金融庁から、「会計監査の在り方に関する懇談会」提言が、2016年3月8日付で公表されました。「会計監査の信頼性確保のために」という副題がついています。
この報告書では、会計監査の信頼性確保に向けて講ずるべき取組みを、以下の5つの柱に整理し、それぞれ詳しく論じています。
(1)監査法人のマネジメントの強化
(2)会計監査に関する情報の株主等への提供の充実
(3)企業不正を見抜く力の向上
(4)「第三者の眼」による会計監査の品質のチェック
(5)高品質な会計監査を実施するための環境の整備
最初の「監査法人のマネジメントの強化」については、「監査法人のガバナンス・コード 」がまず取り上げられています。
「コードの具体的な内容としては、大手上場企業等の監査を担う一定規模以上の監査法人への適用を念頭に置きつつ、例えば、職業的懐疑心の発揮を促すための経営陣によるリーダーシップの発揮、運営・監督態勢の構築とその明確化、人材啓発、人事配置・評価の実施等について規定することが考えられる。その詳細については、我が国の監査法人を取り巻く環境や課題に照らしつつ、金融庁のリーダーシップの下、幅広い意見を参考にしながら早急に検討が進められていくべきである。」
(「人材啓発」という言葉はあまり聞きませんが「人材開発」とどう違うのでしょうか。)
「大手上場企業等の監査を担える監査法人を増やす環境整備」もあげられています。これといった施策は見当たりませんが、準大手監査法人等をターゲットに、ガバナンスやマネジメントの強化を、外部からのチェックにより促すということのようです。
2番目の「会計監査に関する情報の株主等への提供の充実」では、「企業による会計監査に関する開示の充実 」のほか、監査法人等による「会計監査の内容等に関する情報提供の充実」を提言しています。具体的には以下のような情報です。
・監査法人等のガバナンス情報の開示
・監査報告書の透明化等
・監査人の交代時における開示
このほか、「当局による会計監査に関する情報提供の充実」(公認会計士・監査審査会によるモニタリング活動の成果など)もあげられています。
脚注で、監査の品質を測定する指標(Audit Quality Indicators)の策定についてもふれています。
3番目の「企業不正を見抜く力の向上 」については、「会計士個人の力量の向上と組織としての職業的懐疑心の発揮」 (監査の現場での訓練など)と「不正リスクに着眼した監査の実施」(監査法人等のなガバナンスとマネジメント)が取り上げられています。
4番目の「「第三者の眼」による会計監査の品質のチェック」では、まず「監査法人の独立性の確保」があげられています。監査法人のローテーション制度の導入や監査チーム全体のローテーション義務付けについて、調査・分析・検討を求めています。(すぐに強制するということではないようです。)
また、「当局の検査・監督態勢の強化」として、大手監査法人に対する検査の頻度を上げること、問題の背後にある根本原因等にもより着目した監督を行うことなどについてふれています。
「日本公認会計士協会の自主規制機能の強化」にもふれており、品質管理レビューの見直し、上場会社監査事務所登録制度の厳格運用などを求めています。
5番目の「高品質な会計監査を実施するための環境の整備」では、 主として企業側の課題として「企業の会計監査に関するガバナンスの強化」や「実効的な内部統制の確保」を求めるとともに、「監査における IT の活用」にもふれています。
今後については...
「提言のうち、関係者において直ちに実施可能なものについては、速やかに実施に向けた作業が進められることを期待するとともに、懇談会としてもその進捗をフォローしていく。また、提言のうち、更なる調査・分析を必要とするものについては、関係者において速やかに調査等が行われることを求めたい。懇談会としても、調査等の結果を踏まえ、必要に応じて更なる検討を行っていく。」
こちらの資料で概要が1枚にまとまっています。
↓
施策の全体像(PDFファイル)
監査法人、交代制も検討 金融庁が年内にも統治指針(日経)
「東芝の会計不祥事を踏まえ、監査法人が守るべき規範を示す「ガバナンス・コード(統治指針)」を年内につくる。企業とのなれ合いを防ぐため監査法人を一定期間ごとに変える交代制の導入も検討する。金融庁と監査法人が定期的に意見交換する協議会も設ける。
指針をつくる方針は、政府が6月に出す成長戦略に明記。金融庁が指針の具体策を詰める。」
金融庁としては、成長戦略に書き込む項目が(たいした項目ではないけれども)一つ増えた(自民党への得点稼ぎができた?)ということになるのでしょう。
金融庁 監査法人に統治指針策定へ 東芝不正会計受け(毎日)
「...金融庁は年内をめどに一定以上の規模の監査法人を対象とする統治指針を策定する。3月中にも新たな有識者会議を設置して具体的な項目を詰める。不正があることを想定して監査を行う組織体制や人事評価の仕組みが整っているか、明確にするよう促す狙いだ。
企業とのなれ合いで監査が甘くなるのを防ぎ、監査法人の独立性を保つため、監査法人の交代制も検討する。「国内には大企業の監査を担える法人が少なく導入は困難」との指摘もある。このため、導入した場合の利点や課題について、金融庁が欧州の先行事例を詳しく現地調査する。
情報開示の拡充も進める。監査人は監査報告書に財務諸表が適正かどうかの結論だけでなく、着目した虚偽表示の恐れについても記載。企業は有価証券報告書に担当の監査人が自社の監査に従事してきた期間を明記する。」
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