第四節 無権代理(A)
※無権代理の態様
・・・・・
(条文整理…把握)
第113条 無権代理
1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追及をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2項 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りではない。
・・・・・
第114条 無権代理の相手方の催告権
前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答しないときは、追認を拒絶したものとみなす。
・・・・・
第115条 無権代理の相手方の取消権
代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを知っていたときは、この限りではない。
・・・・・
第116条 無権代理行為の追認
追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時に遡ってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
・・・・・
第117条 無権代理人の責任
1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2項 前項の規定は、他の代理人として契約をした者が代理権を有しないこ とを相手方が知っていたとき、又は他人の代理人として契約をしたものが行為能力を有しなかったときは、通用しない。
・・・・・
第118条 単独行為の無権代理
単独行為については、その行為の時において、相手方が、代理人と称する者が代理権を有しないで行為することに同意し、又はその代理権を争わなかったときに限り、第113条から前条までの規定を準用する。代理権を有しない者に対しその同意を得て単独行為をしたときも、同様とする。
・・・・・
(意義)
1、代理は、本来、代理人が正当な代理権を有することが要件となっている。(99条)
⇒この代理権がない場合を無権代理という。
(これに対して代理権のある通常の場合を有権代理と呼ぶ。)
2、さらに無権代理のうち、相手方を保護すべき場合には、表見代理として有権代理と類似の効果が認められる。
※無権代理行為の一般的効力
1、代理人として代理行為をした者が、当該代理行為について代理権を有しない場合には、その法律効果は、代理人に帰属しないのは当然のこと、本人にも帰属しない。
⇒特に契約の無権代理の場合、本人の追認があれば、遡って本人に効果が帰属するという、いわば浮動的状態にあるもので、無効ではなく効果不帰属であるにすぎないとされる。
※本人の追認権(確認)⇒復習項目
①意義
1、本人は、無権代理行為を追認して、正当な代理権を伴ってなされた場合
と同じ効果を生じさせることができる。
2、無権代理行為だからといって本人にとって常に不利益な内容のものとは限らず、また本人との間で効力を生じることは相手方としても本来期待したところであるから、かかる追認を認めることに合理性があるからである。
②追認権の行使方法
1 追認は、その効果を自己に帰属させる意思表示であり、単独行為である。
⇒したがって、無権代理人や相手方の同意は必要ではない。
2 追認は本人に限らず、権限を有するものであれば、追認することができる。
(本人の相続人の後見人など)
3 追認は、相手方ある単独行為であるが、その相手方は、無権代理人でも代理行為の相手方でもよい。
⇒ただし、無権代理人に対して追認した場合には、相手方が追認をしらないと、相手方に対しては追認の効果を主張することができないので注意が必要。
※この場合も無権代理人に対する関係では有効であり、追認の効果を主張することができる。
⇒また、相手方が本人に追認の効果を主張することは妨げられない。
4 黙示の追認も認められる
※関連判例
無権代理行為の追認への125条の類推適用の可否について
・無権代理行為の追認には、取消しに関する125条の法定追認の規定の類推適用はないとするのが判例。
⇒したがって、125条に該当する事由があっても当然に追認があったとはみなされないことになる。
※追認の効果
1、原則として、本人の追認があると、無権代理行為は契約のときに遡って(追認したときからではないことに注意をする)適法な代理行為であったことになり、その契約の効果が本人に帰属することになる。
(理由)
・本人は、すでになされた代理行為に対して、そのようなものとして追認するのであり、相手方も、はじめから効力があるものと考えて行動しているので、行為時に遡るのを原則としているからである。
※非権利者による権利処分行為と116条の類推適用
・Aの権利につき、BがAの代理人としてではなく、B自身の名において勝手に処分した場合は、Aがその後当該処分行為を追認すれば、116条の類推適用という意味合いになり、処分の時に遡って効力を生ずると解されている。
(理由)
・無権代理も非権利者による処分行為も、ともに処分権能を欠くという点では共通するからである。
※追認の効果の例外
①特約による例外
※本人と相手方との間の「別段の意思表示」により遡及しないものとすることができる。
②遡及効の制限規定
1、116条但し書 追認の遡及効は「第三者の権利を害することはできない」と規定されている。
(理由)
・この例外規定は実際上は稀にしか適用されない。というのは、追認によって相手方などが遡及的に取得することになる権利と衝突する権利を、第三者が追認までの間に取得したとしても、両者間の権利の優劣は、もっぱら、当該権利としての対抗関係の法理によって決せられることになり、116条ただし書きによって第三者が常に保護されるというわけではないからである。
(事例)
・適用例としては、Aから時計の寄託をうけたBがAの代理人と称してCにそれを売却し、占有改定によって引渡しをし、次いで、Aは同じ時計をDに売却し、Dは指図による占有移転をした後、Bの代理行為を追認した場合などがある。
※占有改定とは
・自己の占有物を今後相手方のために占有する意思表示をして相手方に占有権を取得させることをいう。
⇒たとえば、物を売って相手方に引渡さないまま賃借するような場合である。
(物権編参照)
※本人の追認の拒絶
1、無権代理行為を追認することは本人の権利であり、義務ではない。のみならず本人はより積極的に追認を拒絶することもできる。(113条2項参照)
2、本人その他の追認権者が追認を拒絶すれば、代理行為の効果は本人に帰属しないことが確定する。
(以後は、本人は追認できなくなり、相手方も115条の取消しができなくなる)
3、追認拒絶の意思表示の相手方などは追認の場合と同様である。
※催告権と取消権(相手方の不安定な地位を解消させるための手段)
1、無権代理行為である契約の相手方は、本人との間の所期の効果を生ずるのは、もっぱら本人の意思次第という不安定な状態におかれる。
⇒この不利益を緩和するために取消権と催告権を設けている。
・・・・・
(参考条文)※二回目
114条
無権代理の場合において、相手方は本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認するかどうか確答すべき旨を催告することができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。
・・・・・
1、相手方は相当の期間を定め、その期間内に追認するか否かを確答すべき旨を、本人に対して催告することができ、右期間内に確答が到達しないときは、追認の拒絶があったものとみなされ追認拒絶が擬制されることになる。
2、この催告権について、契約当時相手方が無権代理であることを知っていても(悪意)認められることになる。
※対比として(参考)
・催告権は、相手方の善意を問わないが、取消権は、相手方が善意の場合にのみ認められることになる。
⇒更に、相手方が無権代理人の責任を追及するためには善意無過失であることが要求される。
・・・・・
(参考条文)※二回目
115条 無権代理の相手方の取消権
代理権を有しない者がした契約は、本人が追認しない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りではない。
・・・・・
1、相手方は、契約時に無権代理であることを知らなかった場合(過失の有無を問わない)に限り、本人の追認がない間なら、当該契約を取り消すことができる。
2、この「取消し」は、問題の契約を確定的に無効とする一種の撤回であり、これにより、本人はもはや追認することができなくなる。
(無権代理行為は効果不帰属に確定することになる)
・・・・・
※関連
1、無権代理において無権代理人と相手方間の売買が錯誤によって無効である場合でも、本人は無権代理行為を追認できる。
2、本人による追認は、無権代理人に代理権があったこのと同様の効果を生じ、代理行為の瑕疵(本問においては錯誤)までも治癒するものではない。
⇒無権代理行為に錯誤があっても追認することが可能であることに注意。
※なお、本人が追認をした後の法律関係は、代理行為に瑕疵があった場合と同様の関係にたつことになる。
※本人と無権代理人の間の相続
1 無権代理人が本人を相続した場合
※本人が生前に追認も追認拒絶もしていなかった場合
2 無権代理人のみによる単独相続の場合
※推定相続人たる子が、父の財産を代理権なくして処分した後、父が死亡し、当該財産を相続した場合について判例は、「本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当」であるとして、当該無権代理行為は、はじめから有効な行為(有権代理行為)とする。
※学説
①無権代理が本人を相続した場合
1、父Bの土地を、息子Bが勝手にAの代理人としてCに売却した後、Aが死亡しBが相続。
⇒Aの生前であれば、Cは取消権を行使するか、Aが追認を拒絶した場合にはBに対して無権代理人の責任を追及しうるにとどまる。
※しかしBがAを相続することにより、かかる法律関係がいかなる影響を受けるのかが問題となる。
a 地位融合説
※本人と無権代理人の地位が相続によって一体となり、追認があったのと同様に無権代理が治癒される。(追完される)
※これに対する批判として
相続により、相手方の取消権が一方的に奪われることになる。
b 地位併存説
※相続によって無権代理行為が当然に有効とはならず、無権代理人には本人から承継した追認権・追認拒絶権と無権代理人としての117条の責任が併存する。
⇒この説の中でも追認拒絶権を認めるか否かで結論が分かれる。
(下記参照)
b1 地位併存貫徹説
※無権代理人は、相続した本人の立場において、追認を拒絶することができる。
(理由)
① 追認を拒絶されても117条の責任を問いうるのであれば、履行請求の方法を選択して、有権代理を主張するのとほぼ同じ効果を挙げることができる。
② 相手方はもともと一定の要件下で無権代理人の責任を追及しうるのみであったのに、相続という偶然の事情により代理行為の効果を当然に主張できるようになるのは妥当でない。
b2 信義則説(通説)
※無権代理行為を行った者が、追認を拒絶するのは信義則上許されない。
(理由)
・本人の追認を得られると思ってなした無権代理行為につき、本人の地位を承継した途端に、その資格で追認を拒絶し、履行責任を免れようとすることは、著しく信義則に反することになる。
※判例
最判昭40.6.18
1、「無権代理行為が本人を相続し本人と代理人との資格が同一に帰するに至った場合においては、本人自らが法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当である。」と判示した。
※無権代理人が本人を相続する場合に共同相続であったとき
・この場合には、無権代理人以外の相続人の利益に配慮しなければならないから、無権代理行為は当然には有効にならない。
※判例によれば、
①共同相続人全員が、無権代理行為の追認をしているときは、
無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されない。
(相続人全員に代理行為の効果が帰属する)
②他の共同相続人の全部又は一部が追認をしないときは、
無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する場合においても、有効とはならない。
(理由)
・本人が生前に有していた追認権が相続人全員に不可分的に帰属するということを理論的根拠とする。
※学説
①無権代理人が本人を共同相続した場合
※父Aの土地を、息子Bが勝手にAの代理人としてCに売却した後、Aが死亡しBDが共同相続した。
⇒Aの生前であれば、Cは取消権を行使するか、Aが追認を拒絶した場合にはBに対して無権代理人の責任を追及しうるにとどまるが、BDがAを相続することにより、かかる法律関係がいかなる影響を受けるのかが問題となる。
a 地位融合説
・本人と無権代理人の地位が相続によって一体となり、追認があったのと同様に無権代理が治癒される(追完される)と解することになる。
⇒無権代理人の相続分の限度においては当然有効となる。
b 地位併存説
b1地位併存貫徹説
※単独相続の場合と同様、無権代理人の追認拒絶を認めるから、共同相続人全員が追認しない限り無権代理行為は有効とはならない。
b2 信義則説
※単独相続の場合に信義則に基づき無権代理人の追認拒絶を否定する見解は、共同相続の場合についてはさらに説が分かれる。
① 信義則・追認可分説
※無権代理行為を行ったものは、自己の相続分に相当する限度においては、他の相続人の追認がないことを理由に追認を拒絶することは信義則上許されないとする見解である。
② 信義則・追認不可分説
※追認権が複数者に帰属する場合、一部追認は認められず、無権代理人の部分のみ追認があったとすることは不可能。
⇒他の共同相続人全員が追認している場合でない限り、無権代理行為は有効とならないとする見解である
※判例
最判平5.1.21
(事案)
※BはEがCから金銭を借り入れるに際し、債権者Cとの間で父親Aを無権代理してA名義で保証契約を締結したが、その後、Aの死亡によりBDが共同相続した。
⇒そこで、CがBに対して保証契約の1/2については無権代理人の本人相続により有効に成立したとして支払を求めた事案である。
判旨
※「無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する権利は、おの性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理行為の追認は、本人に治して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。」
※そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為を追認している場合に無権代理人が追認を拒絶するのは信義則上許されないとしても、
他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない」と判示した。
⇒保証契約を有効とは認めなかった。
※本人が生前に追認又は追認拒絶をしていた場合には、単独相続か共同相続かにかかわらず、生前に本人の元で生じていた効果ないし地位を相続人が承継することになる。
⇒本人が追認していたときは、それによって本人に帰属していた当事者としての権利義務を相続人が承継する。
※また、本人が追認を拒絶していた時は、無権代理行為は、本人に効力の及ばないものとして確定したときは、無権代理行為は、本人に効力が及ばないものとして確定したのであり、このことはその後に無権代理人が本人を相続しても影響を受けないことになる。
②本人が無権代理人を相続した場合についての学説
※父Aの土地を、息子Bが勝手にAの代理人としてCに売却した後、Bが死亡しAが相続した。
⇒Bの生前であれば、Cは取消権を行使するか、Aが追認を拒絶した場合にはBに対して無権代理人の責任を追及しうるにとどまるが、AがBを相続することにより、かかる法律関係がいかなる影響を受けるのかが問題となる。
a 地位融合説
※本人と無権代理人の地位が相続によって一体となり、追認があったのと同様に無権代理が治癒される。
(追完される)
b 地位併存説
※相続によって無権代理行為は当然に有効とはならず、本人には本人としての追認・追認拒絶権と承継した無権代理人としての117条責任とが併存する。
⇒そして、この場合には追認拒絶を認めることになる。
(理由)
・もともと本人は追認拒絶しうる立場にあったわけであり、相続という偶然の事情による追認拒絶権を奪うべきではないと考えることができる。
※本人は追認拒絶しうるとしても、相手方が117条に基づき履行請求をしてきた場合、本人はこれに応じなければいけないかについて説が分かれる。
b1 本人の義務を肯定する説
※取引の安全のためには、善意・無過失の相手方の利益が守られるべきである。
b2 債務の内容が特定物の引渡しである場合には、本人の義務を否定する説
①特定物給付義務については被相続人たる無権代理人自身はその履行に応ずることができなかったと考えられる。
(相手方は損害賠償請求で満足すべきであったと言え)
⇒相続という偶然の事情により相手方に履行請求という望外の利益を与える必要はないことになる。
② 本人は追認拒絶により本来の履行を拒絶できるはずであったのに、相続により履行を余儀なくされるというのは、本人にとって酷と思われる。
※判例
①最判昭37.4.20
(事案)
※父が子を無権代理して不動産を譲渡した後死亡し、本人(子)が無権代理人を単独相続した事案。
判旨
・「相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、
何ら信義に反するところはないから、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではない」と判示している。
⇒本人の追認拒絶を認めた。
※しかし、本人が無権代理人の責任を相続するのか否かには触れていない。
②最判昭48.7.3百選Ⅰ(38)
(事案)
※XがSに金銭を貸付けた最、無権限のA(父)がY(子)の代理人として連帯保証契約を締結した後、Aが死亡。
⇒Y等がAを相続したので、XがY等に対して、117条によりAが負うべきであった無権代理の責任を相続したとしてその履行を請求した事案。
判旨
・「117条による無権代理の債務が相続の対象となることは明らかであって、このことは本人が無権代理人を相続した場合でも異ならないから、本人は相続により無権代理人の右債務を承継する。
⇒本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあったからといって右債務を免れることはできない」と判示している。
(結論)
※Xの請求を認めている。
※結論として、判例は本人が117条の無権代理の責任を相続するとしている。
※無権代理人を本人と共に相続したものがその後更に本人を相続した場合においては、当該相続人は本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、本人自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生じることになる。
※単独行為の無権代理の一般的効力
・一方的意思表示によって法律関係の変動を生じさせる単独行為は、私的自治の原則のもとでは、例外たるべきものと考えることができ、なるべくこれを認めないことが望ましいと思われる。
⇒したがって、単独行為の無権代理は、原則として、確定的無効とされ、本人による追認の可能性が否定されることになる。
※寄附行為・所有権放棄等の相手方のない単独行為の無権代理行為
・こちらについては常に確定的に無効である。
⇒本人の追認によって有効とする余地もなく、無権代理の責任も生じないことになる。
(理由)
・相手方保護の規定を発動する余地がないからである。
※契約解除・債務の免除などの相手方ある単独行為の無権代理行為
・こちらは原則として無効であるが、次の2つの場合において、一定の事情があるときに限り、契約における無権代理と同様、118条不確定無効とされる。
⇒したがって、その場合、本人の追認権、相手方の催告権・取消権、及び無権代理人の責任に関する113条ないし117条の準用がある。
1 能動代理(代理人が本人に代わって契約解除するなど)の場合
※次の事情があれば不確定無効となる。(118条)
① 自称代理人が代理権なくして当該代理行為をすることに、その行為の当時相手方が同意していた場合
② 自称代理人の代理権を、その行為の当時相手方が争わなかった場合
(たとえば、「代理権もないくせに何をいうか、おれは相手にしないぞ」と異議を述べるような態度したときには、確定的に無効となる)
2 受動代理(相手方が代理人に対して解除の意思表示をするなど)の場合
※無権代理人が同意して相手方の意思表示を受領した場合にだけ、契約の場合と同視される。
(理由)
・相手方からの意思表示を受ける無権代理人が、「私に代理権はないので、私にいってもだめだ」といっているのに、本人について効力を生じさせずに、無権代理人の責任だけを認めるわけにはいかないからである。
※無権代理人の責任
1 意義
・無権代理行為が本人によって追認されず、相手方が所期の目的を達し得なかったときは、本来なら、相手方の救済方法としては、不法行為に基づく損害賠償請求が考えられる。
⇒これに関して、民法は、取引の安全を図り、代理制度の信用を維持するために、特別の法定責任として、善意・無過失の相手方に対する無権代理人の無過失責任を認めている。
要件
※無権代理人の責任117条が成立するためには、以下の要件を充足しないと効果がない。
※無権代理人側の要件として
① 他人の代理人として契約をなしたこと
(立証責任は相手方) 甲
② 本人に対する効果帰属事由がないこと
(立証責任は代理人)
a 代理人が代理権を立証できないこと
b 本人の追認がないこと 乙
③ 無権代理人が制限行為能力者でないこと
(立証責任は代理人) 丙
※相手方の要件
① 代理権のないことについて善意・無過失であること
(立証責任は代理人) 丁
② 115条の取消権を行使しなかったこと
(立証責任は代理人) 戌
・甲 単独行為の無権代理の場合において、契約の無権代理と同じに扱われる場合にも117条の適用がある。
⇒この場合には、相手方に代理権不存在に関する悪意又は過失の存するところが多いであろうから、無権代理人の責任が発生する場合はすくないと思われる。
・乙 従って、無権代理人が、本人の追認があったことを立証すれば無権代理の責任を免れることになる。
・丙 制限行為能力者保護の趣旨である。
⇒したがって、制限行為能力者が法定代理人又は保佐人及び補助人の同意を得て無権代理行為をした場合には責任は免れない。
※無権代理人は、自己の能力の制限を立証すれば本条の責任を免れる。
・丁 無権代理人の方で相手方の悪意又は過失を立証すれば本条の責任を免れる。
・戌 この点は、法文上明確ではない。
⇒無権代理人が、相手方による無権代理行為の取消しのあったことを立証すれば、本条の責任を免れると解されている。(通説)
※無権代理行為の取消しは、無権代理人との法律関係を解消させる趣旨と解されている。
※本条の責任追及は無過失責任であるから、無権代理人に過失があることは本条責任追及の要件ではないと考えることができる。
※責任の内容
1、以上の要件が満たされれば、無権代理人は法律上当然に、相手方の選択に従って、「履行」又は「損害賠償」の責めに任ずることになる。
2、この両者の責任の関係については、選択債権(407条以下)関係にはないとする古い判例があるが、学説は一種の選択債務の関係にあると解している。
3、履行の責任とは、もし有権代理であったと仮定したら本人・相手方間に成立したであろう契約の内容どおりの法律関係が、無権代理人と相手方とを当事者とを当事者として存在するに至ったものとして取り扱われるという趣旨と考えることができる。
4、損害賠償とは、単に代理権があったと信じたことによって被った損害(信頼利益)ではなく、有効な契約があったと同一の利益(履行利益という)の賠償を指すと解されている。
※信頼利益
・代金支払いのために銀行から融資を受けた場合の利息、目的物の検分を行ったその調査費用などが挙げられる。
※履行利益
・目的物の転売による利益や値上がり利益などが挙げられる。たとえばBが権限がないのに、Aの代理人と称して、Cからその所有の土地甲を1億円で購入する契約をCと締結し、CがBに対して同条の損害賠償を請求するとする。
⇒この場合において、甲土地の時価が9千万円としたら、甲の土地が1億円で売れたときに、Cが得られるはずであった代金額と、Cが甲土地を保有している利益との差額1千万円の損害賠償の支払を、CはBに請求しうるということである。
※本人と無権代理人との間の効果
1、無権代理効果は、本人の追認がない限りは、本人・相手方間に何らの効果も生ぜしめないのみならず、本人と無権代理人の間においても、何らの法律関係も生じないことになる。
2、ただし、無権代理の行為によって、事実上本人が損害を被るようなことがあれば、本人に対する無権代理人の不法行為責任が問題となることもありうる。
3、本人が無権代理行為を追認したときは、本人と無権代理人との間には原則として事務管理が成立すると解する説が多い。
⇒判例もそのように解したものがある。
4、しかし、無権代理人には本人の利益を図る意思がなかったという場合もあり、かかる場合には事務管理も成立しない。
(事務管理の成立要件として、通説は「他人の利益を図る意思」が必要と解する)
⇒したがって、この場合にも無権代理人の本人に対する不法行為責任が問題となりうる。
(理由)
・実際問題として、本人は、内部的には無権代理人の行為を許す意思は全然なくても、自己の対外的信用を維持するために、無権代理行為を相手方に対する意思表示によって追認するという場合もありうるからである。
※無権代理の態様
・・・・・
(条文整理…把握)
第113条 無権代理
1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追及をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2項 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りではない。
・・・・・
第114条 無権代理の相手方の催告権
前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答しないときは、追認を拒絶したものとみなす。
・・・・・
第115条 無権代理の相手方の取消権
代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを知っていたときは、この限りではない。
・・・・・
第116条 無権代理行為の追認
追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時に遡ってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
・・・・・
第117条 無権代理人の責任
1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2項 前項の規定は、他の代理人として契約をした者が代理権を有しないこ とを相手方が知っていたとき、又は他人の代理人として契約をしたものが行為能力を有しなかったときは、通用しない。
・・・・・
第118条 単独行為の無権代理
単独行為については、その行為の時において、相手方が、代理人と称する者が代理権を有しないで行為することに同意し、又はその代理権を争わなかったときに限り、第113条から前条までの規定を準用する。代理権を有しない者に対しその同意を得て単独行為をしたときも、同様とする。
・・・・・
(意義)
1、代理は、本来、代理人が正当な代理権を有することが要件となっている。(99条)
⇒この代理権がない場合を無権代理という。
(これに対して代理権のある通常の場合を有権代理と呼ぶ。)
2、さらに無権代理のうち、相手方を保護すべき場合には、表見代理として有権代理と類似の効果が認められる。
※無権代理行為の一般的効力
1、代理人として代理行為をした者が、当該代理行為について代理権を有しない場合には、その法律効果は、代理人に帰属しないのは当然のこと、本人にも帰属しない。
⇒特に契約の無権代理の場合、本人の追認があれば、遡って本人に効果が帰属するという、いわば浮動的状態にあるもので、無効ではなく効果不帰属であるにすぎないとされる。
※本人の追認権(確認)⇒復習項目
①意義
1、本人は、無権代理行為を追認して、正当な代理権を伴ってなされた場合
と同じ効果を生じさせることができる。
2、無権代理行為だからといって本人にとって常に不利益な内容のものとは限らず、また本人との間で効力を生じることは相手方としても本来期待したところであるから、かかる追認を認めることに合理性があるからである。
②追認権の行使方法
1 追認は、その効果を自己に帰属させる意思表示であり、単独行為である。
⇒したがって、無権代理人や相手方の同意は必要ではない。
2 追認は本人に限らず、権限を有するものであれば、追認することができる。
(本人の相続人の後見人など)
3 追認は、相手方ある単独行為であるが、その相手方は、無権代理人でも代理行為の相手方でもよい。
⇒ただし、無権代理人に対して追認した場合には、相手方が追認をしらないと、相手方に対しては追認の効果を主張することができないので注意が必要。
※この場合も無権代理人に対する関係では有効であり、追認の効果を主張することができる。
⇒また、相手方が本人に追認の効果を主張することは妨げられない。
4 黙示の追認も認められる
※関連判例
無権代理行為の追認への125条の類推適用の可否について
・無権代理行為の追認には、取消しに関する125条の法定追認の規定の類推適用はないとするのが判例。
⇒したがって、125条に該当する事由があっても当然に追認があったとはみなされないことになる。
※追認の効果
1、原則として、本人の追認があると、無権代理行為は契約のときに遡って(追認したときからではないことに注意をする)適法な代理行為であったことになり、その契約の効果が本人に帰属することになる。
(理由)
・本人は、すでになされた代理行為に対して、そのようなものとして追認するのであり、相手方も、はじめから効力があるものと考えて行動しているので、行為時に遡るのを原則としているからである。
※非権利者による権利処分行為と116条の類推適用
・Aの権利につき、BがAの代理人としてではなく、B自身の名において勝手に処分した場合は、Aがその後当該処分行為を追認すれば、116条の類推適用という意味合いになり、処分の時に遡って効力を生ずると解されている。
(理由)
・無権代理も非権利者による処分行為も、ともに処分権能を欠くという点では共通するからである。
※追認の効果の例外
①特約による例外
※本人と相手方との間の「別段の意思表示」により遡及しないものとすることができる。
②遡及効の制限規定
1、116条但し書 追認の遡及効は「第三者の権利を害することはできない」と規定されている。
(理由)
・この例外規定は実際上は稀にしか適用されない。というのは、追認によって相手方などが遡及的に取得することになる権利と衝突する権利を、第三者が追認までの間に取得したとしても、両者間の権利の優劣は、もっぱら、当該権利としての対抗関係の法理によって決せられることになり、116条ただし書きによって第三者が常に保護されるというわけではないからである。
(事例)
・適用例としては、Aから時計の寄託をうけたBがAの代理人と称してCにそれを売却し、占有改定によって引渡しをし、次いで、Aは同じ時計をDに売却し、Dは指図による占有移転をした後、Bの代理行為を追認した場合などがある。
※占有改定とは
・自己の占有物を今後相手方のために占有する意思表示をして相手方に占有権を取得させることをいう。
⇒たとえば、物を売って相手方に引渡さないまま賃借するような場合である。
(物権編参照)
※本人の追認の拒絶
1、無権代理行為を追認することは本人の権利であり、義務ではない。のみならず本人はより積極的に追認を拒絶することもできる。(113条2項参照)
2、本人その他の追認権者が追認を拒絶すれば、代理行為の効果は本人に帰属しないことが確定する。
(以後は、本人は追認できなくなり、相手方も115条の取消しができなくなる)
3、追認拒絶の意思表示の相手方などは追認の場合と同様である。
※催告権と取消権(相手方の不安定な地位を解消させるための手段)
1、無権代理行為である契約の相手方は、本人との間の所期の効果を生ずるのは、もっぱら本人の意思次第という不安定な状態におかれる。
⇒この不利益を緩和するために取消権と催告権を設けている。
・・・・・
(参考条文)※二回目
114条
無権代理の場合において、相手方は本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認するかどうか確答すべき旨を催告することができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。
・・・・・
1、相手方は相当の期間を定め、その期間内に追認するか否かを確答すべき旨を、本人に対して催告することができ、右期間内に確答が到達しないときは、追認の拒絶があったものとみなされ追認拒絶が擬制されることになる。
2、この催告権について、契約当時相手方が無権代理であることを知っていても(悪意)認められることになる。
※対比として(参考)
・催告権は、相手方の善意を問わないが、取消権は、相手方が善意の場合にのみ認められることになる。
⇒更に、相手方が無権代理人の責任を追及するためには善意無過失であることが要求される。
・・・・・
(参考条文)※二回目
115条 無権代理の相手方の取消権
代理権を有しない者がした契約は、本人が追認しない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りではない。
・・・・・
1、相手方は、契約時に無権代理であることを知らなかった場合(過失の有無を問わない)に限り、本人の追認がない間なら、当該契約を取り消すことができる。
2、この「取消し」は、問題の契約を確定的に無効とする一種の撤回であり、これにより、本人はもはや追認することができなくなる。
(無権代理行為は効果不帰属に確定することになる)
・・・・・
※関連
1、無権代理において無権代理人と相手方間の売買が錯誤によって無効である場合でも、本人は無権代理行為を追認できる。
2、本人による追認は、無権代理人に代理権があったこのと同様の効果を生じ、代理行為の瑕疵(本問においては錯誤)までも治癒するものではない。
⇒無権代理行為に錯誤があっても追認することが可能であることに注意。
※なお、本人が追認をした後の法律関係は、代理行為に瑕疵があった場合と同様の関係にたつことになる。
※本人と無権代理人の間の相続
1 無権代理人が本人を相続した場合
※本人が生前に追認も追認拒絶もしていなかった場合
2 無権代理人のみによる単独相続の場合
※推定相続人たる子が、父の財産を代理権なくして処分した後、父が死亡し、当該財産を相続した場合について判例は、「本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当」であるとして、当該無権代理行為は、はじめから有効な行為(有権代理行為)とする。
※学説
①無権代理が本人を相続した場合
1、父Bの土地を、息子Bが勝手にAの代理人としてCに売却した後、Aが死亡しBが相続。
⇒Aの生前であれば、Cは取消権を行使するか、Aが追認を拒絶した場合にはBに対して無権代理人の責任を追及しうるにとどまる。
※しかしBがAを相続することにより、かかる法律関係がいかなる影響を受けるのかが問題となる。
a 地位融合説
※本人と無権代理人の地位が相続によって一体となり、追認があったのと同様に無権代理が治癒される。(追完される)
※これに対する批判として
相続により、相手方の取消権が一方的に奪われることになる。
b 地位併存説
※相続によって無権代理行為が当然に有効とはならず、無権代理人には本人から承継した追認権・追認拒絶権と無権代理人としての117条の責任が併存する。
⇒この説の中でも追認拒絶権を認めるか否かで結論が分かれる。
(下記参照)
b1 地位併存貫徹説
※無権代理人は、相続した本人の立場において、追認を拒絶することができる。
(理由)
① 追認を拒絶されても117条の責任を問いうるのであれば、履行請求の方法を選択して、有権代理を主張するのとほぼ同じ効果を挙げることができる。
② 相手方はもともと一定の要件下で無権代理人の責任を追及しうるのみであったのに、相続という偶然の事情により代理行為の効果を当然に主張できるようになるのは妥当でない。
b2 信義則説(通説)
※無権代理行為を行った者が、追認を拒絶するのは信義則上許されない。
(理由)
・本人の追認を得られると思ってなした無権代理行為につき、本人の地位を承継した途端に、その資格で追認を拒絶し、履行責任を免れようとすることは、著しく信義則に反することになる。
※判例
最判昭40.6.18
1、「無権代理行為が本人を相続し本人と代理人との資格が同一に帰するに至った場合においては、本人自らが法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当である。」と判示した。
※無権代理人が本人を相続する場合に共同相続であったとき
・この場合には、無権代理人以外の相続人の利益に配慮しなければならないから、無権代理行為は当然には有効にならない。
※判例によれば、
①共同相続人全員が、無権代理行為の追認をしているときは、
無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されない。
(相続人全員に代理行為の効果が帰属する)
②他の共同相続人の全部又は一部が追認をしないときは、
無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する場合においても、有効とはならない。
(理由)
・本人が生前に有していた追認権が相続人全員に不可分的に帰属するということを理論的根拠とする。
※学説
①無権代理人が本人を共同相続した場合
※父Aの土地を、息子Bが勝手にAの代理人としてCに売却した後、Aが死亡しBDが共同相続した。
⇒Aの生前であれば、Cは取消権を行使するか、Aが追認を拒絶した場合にはBに対して無権代理人の責任を追及しうるにとどまるが、BDがAを相続することにより、かかる法律関係がいかなる影響を受けるのかが問題となる。
a 地位融合説
・本人と無権代理人の地位が相続によって一体となり、追認があったのと同様に無権代理が治癒される(追完される)と解することになる。
⇒無権代理人の相続分の限度においては当然有効となる。
b 地位併存説
b1地位併存貫徹説
※単独相続の場合と同様、無権代理人の追認拒絶を認めるから、共同相続人全員が追認しない限り無権代理行為は有効とはならない。
b2 信義則説
※単独相続の場合に信義則に基づき無権代理人の追認拒絶を否定する見解は、共同相続の場合についてはさらに説が分かれる。
① 信義則・追認可分説
※無権代理行為を行ったものは、自己の相続分に相当する限度においては、他の相続人の追認がないことを理由に追認を拒絶することは信義則上許されないとする見解である。
② 信義則・追認不可分説
※追認権が複数者に帰属する場合、一部追認は認められず、無権代理人の部分のみ追認があったとすることは不可能。
⇒他の共同相続人全員が追認している場合でない限り、無権代理行為は有効とならないとする見解である
※判例
最判平5.1.21
(事案)
※BはEがCから金銭を借り入れるに際し、債権者Cとの間で父親Aを無権代理してA名義で保証契約を締結したが、その後、Aの死亡によりBDが共同相続した。
⇒そこで、CがBに対して保証契約の1/2については無権代理人の本人相続により有効に成立したとして支払を求めた事案である。
判旨
※「無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する権利は、おの性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理行為の追認は、本人に治して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。」
※そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為を追認している場合に無権代理人が追認を拒絶するのは信義則上許されないとしても、
他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない」と判示した。
⇒保証契約を有効とは認めなかった。
※本人が生前に追認又は追認拒絶をしていた場合には、単独相続か共同相続かにかかわらず、生前に本人の元で生じていた効果ないし地位を相続人が承継することになる。
⇒本人が追認していたときは、それによって本人に帰属していた当事者としての権利義務を相続人が承継する。
※また、本人が追認を拒絶していた時は、無権代理行為は、本人に効力の及ばないものとして確定したときは、無権代理行為は、本人に効力が及ばないものとして確定したのであり、このことはその後に無権代理人が本人を相続しても影響を受けないことになる。
②本人が無権代理人を相続した場合についての学説
※父Aの土地を、息子Bが勝手にAの代理人としてCに売却した後、Bが死亡しAが相続した。
⇒Bの生前であれば、Cは取消権を行使するか、Aが追認を拒絶した場合にはBに対して無権代理人の責任を追及しうるにとどまるが、AがBを相続することにより、かかる法律関係がいかなる影響を受けるのかが問題となる。
a 地位融合説
※本人と無権代理人の地位が相続によって一体となり、追認があったのと同様に無権代理が治癒される。
(追完される)
b 地位併存説
※相続によって無権代理行為は当然に有効とはならず、本人には本人としての追認・追認拒絶権と承継した無権代理人としての117条責任とが併存する。
⇒そして、この場合には追認拒絶を認めることになる。
(理由)
・もともと本人は追認拒絶しうる立場にあったわけであり、相続という偶然の事情による追認拒絶権を奪うべきではないと考えることができる。
※本人は追認拒絶しうるとしても、相手方が117条に基づき履行請求をしてきた場合、本人はこれに応じなければいけないかについて説が分かれる。
b1 本人の義務を肯定する説
※取引の安全のためには、善意・無過失の相手方の利益が守られるべきである。
b2 債務の内容が特定物の引渡しである場合には、本人の義務を否定する説
①特定物給付義務については被相続人たる無権代理人自身はその履行に応ずることができなかったと考えられる。
(相手方は損害賠償請求で満足すべきであったと言え)
⇒相続という偶然の事情により相手方に履行請求という望外の利益を与える必要はないことになる。
② 本人は追認拒絶により本来の履行を拒絶できるはずであったのに、相続により履行を余儀なくされるというのは、本人にとって酷と思われる。
※判例
①最判昭37.4.20
(事案)
※父が子を無権代理して不動産を譲渡した後死亡し、本人(子)が無権代理人を単独相続した事案。
判旨
・「相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、
何ら信義に反するところはないから、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではない」と判示している。
⇒本人の追認拒絶を認めた。
※しかし、本人が無権代理人の責任を相続するのか否かには触れていない。
②最判昭48.7.3百選Ⅰ(38)
(事案)
※XがSに金銭を貸付けた最、無権限のA(父)がY(子)の代理人として連帯保証契約を締結した後、Aが死亡。
⇒Y等がAを相続したので、XがY等に対して、117条によりAが負うべきであった無権代理の責任を相続したとしてその履行を請求した事案。
判旨
・「117条による無権代理の債務が相続の対象となることは明らかであって、このことは本人が無権代理人を相続した場合でも異ならないから、本人は相続により無権代理人の右債務を承継する。
⇒本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあったからといって右債務を免れることはできない」と判示している。
(結論)
※Xの請求を認めている。
※結論として、判例は本人が117条の無権代理の責任を相続するとしている。
※無権代理人を本人と共に相続したものがその後更に本人を相続した場合においては、当該相続人は本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、本人自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生じることになる。
※単独行為の無権代理の一般的効力
・一方的意思表示によって法律関係の変動を生じさせる単独行為は、私的自治の原則のもとでは、例外たるべきものと考えることができ、なるべくこれを認めないことが望ましいと思われる。
⇒したがって、単独行為の無権代理は、原則として、確定的無効とされ、本人による追認の可能性が否定されることになる。
※寄附行為・所有権放棄等の相手方のない単独行為の無権代理行為
・こちらについては常に確定的に無効である。
⇒本人の追認によって有効とする余地もなく、無権代理の責任も生じないことになる。
(理由)
・相手方保護の規定を発動する余地がないからである。
※契約解除・債務の免除などの相手方ある単独行為の無権代理行為
・こちらは原則として無効であるが、次の2つの場合において、一定の事情があるときに限り、契約における無権代理と同様、118条不確定無効とされる。
⇒したがって、その場合、本人の追認権、相手方の催告権・取消権、及び無権代理人の責任に関する113条ないし117条の準用がある。
1 能動代理(代理人が本人に代わって契約解除するなど)の場合
※次の事情があれば不確定無効となる。(118条)
① 自称代理人が代理権なくして当該代理行為をすることに、その行為の当時相手方が同意していた場合
② 自称代理人の代理権を、その行為の当時相手方が争わなかった場合
(たとえば、「代理権もないくせに何をいうか、おれは相手にしないぞ」と異議を述べるような態度したときには、確定的に無効となる)
2 受動代理(相手方が代理人に対して解除の意思表示をするなど)の場合
※無権代理人が同意して相手方の意思表示を受領した場合にだけ、契約の場合と同視される。
(理由)
・相手方からの意思表示を受ける無権代理人が、「私に代理権はないので、私にいってもだめだ」といっているのに、本人について効力を生じさせずに、無権代理人の責任だけを認めるわけにはいかないからである。
※無権代理人の責任
1 意義
・無権代理行為が本人によって追認されず、相手方が所期の目的を達し得なかったときは、本来なら、相手方の救済方法としては、不法行為に基づく損害賠償請求が考えられる。
⇒これに関して、民法は、取引の安全を図り、代理制度の信用を維持するために、特別の法定責任として、善意・無過失の相手方に対する無権代理人の無過失責任を認めている。
要件
※無権代理人の責任117条が成立するためには、以下の要件を充足しないと効果がない。
※無権代理人側の要件として
① 他人の代理人として契約をなしたこと
(立証責任は相手方) 甲
② 本人に対する効果帰属事由がないこと
(立証責任は代理人)
a 代理人が代理権を立証できないこと
b 本人の追認がないこと 乙
③ 無権代理人が制限行為能力者でないこと
(立証責任は代理人) 丙
※相手方の要件
① 代理権のないことについて善意・無過失であること
(立証責任は代理人) 丁
② 115条の取消権を行使しなかったこと
(立証責任は代理人) 戌
・甲 単独行為の無権代理の場合において、契約の無権代理と同じに扱われる場合にも117条の適用がある。
⇒この場合には、相手方に代理権不存在に関する悪意又は過失の存するところが多いであろうから、無権代理人の責任が発生する場合はすくないと思われる。
・乙 従って、無権代理人が、本人の追認があったことを立証すれば無権代理の責任を免れることになる。
・丙 制限行為能力者保護の趣旨である。
⇒したがって、制限行為能力者が法定代理人又は保佐人及び補助人の同意を得て無権代理行為をした場合には責任は免れない。
※無権代理人は、自己の能力の制限を立証すれば本条の責任を免れる。
・丁 無権代理人の方で相手方の悪意又は過失を立証すれば本条の責任を免れる。
・戌 この点は、法文上明確ではない。
⇒無権代理人が、相手方による無権代理行為の取消しのあったことを立証すれば、本条の責任を免れると解されている。(通説)
※無権代理行為の取消しは、無権代理人との法律関係を解消させる趣旨と解されている。
※本条の責任追及は無過失責任であるから、無権代理人に過失があることは本条責任追及の要件ではないと考えることができる。
※責任の内容
1、以上の要件が満たされれば、無権代理人は法律上当然に、相手方の選択に従って、「履行」又は「損害賠償」の責めに任ずることになる。
2、この両者の責任の関係については、選択債権(407条以下)関係にはないとする古い判例があるが、学説は一種の選択債務の関係にあると解している。
3、履行の責任とは、もし有権代理であったと仮定したら本人・相手方間に成立したであろう契約の内容どおりの法律関係が、無権代理人と相手方とを当事者とを当事者として存在するに至ったものとして取り扱われるという趣旨と考えることができる。
4、損害賠償とは、単に代理権があったと信じたことによって被った損害(信頼利益)ではなく、有効な契約があったと同一の利益(履行利益という)の賠償を指すと解されている。
※信頼利益
・代金支払いのために銀行から融資を受けた場合の利息、目的物の検分を行ったその調査費用などが挙げられる。
※履行利益
・目的物の転売による利益や値上がり利益などが挙げられる。たとえばBが権限がないのに、Aの代理人と称して、Cからその所有の土地甲を1億円で購入する契約をCと締結し、CがBに対して同条の損害賠償を請求するとする。
⇒この場合において、甲土地の時価が9千万円としたら、甲の土地が1億円で売れたときに、Cが得られるはずであった代金額と、Cが甲土地を保有している利益との差額1千万円の損害賠償の支払を、CはBに請求しうるということである。
※本人と無権代理人との間の効果
1、無権代理効果は、本人の追認がない限りは、本人・相手方間に何らの効果も生ぜしめないのみならず、本人と無権代理人の間においても、何らの法律関係も生じないことになる。
2、ただし、無権代理の行為によって、事実上本人が損害を被るようなことがあれば、本人に対する無権代理人の不法行為責任が問題となることもありうる。
3、本人が無権代理行為を追認したときは、本人と無権代理人との間には原則として事務管理が成立すると解する説が多い。
⇒判例もそのように解したものがある。
4、しかし、無権代理人には本人の利益を図る意思がなかったという場合もあり、かかる場合には事務管理も成立しない。
(事務管理の成立要件として、通説は「他人の利益を図る意思」が必要と解する)
⇒したがって、この場合にも無権代理人の本人に対する不法行為責任が問題となりうる。
(理由)
・実際問題として、本人は、内部的には無権代理人の行為を許す意思は全然なくても、自己の対外的信用を維持するために、無権代理行為を相手方に対する意思表示によって追認するという場合もありうるからである。