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かいひろしの部屋 (法律、ほか情報掲載)

補助的意味で法律の解説等を勉強のために掲載。

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行政法のお勉強20

2022年04月06日 | 4行政法
○行政行為の取消し

◇意義
・行政行為の職権取消とは、
「一定の取消原因が存在する場合に、権限のある行政庁が、
その法律上の効果を失わしめ、既往に遡って初めからその行為が行われなかったのと同様の状態に復せしめる行為」をいう。

・行政不服申立てや、行政事件訴訟に基づく取消(争訟取消)と異なり、
「国民の請求なしに、行政庁の職権で行われる取消」である。

・なお、行政行為の取消には職権取消と争訟取消とがあるが、後者は行政争訟の事柄なので、ここではもっぱら職権による取消が問題となる。


◇法律の根拠の要否

・行政行為に瑕疵が存在し、それが違法の瑕疵であれば、
「法律による行政の原理に違反した状態が存在するし、またそれ自体が公益違反の瑕疵であれば、行政目的に違反した状態が存在している。」

・このような場合は、
(一定の場合と取消が制限されるケースを除き)
瑕疵は速やかに除去されるべきであり、学説は、取消には独自の法律の根拠は不要とする点でほぼ一致している。

・ただ、その理論構成としては、
①当然の事理のごとくに解する見解
②取消権の根拠はもとの行政行為の根拠法に含まれているとする見解
③不文の法理に求める見解
④法治国原理の要請とする見解
などである。


◇取消権者

・職権取消の権限を有する行政庁について、
「処分庁がなすことは認められる」ことに争いはない。


【論点OR問題】
●当該行政庁の上級行政庁が、監督権の行使として下級庁の行政行為を当然に職権で取り消すことができるか。

①法律の明文(内閣法8条参照)がなくても当然に取り消せるという説

②取り消せないという説

③個人の権利を侵害するような行政行為に限って取り消せるとする説


◇職権取消の制限

1 違法な行政行為の取消制限の根拠

・法律による行政の原理の下において違法な行政行為の取消制限ということが一般に認められるのは、

①「法律による行政」という要請と
相手方および関係者の法的安全の保護という要請との価値衡量の結果、

②後者に重きが置かれる場合が存するからであり、

※それは理論的には「法律による行政の原理」の例外・限界をなすものということになる。


2 不可変更力ある行政行為の職権取消

・決定・裁決・判決等、争訟の手続を経て行われた行為または利害関係人の参加によって行われた行為は確定力またはこれに準じる効力(不可変更力)を生じ、「たとえそれが違法または不当であっても、当事者が一定の期間内に、争訟手続によって争い、それに基づいて行政庁または裁判所によって取り消される場合のほかは、行政庁が 職権によって取り消すことは許されない。」

2)侵害的行政行為の職権取消

・侵害的行政項の職権取消は、
「相手方の利益を損なうものではなく、法律による行政の原理の要請から、
原則として自由になし得るとするのが通説」である。

3)授益的行政行為の職権取消

 【論点OR問題】

●授益的行政行為を職権により取り消すと、相手方に対して不測の損害を与える可能性が強い。そういう意味で、行政行為の取消の利益と私人の信頼保護が対立することとなるが、いかなる場合に取消が認められるかの線引きは、利益衡量的なものであって困難な問題である。


① 有力説

・授益的行政行為の職権取消は原則として許されない。

・当該行為の成立に「相手方の不正行為がかかわっているような場合や、相手方の既得の利益を犠牲にしてもなお当該行為を取り消すだけの公益上の必要性がある場合に限り、職権取消を認める。」


最判昭33.9.9 (百選Ⅰ102事件)

【事件】

・自作農創設特別措置法に基づいて行った農地買収処分を知事が職権で取消し
→当該農地の売渡しを受けるべき地位にあった者が、その無効確認を求めた事案。

【判旨】

・(本件のような)事実関係の下では、
①特段の事情のない限り買収農地の売渡を受くべきXの利益を犠牲に供してもなおかつ買収令書の全部(農地に関する部分を含む)を取り消さなければならない公益上の必要があるとは解されないから、右特段の事情がない限り、

②本件取消処分は、「違法の瑕疵を帯びるものと解すべき」である。・・・

※原審が、本件取消処分の全部の取消を必要とする特段の事情につき何等説示することなく漫然本件取消処分を適法としたことは、「法律の解釈を誤り、その結果審理不尽の違法に陥ったものというべき」であって、・・・原判決は破棄を免れない。



最判昭43.11.7 (百選Ⅰ103事件)

【事件】

・自作農創設特別措置法に基づいて行った農地買収計画および農地売渡計画を農業委員会が職権で取消し
→当該計画に基づいて農地の売渡しを受けた者が、当該農地の所有権確認等を求めた事案。

【判旨】

・行政処分が違法または不当であれば、・・・
①処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁においては、「自らその違法または不当を認めて、処分の取消によって生ずる不利益と、取消をしないことによってかかる処分に基づきすでに生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較衡量し、しかも該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り、これを取り消すことができると解するのが相当である」・・・。しかも、

②自作農創設特別措置法の規定に基づく農地買収は、「個人の所有権に対する重大な制約であるところ、かかる重大な制約は、その目的が自作農を創設して農業生産力の発展と農業経営の民主化を図ることにあるという理由によって是認され得る強制措置であるから、かかる処分が、本件におけるごとく、法定の要件に違反して行われ、買収すべからざるものより農地を買収したような場合には、他に特段の事情の認められない以上、その処分を取り消して該農地を旧所有者に復帰させることが、公共の福祉の要請に沿う所以である。」(と判示して、このような職権取消を適法とした。)




○行政行為の撤回

◇意義

・行政行為の撤回とは、その成立に瑕疵のない行政行為について、
公益上その効力を存続させることのできない新たな事由が発生したために、将来にわたり、その効力を失わせるためにする行政行為」をいう。

・法令上、「取消」と規定されていることが多い。

・後発的事情の例としては、
相手方の義務違反や、公益上の必要性が挙げられる。



◇法律の根拠の要否

【論点OR問題】

●行政行為を撤回するのに法律の根拠を要するか。たとえば、処分の効力を失わせる公益上の必要性は認められるが、撤回を定める規定がない場合に処分の撤回ができるかが問題となる。


①必要説(有力説)

※授益的行政行為の撤回に関しては法律の根拠が必要である。

・授益的行政行為の撤回それ自体が新たな侵害的行政行為である。

※そうであるならば、「侵害留保の原則により、法律の根拠が必要」であると解することができる。


②不要説(判例、通説)

※撤回に関して個別の法的根拠を必要としないとする見解。

・当初の行政行為の法律による授権にはその撤回の授権も含まれているとして、法律の授権は不要であるとする。

①行政行為の「公益適合性を図る必要」がある。

②撤回が問題となるのは、
「私人の申請に基づいてなされた授益的行政行為によって行政主体との間に法律関係が形成された後のことで、
その法律関係を消滅させるという場面であるから、通常の侵害的行政行為とは異なり、私人の本来的自由が侵害されるわけではなく、侵害留保の原則が直接には妥当しない。」


最判昭63.6.17(百選Ⅰ104事件)
:赤ちゃんあっせん事件

【事件】

・Xは、優生保護法(現在の母体保護法)14条に基づく人工妊娠中絶の施術を行いうる医師の指定を受けていた。
→しかし、中絶希望の女性を説得して出産させ、嬰児を別の女性が出産したように装う虚偽の出生証明書を作成したこと(実子のあっせんにあたる)により、医師法違反などに問われ、指定医師の指定の取消(撤回)を受けた。Xは、医師会Yに対し指定取消処分の取消などを求めて出訴。


【判旨】

・(処分の)撤回によってXの被る不利益を考慮しても、「なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められる(場合には)法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、・・・医師会Yは、その権限においてXに対する右指定を撤回することができる」というべきである。


◇撤回権者

・行政行為の撤回は、「処分行政庁のみがこれをすることができる。」

・監督行政庁は、
「法律に別段の定めがある場合のほか、原則として撤回権を有しない。」

∵撤回はその性質において、新たに同一の行政行為を行うのと同じことであり、それは当該行政庁の専属管轄に属するものと解すべきだからである。




◇撤回の制限

1 侵害的行政行為の撤回

・侵害的行政行為の撤回は、
相手方の利益を損なうものではないことから、通説は、「(争訟の裁断行為のように不可変更力(確定力)を備えている行政行為を除き)原則として自由になし得る」とする。



2 授益的行政行為の撤回

A)総説

・授益的行政行為については、
「相手方の利益や信頼を保護するため、行政行為の存続に対する要請が強く働き、撤回が制限される。」

・通説は、
①撤回の必要が相手方の責に帰すべき事由によって生じた場合、
および  
②撤回について相手方の同意がある場合を除いては、
撤回は許されないとする。


B)微妙な場合

(問題の提起)
・なお、その他、「ある行為が行政行為の撤回行為であるかそれともそれ自体独立の行政行為であるかをどのように区別」するかという問題がある。

・また、現在、「二重効果的行政行為」の数がきわめて多くなっており、このような場合、上記ルールはどのように適用されるか、といった問題もある。

・よって、上記ルールで一律に解決を導けるものではない。


C)公益上の必要

・さらに、上記2つに該当しない場合であっても、
「なお公益上撤回が必要なときには、公用収用の場合に準じて、撤回によって生ずる不利益に対する相当の補償が必要とされる」とする考え方もある。

・ただし、判例(最判昭49.2.51/百選Ⅰ105事件)は、
「公有財産の使用許可の撤回につき、原則として補償を不要」
としている。



最判昭49.2.5(百選Ⅰ105事件)
:行政行為の撤回と補償

【事件】

・Xは、中央卸売市場内にある土地を東京都から期間の定めなく借り受け、その一部を使用していた。
→しかし、東京都はその後、その土地を卸売市場用地として使用するため、その土地の大部分の使用許可を取り消した(撤回した)。
Xは、東京都に対し、使用許可を取り消された部分につき補償金の支払いを求めた。



【判旨】

・都有行政財産たる土地につき使用許可によって与えられた使用権は、
①それが期間の定めのない場合であれば、「当該行政財産本来の用途または目的上の必要を生じたときはその時点において原則として消滅すべき」ものであり、また、

②権利自体に右のような制約が内在しているものとして付与されているものとみるのが相当である(から、原則として、使用権者に対する損失補償は不要である)。



【ポイント判旨】

・その例外は、使用権者が使用許可を受けるにあたりその対価の支払いをしているが、
①当該行政財産の使用収益により「右対価を償却するに足りないと認められる期間内に当該行政財産に右の必要を生じた」とか、

②使用許可に際し別段の定めがされている等により、「行政財産についての右の必要にかかわらず使用権者がなお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情が存する場合に限られる。」


3 職権取消と撤回の相違

A)共通点

・職権取消と撤回の共通点は、
いずれも、その行政行為を行った行政庁が自らその行為の効果を失わせるために行う新たな行政行為としての性質をもつ点にある。


B)相違点

①遡及効の有無

・職権取消は、本来違法(または不当)であるが、
「一応有効として通用してきたものの違法を有権的に認定する行為であるため、取消の効果は行政行為が行われた時点にまで遡及する。」

・撤回は、「撤回が行われる時点までは行政行為はまったく適法かつ有効に存続していたのであって、ただ公益上の必要から将来に向かってその効果を失わせるものにすぎず、遡及効はない。」


②上級庁の監督権

・職権取消は、
「違法(または不当)な行政行為を是正するという消極的な目的をもつものとして上級庁が監督権の行使としてこれを直接行うことができると解する余地がある。」

・撤回は、
「もともと適法な行政行為を公益判断に基づいて変更するという積極的な目的をもつ行為であるため、上級庁がこれを直接に行うことは監督権の限界を越え許されない。」



C)職権取消と撤回の比較

①理由

・職権取消は「成立当初の瑕疵、撤回は後発的事情による。」

②効果

・職権取消は「遡及効であり、撤回は将来効である。」

③権限を有する行政庁

・職権取消は
「処分庁及び監督庁(通説)であり、撤回は原則として処分庁のみである。」

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