東京都美術館だけではない。
関東地区のもう一つのボストン美術館展は、浮世絵、鈴木春信(1725?-1770)。
「希少な春信の作品は、8割以上が海外に所蔵され、日本国内で作品を見る機会は大変限られています。」
本展では、ボストン美術館から全150点、うち春信作品が93点、他の作品が57点。加えて千葉市美術館所蔵が参考出品として10点、うち春信作品が8点、他の作品が2点。つまり100点もの春信作品が鑑賞できる。
「ボストン美術館には、600点以上の春信作品が所蔵され、世界一のコレクションを誇ります。このうちの半数以上を占めるスポルディング・コレクションは門外不出、たとえボストン美術館であっても展示されることはありません。今回はそれと並ぶ質量を誇るビゲロー・コレクションより選りすぐりの作品を展示します。」
本展出品作の他にもう一つ、同等かそれ以上の春信コレクションを保有しているのか!
また、ビゲロー・コレクションに限っても、春画は今回出品対象となっていない。
つまり、本展出品作は、ボストン美術館が所蔵する春信作品のごくごく一部。ボストン美術館の強靭な所蔵力には、毎度感心する。
プロローグ 春信を育んだ時代と初期の作品
錦絵の誕生以前の、色数の少ない紅摺絵時代の希少な春信初期作品も数点展示される。本作は、江戸時代で12回あった朝鮮通信使、1764年の11回目の時の作。
《馬上の朝鮮人》
明和元年(1764)頃
1章 絵暦交換会の流行と錦絵の誕生
明和2年(1765年)の高度な多色摺木版画=錦絵の誕生。歴史的な一大技術革新を受け、春信は一躍人気絵師の地位を得ることとなる。明和2年の作品から2点。
《夕立》
明和2年(1765)
《矢場の女たち》
もと明和2年(1765)
2章 絵を読む楽しみ
見立絵またはやつし絵。
3章 江戸の恋人たち
ぱっと見、性別の区別がつかない、同じような顔をした春信の若い男女。本作も、単なる兄妹(姉弟)喧嘩に見える。「何だよ姉ちゃん」「春信、炬燵を独り占めしないで、半分譲りなさいよ」。
《「水仙花」炬燵で向き合う男女》
明和6年(1769)頃
4章 日常を愛おしむ
どのみち、性別の区別がつかない同じような顔をしているならば、家族を描いた作品のほうが落ち着いて見ることができる。本作は母娘。湯屋からの帰り。
《雪の湯帰り》
明和3-4年(1766-67)頃
5章 江戸の今を描く
本作の人待ちの気だるさ感は、カルパッチョ《二人の貴婦人》(コッレール美術館)を連想させる。
《風流江戸八景 両国橋夕照》
明和5年(1768)
エピローグ 春信を慕う
明和7年(1770)、春信が急逝。まだまだ人気のあった春信様式、あの司馬江漢も「春信画」と騙った作品を制作している。
鈴木春重(司馬江漢)
《庭で夕涼みする男女》
明和7年(1770)頃
同じく千葉市美術館で2016年1-2月に開催された「初期浮世絵展-版の力・筆の力」は、錦絵の誕生=鈴木春信の登場で終わっていた。本展はその続編のような感じ。
歌麿で終わる本展の次の千葉市美術館の浮世絵展は、歌麿なのか?
本展は、千葉のあと、名古屋、大阪、福岡を巡回する。