リヒテンシュタイン-華麗なる侯爵家の秘宝
2012年10月3日~12月23日
国立新美術館
「優れた美術品収集こそ一族の名誉」
リヒテンシュタイン侯爵家のコレクション。
英国王室に次ぐ世界最大級の個人コレクションという。
そのコレクションは、1807年(!)からウィーン郊外のロッサウに造成された夏の離宮で公開されていた。
オーストリアがドイツに併合された1938年に公開中止。
安全な場所への移送が計画され、最終的に1945年に侯国の首都ファドゥーツに移送。
第2次世界大戦終了後、ウィーンでの早期の再公開希望も、事情もあり、実現は2004年。
その間、コレクションはファドゥーツ城に秘蔵されてきた。
ファドゥーツ城に秘蔵されていた期間、1948年にスイス・ベルン美術館で、1985~86年にアメリカ・メトロポリタン美術館で大規模な展覧会が開催されている。
これは、ファドゥーツへの移送の際に協力した両国への感謝の意があったという。
その後、パリ、プラハ、モスクワで展覧会が開かれ、そして今回ついに日本でも開催された。
パリ、プラハ、モスクワの展覧会はどんなものだったか知りたい、とネットで調べて見た。
モスクワは、2009年にプーシキン美術館でビーダーマイヤー展があったことを確認できた。
パリ、プラハは確認できず。
それとは別に、2011年6月~12年6月にかけ、フランスのEvianおよびイタリアのValle d'Aostaで展覧会が開催されている。
両展覧会における出品構成は、今回の日本の展覧会と似ているようである。
私がリヒテンシュタインのコレクションを知ったのは、朝日新聞の「世界名画の旅」による。
文庫本を改めて確認すると、記事は1985年、メトロポリタン美術館での展覧会に向けて準備中の時期。
紹介されている作品は、ルーベンスの「二人の息子たち」および今回来日の「クララの肖像」の2点。
当時、コレクションは、ファドゥーツの小さな展示室での公開はあったものの、大半は収蔵庫にあった模様。朝日の記者も収蔵庫を訪問している。
また、ファドゥーツに美術館新設の動きがあり、一時期は順調だったが、美術館めあての観光客が増えて町の落ち着きが失われる、との一部反対意見を受けて、1985年当時は中断していたという。その後はどうなったのだろうか。
さて、訪問。
◇バロック・サロン
今回の第1の目玉の「バロック・サロン」がいきなり登場。
部屋の入口に立つと、目が前方右側の方向に自然と向いた。
あの作品はひょっとすると、と駆け寄ると、やっぱりそう。
フランチェスコ・デル・カイロ。
2010年のボストン美術館展で「洗礼者聖ヨハネの首を持つヘロデヤ」を見て以来、気になる画家。本展で出会えるとは想像していなかった。
彼の作品を見るのは2点目。
「ルクレティア」。
ヌードを描く口実としてよく使われるルクレティアだが、本作は着衣のルクレティア。
デル・カイロらしく、恍惚とした表情。
名画ギャラリーではなく、バロック・サロンに展示されることからも想像されるように決して評価が高いとはいえない、なかなか見る機会がない画家であるので、長く作品を見つめることとなった。
バロック・サロンでは、キャプションはなく(出品番号のみ)、写真つきの専用出品リストで、作家・作品名、制作年を確認していく。
絵画、彫刻、工芸品、家具、タペストリー。
天井には、天井画が4点展示されている。
展覧会で天井に絵が展示されているのを見たのは初めて。
天井画と言えば、距離が遠くて単眼鏡を使わないと見えないというイメージであるが、結構よく見える。
実際より距離が近い(つまり天井が低い)ということなのだろう。
アダム・デ・コーテル「三人の歌い手」のほのぼのした雰囲気がよい。
私的な宴会での一場面だろうか。
マンテーニャ作「聖セバスティアヌス」のブロンズ彫刻も気になった。
矢はないが、矢を差し込むためらしい穴が何か所(数は多くはない)ある。
マンテーニャはルネサンス時代の芸術家なのだが、なぜバロック・サロンの出品作に選ばれたのだろう。
◇リヒテンシュタイン侯爵家
キャプションで初めて知ったが、侯爵家は、かつてレオナルド・ダ・ヴィンチ「ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像」を所蔵していた。
一族の抱える借金を支払うために、先代が1967年にワシントン・ナショナル・ギャラリーに売却したらしい。
なお、現当主は、財政を建て直し、再びコレクションを拡大させているという。
◇名画ギャラリー
個人コレクションなので、ある程度コレクションに偏りがあるのだろうと思っていた。
当然偏りはあるのだろうが、バランスを取る動きにも取り組んでいるようであり、本展の出品構成もバランスを考慮しているようである。
以下、印象に残った作品のみ。
■ルネサンス
・ラファエッロ「男の肖像」
目に注目
・クラナッハ「聖エウスタキウス」
動物に注目
・マセイス「徴税吏たち」
顔に注目
■本展の第2の目玉「ルーベンス・ルーム」
10点ものルーベンス作品は、壮観というべき。
「デキウス・ムス」連作から2点。約3×4Mの大画面絵画が出品。
ただ、ルーベンスの大画面作品にはあまり興味を惹かれない。
どちらかといえば、家族を描いたような小品が好み。
よって、もっぱら「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」を眺める。
ルーベンスの長女5歳のときの肖像。彼女は12歳で亡くなったという。
◇クンストカンマー
いったん名画ギャラリーは中断し、本展の第3の目玉「クンストカンマー」登場。
クンストカンマーとは、16世紀以降、中欧の王侯貴族で流行った、「驚異の部屋」「人工物蒐集室」。
自然物であれ、人工物であれ、とにかく珍奇なものを分野を問わず1箇所に集めるというもの。
本展では工芸品が展示されているが、一番人気は、マティアス・ラウフミラー作の象牙作品「豪華なジョッキ」。
「サビニの女たちの略奪」が表されている。確かに見応えがある。
名画ギャラリー再開。
■17世紀フランドル
ブリューゲル一族によるピーテル・ブリューゲルのリメーク作品が楽しい。
ハプスブルク家およびその関係者は、ブリューゲルが本当に好きなのだなあ。
・ルーカス・ファン・ファルケンボルフ「盲人の寓話」
・ピーテル・ブリューゲル2世「ベツヘルムの人口調査」
・ヤン・ブリューゲル2世「死の勝利」
■17世紀オランダ
・レンブラント「キューピッドとしゃぼん玉」
・アドリアーン・ファン・オスターデ「納屋の農民の踊り」
■ビーダーマイヤー
本展の第4の目玉「ビーダーマイヤー」。
期待していたが、展示数が少ない感。また、ルブランやアイエツまで含めるのは、少し無理があるのではないか。
しかし、三菱一号館美「ルブラン展」以来、ルブランのファンである私としては、ルブラン作品が見れたのはうれしい。
ルブラン出品作「虹の女神イリスとしてのカロリーネ・リヒテンシュタイン侯爵夫人」は、大型の魅力的な作品。長く見つめることとなった。
ビーダーマイヤーの代表画家アメリングの小品が3点。
結構人気があるようなのだが、今一つピンとこない。
ビーダーマイヤー作品を一度まとまった形で見てみたい。
以上で鑑賞完了。
ウィーンに行けるわけでもない私としては、朝日新聞「世界名画の旅」でその存在を知ったリヒテンシュタイン・コレクションの一端を見る機会を得られたのは幸せなことである。