会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

会計監査と経営管理(トーマツより)

会計監査と経営管理

住友商事元副社長の島崎 憲明氏が、トーマツの月刊誌に寄稿し、昔話を語っています。

興味深い内容ですが、不正銅取引巨額損失事件については、ちょっとどうなのかなあと思いました。

「私の経理マン人生で最も衝撃的な事件は部長に就任して3年が経ち、不動産バブルや財テクの後始末を終え、決算数値も巡航速度の水準に回復しつつあった1996年6月5日に発覚した。 10年も前から営業担当部長が会社の許可を得ずに取引を行い巨額の実現損と簿外のポジションを隠し持っていたのだ。 本人の告白があった後一週間かけて実態把握の調査を行い6月13日に公表した。 この時点での損失は18億米ドル(1900億円)程度と推定され、当3月期の決算には反映していないことも発表した。すでに決算公表を終え、株主総会の招集通知を発送した後に事態判明したこともあり、会社としては本件を後発事象ととらえ、適時開示の後は翌期決算で処理することでよかろうと考えていた。 ところが監査法人の意見は、事態の重要性に鑑み、本件の予想損失を前期(1996年3月期)の決算に反映すべきというもので、要は、決算と株主総会の招集をやり直す、 株主総会日も先に延ばして対応して欲しいというものだった。 監査法人と会社幹部を交えた打合せは平行線の議論が延々と続いた。 夕刻に始めた会議が深夜0時を回ったころだったろうか、 ある案に思い至ったのだ。それは、公表済の損益計算書は変更せずに、 定時株主総会において予想される損失に備えるため、 利益処分により別途積立金を取り崩して特定損失積立金を計上するというものであった。 翌日、著名な会社法学者の意見をもらったが、教授曰く、「利益処分で特定損失積立金を積み立て、翌期の損失に備えることは妥当な処理である。 決算をやり直す必要はなく後発事象として注記すればよい」というもので、期待通りのコメントだった。今では、会社法と金商法監査のタイミングギャップから生ずるこの種の問題については取扱いが明確化されている。」

当時と今とでは会計基準が違うとはいえ、簿外で取引をやっていて、その損失(実現した損失も含まれる)を隠していた(過年度の財務諸表は当時の会計基準に照らしても間違っていた)わけですから、後発事象の問題というよりは、過年度決算の訂正の問題であり、訂正報告書の提出が必要な事案です(過年度遡及修正の基準は最近できたものですが、訂正報告書の制度は、当時もあったはず)。

会社に押し切られて、後発事象で済ませてしまった監査法人の姿勢も情けないと思います。そういうことだから、監査人には強く出れば、会社側の意見が通るということになり、この監査法人ではないかもしれませんが、様々な不正事件が、その後も起きてしまって、監査人は何をやっていたのかということになるのでしょう。

積立金を積み立てておけばそれでいいという法律学者の意見もひどいものです。また、当時の監督当局(大蔵省)は、どうしてこんな会計処理や開示を認めたのでしょうか。

吉見宏教授によるこちらの論文で、この不正取引事件について比較的詳しく論じられています。問題の利益処分案も引用されています。

我が国における企業不正事例(8)(PDFファイル)
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