金融庁の公認会計士・監査審査会は、公認会計士2名に対する行政処分を金融庁に勧告しました(2025年4月30日)。
(監査法人に対する処分では個人名が出ないのに、個人事務所では個人の名前が出るのは不公平に思えるので、ここではイニシャルで示します。)
別々のプレスリリースとなっていますが、この2人は共同監査で同じ会社を監査しているようです。
1.公認会計士Oに対する検査結果に基づく勧告について(PDFファイル)
「当公認会計士は、自身のこれまでの監査実務経験に照らして、自らが監査責任者として関与する監査業務において適切な水準の品質が確保されていると思い込んでおり、監査に関する品質管理の基準を含む監査の基準の理解や、現行の監査の基準が求める水準の理解に努める姿勢が欠如している。」
協会の品質管理レビューでの指摘に対して「これらの根本的な原因に十分に対応した施策を立案・実施しておらず、事務所の業務管理態勢及び品質管理態勢を適切に整備・運用するために必要かつ効果的な措置を講じていない。」
「(共同で監査を実施する)他の事務所の監査責任者や監査補助者において、監査の基準の理解や、現行の監査の基準が求める品質管理及び監査手続の水準に対する理解が著しく不足している状況を認識できておらず、また、上記の監査の基準等の理解不足に起因して、共同で実施する監査業務に広範かつ多数の不備が生じている状況を認識できていない。 」
「当事務所及びS公認会計士事務所(代表者:公認会計士S)(以下「両事務所」という。)は、協会による令和4年度品質管理レビュー(以下「令和4年度レビュー」という。)において、個別監査業務に関し、多数の不備を指摘されている。
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しかしながら、今回の審査会検査で検証対象とした個別監査業務において、レビュー指摘事項と同様の不備が多数発生しており、レビュー指摘事項に対する実効的な改善策が図られていない。 」
「両事務所は、監査業務を新規に受嘱する際、前任監査人に監査基準報告書 900「監査人の交代」第9項に基づく質問を実施しないまま、監査契約の新規の締結を行っている。また、審査担当者は、当該監査契約の新規の締結に伴うリスク評価の妥当性について審査する際、監査チームによる前任監査人に対する質問及び当該質問結果を踏まえたリスク評価が未実施となっていることを指摘していない。 」
「監査責任者は、重要な虚偽表示リスクに関する監査手続の実施に際し、監査補助者に対する適切な指示・監督を行っていないほか、関連する監査調書の深度ある査閲を行っていない。」
「監査責任者及び監査補助者は、監査の基準の理解や、現行の監査の基準が求める手続の水準に対する理解が著しく不足している。特に、重要な虚偽表示リスクの評価(収益認識に係る不正リスクの評価を含む。)及び評価したリスクに対応する手続の実施に関し、監査の基準の理解や、現行の監査の基準が求める手続の水準に対する理解が著しく不足している。」
「監査責任者及び監査補助者は、重要な虚偽表示リスクが相対的に高い重要な会計上の見積り、継続企業の前提の評価、関連当事者との取引等に関する監査において、経営者の説明(経営者の説明における矛盾点を含む。)や被監査会社が作成した資料を批判的に検討していないなど、職業的懐疑心が不足している。」
「監査責任者及び監査補助者は、被監査会社による会計処理や開示書類の記載内容には問題がないとの思い込みや、外貨建取引、金融商品、固定資産の減損等に係る会計基準に対する理解不足から、被監査会社による会計処理や開示書類の記載内容を慎重に検討する意識が不足している。」
「関係会社株式の譲渡及び期末評価の検討が著しく不適切かつ不十分、また、監査業務の引継、収益認識に関する不正リスクの検討、会計上の見積りの監査(貸付金及び未収入金の評価並びに固定資産の減損)、全社統制の不備の検討、在外子会社所有の土地の換算に係る検討、関連当事者との取引の注記に係る検討及び継続企業の前提の評価が著しく不適切又は不十分といった重要な不備が認められる。」
「連結範囲の検討、重要性の基準値の検討、後発事象の検討、開示の検討、退職給付引当金や給与手当等に関する実証手続、内部監査人の作業の利用に係る検討、内部統制の運用評価手続、関連当事者との取引の注記に係る検討、利益相反取引の承認の検討、監査役等とのコミュニケーション、監査調書の整理及び虚偽表示の評価が不適切又は不十分といった、広範かつ多数の不備が認められる。 」
2.公認会計士Sに対する検査結果に基づく勧告について (PDFファイル)
指摘内容は、1と重複が多いようなので、省略します。
上場会社監査人登録制度では、両事務所ともまだ「みなし」登録となっています。また、本登録も含めて、この2事務所以外に、個人の会計事務所の登録はないようです。(金融庁・協会の思惑どおり、個人会計士事務所は上場会社監査から締め出されることになるのでしょう。)
O公認会計士事務所の説明書類より。
S公認会計士事務所の説明書類より。
会計士2人の処分勧告(朝日)(記事の一部のみ)
「勧告を受けたのはS氏とO氏で、元社長らが会社法違反(自己株式の不正取得)の罪で在宅起訴されたオウケイウェイヴなど上場4社を共同で監査しているという。」