東京でカラヴァッジョ 日記

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『失われた時を求めて』における美術 - 「プルーストと美術」展(日仏会館ギャラリー)

2022年03月21日 | 展覧会(西洋美術)
プルーストと美術
2022年3月12日〜3月25日
日仏会館ギャラリー
 
 プルーストの大長編小説『失われた時を求めて』。
 
 この小説では、フェルメール《デルフトの眺望》が特に知られていると思うが、多くの絵画作品が登場し、重要な役割を果たしているという。
 
 過去2回、筑摩書房版と光文社古典新訳文庫版で挑戦し、いずれも第1巻の最初の数ページで挫折した私。
 
 そんな私も西洋美術好きとして、どんな絵画がどんな活躍をしているか多少は気になっていたところ、本展の開催を知って、恵比寿駅から徒歩約10分の日仏会館を初訪問する。
 
 
 
 本展は、『失われた時を求めて』に登場する絵画作品について、次の切り口から、会場展示および無料配布の小冊子にて紹介する。
 
・絵画の画像パネル
・その絵画が登場する小説箇所の抜粋
・プルーストがその絵画をいつどこで実見したのか、あるいは、その絵画の複製図版をどの書籍で参照したのか、の解説
・参照した書籍の展示
 
 本展の監修は、プルースト研究者の吉川一義氏(岩波文庫版の『失われた時を求めて』全14巻の翻訳者)。
 入場無料。
 無料配布の小冊子は40頁の厚さ。
 
【本展の構成】
1 プルーストと美術.略年譜
2 プルーストの著作・草稿帳・校正刷・デッサン
3 プルーストが参照した美術に関する刊本
4 『失われた時を求めて』における美術
 A 明示された画
 B 隠された画
 
 文学ファンには2章も興味深いのだろうが、私はもっぱら3章と4章を楽しむ。
 
 
3章「プルーストが参照した美術に関する刊本」
 
 プルーストは、1903-12年にロンドンで出版された『ジョン・ラスキン全集』と、1900-10年頃にパリで出版された画集「大画家」シリーズを特に参照していたらしい。
ローランス刊「大画家」シリーズより7冊
 
 また、1898年に出版されたエミール・マール著『フランス十三世紀の宗教美術』は、本小説の数々の宗教的一節を書くための基本文献となったという。
エミール・マール『フランス十三世紀の宗教美術』
 
 
4章「『失われた時を求めて』における美術」
 
 対象の絵画作品は、「明示された画」16点、「隠された画」9点。
 「明示された画」とは、フェルメール《デルフトの眺望》のように、小説のなかで「正確なタイトルともに綿密に描写されている」ような作品。
 「隠された画」とは、「実在の画が存在し、ヴィヴァンヌ川の睡蓮のように、モネからの借用が否定できないにもかかわらずそれが完全に隠されている」ような作品。
 
 例えば、「明示された画」である「ボッティチェリふうのオディト」を取り上げると。
 
 絵画作品は、ボッティチェリの《モーセの試練》(ヴァチカン・システィーナ礼拝堂)で、
・《モーセの試練》の画像パネル
・《モーセの試練》が登場する小説の箇所抜粋(『スワン家のほうへ』②94)
・プルーストは、システィーナ礼拝堂を訪ねたことはなく(《モーセの試練》を実見していない)、『ジョン・ラスキン全集』第23巻の口絵に掲載されていたラスキンのスケッチによる拡大図を参照した旨の解説
・『ジョン・ラスキン全集』第23巻の展示
という感じ。
 
(なお、小説の箇所抜粋は、会場展示には掲示されず、小冊子を参照する形。また、会場展示される書籍自体の写真は小冊子に掲載されない。)
 
 
(左)
「大画家」シリーズ『カルパッチョ』の《二人のヴェネツィア婦人》図版掲載ページ
(右)
「大画家」シリーズ『レンブラント』の《ダビデ王の手紙を手にした沐浴中のバタシバ》図版掲載ページ
 
 
ブリューゲル《ベツヘルムの人口調査》(ベルギー王立美術館)を実見した、1902年にブリュージュで開催された「フランドル・プリミチフ派と古美術展」の展覧会カタログ
 プルーストは、同展にてほかのブリューゲル2点《東方三博士の礼拝》と《怠け者の天国》とともに見ているとのこと。
 
 
 非常に楽しく見る。
 小冊子は大切にしたい。
 『失われた時を求めて』そのものへの再々挑戦は控えるとしても、吉川一義氏の解説書籍(例えば、岩波新書『「失われた時を求めて』への招待 』2021年6月刊、あたり)は読んで見るかなあ。


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