
春の江戸絵画まつり
司馬江漢と亜欧堂田善 かっこいい油絵
2025年3月15日〜5月11日
(前期:〜4月13日、後期:4月15日〜)
府中市美術館
2025年の「春の江戸絵画まつり」は、「司馬江漢と亜欧堂田善」。つまり「洋風画」。
江戸絵画ブームと言われる昨今ですが、江漢や田善に興味を持つ人は多くはないようです。
府中市美術館では、2001年に江漢、2006年に田善の展覧会を開催したが、
近年の「春の江戸絵画まつり」ほどに賑わうことはありませんでした。
一方、いろいろな展覧会のなかで2人の油絵を紹介してきたが、鑑賞者からは「かっこいい」「リアル」との言葉がよく聞こえてきた、という。
そこで、再度挑戦! 江漢&田善の展覧会。
2人展なので、「有名な作品を全て網羅しているわけではありませんが、当館が継続的に調査するなかで世に出てきた作品を含む多くの作品」を紹介するという。
府中市美術館の「春の江戸絵画まつり」などを通じて洋風画に興味を持った私。
洋風画は、絵師それぞれに独特の味があって、おもしろいのだが、亜欧堂田善の洋風画は、より不思議感が強くて、よりおもしろいと、特に好んでいる。
2023年の千葉市美術館「没後200年 亜欧堂田善 江戸の洋風画家・創造の軌跡」展は、現在存在が確認されている銅版画、肉筆画をほぼ網羅したという田善の作品約200点が集められた本格派の大回顧展で、圧倒された。
本展は、規模は小さくなろうが、江漢とのセットで、春の江戸絵画まつりらしい切り口で楽しませてもらえることを期待しての訪問。
【本展の構成】
序 江戸絵画入門
1章 司馬江漢 科学の目と文人の心
・中国絵で身を立てる
・ある悩み 枯淡かリアルか
・景色の絵を作る
・江漢と旅
・アイディア商売
・西洋の情報から広がる想像と夢
・文人洋風画家
・科学はかっこいい[後期のみ]
2章 亜欧堂田善 技術の創造的成熟
・松平定信に見出された技術の探究者
・西洋の絵を真似る
・なぞの風景、ここはどこ?
・「遠く」が描けるびっくり絵画
・景色の絵を作る 田善の油絵の場合
・「製版」の世界を遊ぶ
・紺屋の新境地
・「かっこいい」と「おもしろい」
・江漢の弟子、田善の弟子
3章 江漢と田善 作品選
【出品数】
総数:193点
うち 通期 :41点
前期限り:77点
後期限り:75点
他の絵師 28点
江漢 90点 江漢関連 5点
田善 65点 田善関連 5点
序の「江戸絵画入門」。前半は2人と同時代の絵師の作品を並べ、そのなかに2人の作品を1点ずつそっとひそませる。後半は2人以外の洋風表現の作品を並べる。
1章で江漢、2章で田善をどんと紹介したうえで、3章で江漢・田善のハイライト作品を並べる。
【亜欧堂田善で特に見た作品】
《海浜アイヌ図》個人蔵 通期
《墨堤観桜図》個人蔵 通期
《花下遊楽図》立花家史料館 通期
《両国図》秋田市立千秋美術館 通期
《甲州猿橋之眺望》府中市美術館 通期
《新訂万国全図》府中市美術館 通期
《江戸街頭風景図》東京藝術大学 前期
《海浜アイヌ図》は、波立つ海辺にいる、若いアイヌ人夫婦を描く。
男性は、弓を構えようとし、女性は、岩に腰掛け、背に魚の入った篭を負い、煙管を逆さに持った手を前に突き出している。
本作品との対面は4度目くらいであるが、至近距離での鑑賞は初めてで、2人の髪や女性のイアリング・ネックレス、魚の描写をじっくり見つめる。やはりいいなあ。
ほかに挙げた6作品も、《両国図》を除き、至近距離での鑑賞ができる。
その《両国図》は、たぶん2度目の鑑賞だが、縦長・細身の人物たちの描写が楽しい。
隅田川沿いの船宿の前。
2人の力士は、船宿の主人に見送られ、女性に案内されつつ、これから舟遊びに向かう。
船宿では、軒下の縁台に2人の男が座り、2階に外を眺める男、芸者の後姿が見られる。
往来には、前景・中景・後景で大きさを変えて、縦長・細身の人物たちが往く。
両国橋の架かる隅田川には、多くの船たち、帆を下ろす漁船、渡し舟、屋形船などが浮かび、やはり縦長・細身の人々が乗っている。
本作品も、至近距離で鑑賞したかった。
会場をひととおり見て、2巡目の鑑賞は田善に特化する。
微に入り細を穿つような2023年の千葉市美術館の大回顧展と比べると、銅版画は点数を大幅に絞り、肉筆画は点数を抑えつつも、重要作についてはかなりの程度を押さえている印象で、展示構成もとっつきやすい。
多すぎず、で、充分な見応え、田善の魅力を大いに味わう。
江漢は、私的には脇役であったのだが、次の作品は特に楽しく見る。
司馬江漢
《捕鯨図》土浦市立博物館 通期

肥前国松浦郡(現長崎県平戸市)生月島にて、江漢は鯨漁を見物し、その様子を『江漢西遊日記』に記している。
本作の隣には、その文章を漫画化したパネルが用意されている。本展開幕と同時期に講談社から刊行される『たのしい江戸絵画入門』(文・絵:長田結花、監修:金子信久)からの抜粋であるようだ。
漫画により作品の背景が分かり、作品自体も、特に奮闘中の水夫たちの表情が楽しい。
ところで、春の江戸絵画まつりには、ここ15年ほど、会期最初(あるいは2番目)の土曜日午後に訪問することを常としている私。
今回も、会期初日の土曜日午後に訪問するが、過去と比較した展示室内の印象は、空いている。
天気とか関連イベントの有無など外部要因なのか。
それとも、やはり「江漢や田善に興味を持つ人は多くはない」のか?
現在空いているのはありがたいけれども、将来も見たい。
会期2日目以降、盛り上っていてほしい。
私も、「2度目は半額! 観覧券をお求めいただくと、2度目は半額になる割引券が付いています(本展1回限り有効)」があるし、後期を訪問するつもり。

来年2026年の「春の江戸絵画まつり」は、「長沢蘆雪展」。
「東京で初開催!」とある。
蘆雪の回顧展は、過去、名古屋と太宰府で見たことがあるが、首都圏では2000年の千葉市美術館以来?
これは人気となりそうだ。楽しみ!