レオンの木

2011-10-03 12:54:33 | Weblog
宇都宮市は子供の誕生に合わせて記念樹をくれる。

家を新築したこともあり、レオンが生まれたとき、せっかくだからと殺風景な庭に植えるために白モクレンの苗をもらってきた。

この木に思い入れが強いわけではない。はっきり言って「もらえる物だからもらってきた」だけ。たまに水をあげてたくらいだし。

でもレオンが1~2歳の時には、この木が「自分の木」だという認識になってたし、やっぱりこれが将来家族にとって重要な物になるのかなーという思いはあった。

去年ぐらいからすくすくと育ち、背丈は本物のレオンよりもいくらか高い木になった。短い間だったけど、白くきれいな花を咲かしたこともあった。

だからと言って、レオンがすごく喜んだわけじゃないし、親だってそれを写真に収めるほどの感動はなかった。




だってこの木はレオンじゃあない。





恥ずかしい話だが、新築してからも庭は荒れ放題。一度は芝でも貼ろうかとトライしたが、「元来面倒くさがりな性分」の自分は、一度の失敗の後はその後の雑草の成長を見守ることしかしなかった。

毎年庭の草刈りは自分が担当している。草刈り機を持ち込んで毎回小一時間。庭は中学生の頭をバリカンで刈るようにきれいになっていく。

「元来面倒くさがりの性分」が起因し、草はなかなかの成長具合。レオンの木の頭がかろうじて確認できるほど伸びる。草刈りの時は、傷をつけまいと雑草に隠れそうなレオンの木をうまく避けるように草を刈り、木の近くは素手で草を引き抜いた。



だってこの木はレオンじゃあない。



でもこの木はこの新築した家と、レオンの成長の歴史をしっかりと観ていく存在になるであろうことは理解していた。




レオンは今年3歳になった。
レオンの木は3年の歳月をかけて弱弱しい幹を、中木の枝ほどに成長させた。

今年の夏はいろいろあって、草刈りを頼むことにした。いつも世話になっている業者さんに頼んで、格安で草を刈ってもらうことにした。

その日の午前中にMugi☆つまから連絡があった。





「レオンの木を切られちゃった・・・・・」





レオンの木は無残にも足元からきれいな切り口で切られていた。

草刈りの前にはあの木は切らないでほしいとしっかり伝えた。しかし草を刈っている最中に、「すっかり忘れてしまった」、というのが業者さんの言い分だった。

業者さんは恐縮しきりで、本当に申し訳ないと頭を何度も下げてきた。高齢だったし、値段も格安でやってくれていた。さらにもともと自分でやればいいのを、「元来面倒くさがりの性分」がこういうことを招いたのかもしれないと思った。

業者さんは、何度も世話になった人だ。だから怒りもしなかったし、お金もしっかり払った。もともといい人だったし

「弁償する」とか「同様なものを用意する」とか言ってたけど、俺たちは別に白モクレンがほしいわけじゃない。

レオン本人は少しさびしそうに「なくなっちゃった・・・・」とつぶやいただけだっただったらしい。でもちゃんとした意味も理解していなかっただろうし、泣き叫ぶほどの悲しみではなかったようだ。

俺たちもやるせない思いはあったけど、同時にこういう記念樹みたいなものは、もう貰わないほうがいいのかなと思った。






別にこの木はレオンじゃあない。







昨日、「元来面倒くさがりの性分」の自分が、重い腰をあげて今年2度目の草刈りに挑んだ。また頼もうかとも思ったけど、なんとなく今度は自分でやらなきゃって思った。

草は過去MAXの高さまで生えていた。高いものは腰高を優に上回る高さだった。だから過去にない苦戦を強いられることになる。甘く見ていたが、今年の草は強敵だった。

野球部の中学生の頭をバリカンで刈るというよりは、停学になったヤンキーが強制的に長い髪を切られるような・・・・・そんな感じ。だからずいぶんと抵抗された雰囲気。草だけど。


ある個所に近づくにつれ、多少の後悔の念を覚えていた。

俺がやりゃーよかったのになー。悪いことしたなーって。綺麗になりつつある庭とは逆に、自分の心は少し靄がかかっていた。

俺は植物に対して思い入れなんかない。あれが記念樹だったからなんとなく、なんとな~く大切にしなきゃ、と思ってただけで。まあ、切られるとは思ってなかったけど。

今度は気にしないで草刈り出来るなーと。まあ、そんな前向きに切り替えようかと思っていたが、




残念ながらそれはかなわなかった。




「元来面倒くさがりの性分」が起因して成長した雑草の背丈に届かない程のレオンの木が、秋半ばに差し掛かり、頭が傾きかけた雑草を横目に、まっすぐに天を目指して立っていた。





昔見たほどの太さも高さもない。しかし、それは紛れもなく「レオンの木」だった。よく見れば、きれいな切り口で切られた幹とは違う部分から新たな幹が生えてきていた。

大きな声で喜び叫んだわけではなく、あわてて家族を呼んだわけでもない。なんとなーく心で「久しぶり」って言葉を発しただけだった。

丁寧に周りを刈って、雑草との区別を明確にし、その存在を示した。




Mugi☆つまが最初に気づいて、レオンに伝えたが、当の本人は「後で見る」とつれない答えだった。






この木はレオンじゃあない。






でもこの木が再度この家族の歴史を目に刻んで行ってくれることを願っている。思い入れは記念樹だから、という枠を大きく超えたわけだ。


来年この木が白い花を咲かしたら、今度こそレオンと一緒に写真を撮ってやろうと思う。

そして、その存在が隠れることのないように、草は刈らなくちゃと、そう「元来面倒くさがりな性分」の自分の心に誓ったわけです。

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