会計処理について。

「山田氏は「有形固定資産や無形資産を全部時価評価をして、その評価損益を当期純利益で認識するなんてことはこれっぽっちも考えていない」と反論した。IAS第16号(有形固定資産)やIAS第38号(無形資産)では取得原価で認識した後の減価償却による期間配分が基本で、「そのような資産を公正価値で測定するという議論は、これまでIASBで1度も行われていない」。

 IAS第16号、IAS第38号では原価モデルの他に再評価モデルを選ぶことができるが、これは「財政状態計算書で認識されている有形固定資産の簿価が公正価値と大きく異ならないようにするために行われているものであり、金融商品などに適用される公正価値測定とは異なる」。山田氏は「IFRSが製造業に向いていないという話は世界で聞いたことがない。IFRSに対して誤解があるのではないか」とした。

再評価モデルは英国の会計基準の影響を受けているのだと思いますが、日本でも、土地再評価が期限を決めて実施されています(評判はよくありませんが)。原価モデルであれば、大枠では日本基準と変わらないのでしょう。

包括利益について。

「IFRSの包括利益についても「将来の予測であり、重視すべきは過去の業績を示す当期純利益」という指摘がある。・・・だが、山田氏は「当期純利益が固まった数字で、経営者の見積もりが含まれないということはありえない」と説明する。日本基準においても貸倒引当金の設定や耐用年数の見積もり、減価償却方法の選択など「多くの局面で、経営者の見積もりが過去の実績になっている」からだ。」

会計学のテキストには、財務諸表は、記録と慣習と判断の総合的表現であるといったことがよく書かれています。判断や見積もりという要素は、どんな会計基準でもある話で、IFRSだけの問題ではないというのは、もっともです。

そのほか、会計基準設定主体の独立性についても発言があったようです。

「山田氏はまた、自見担当大臣が6月30日の企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議のあいさつで、IFRSとのコンバージェンス作業としてASBJ(企業会計基準委員会)が進めている開発費とのれんの議論について、「ASBJの活動に委ねるのではなく、この審議会でコンバージェンスの方向性をしっかりと議論をしていただきたい」と話したことについて、「基準作成の独立性についての挑戦的な発言」と指摘した。IASBやFASB(米国財務会計基準審議会)など政府から独立した組織が会計基準を開発するのが世界の潮流の中で、大臣の発言は「国際的にかなり由々しい」。」

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