夷酋列像-蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界-
2015年12月15日~16年2月7日
国立歴史民俗博物館
12人のアイヌの首長を描いた《夷酋列像(いしゅうれつぞう)》。
ブザンソン美術考古博物館所蔵。1984年に同博物館の倉庫から“発見”。所蔵に至った経緯は不明。本来は全12図からなるが、1図が欠けており、現存11図。その11図全てが展示されている。
良好な状態。精緻な描写。鮮やかな色彩。
顔が小さく長身で、華麗な衣装を纏い、“異質性”が強調されながらも品位を感じさせるアイヌの首長たち。1図は女性(首長の母または妻らしい)。
実に魅力的な作品である。
《夷酋列像》は、政治的な目的から描かれた。
作者は、蠣崎波響(かきざきはきょう)(1764-1826)。松前藩主の弟で、家老格をもつ蠣崎家に入り、生涯藩政に携わる一方で画家としても活躍する人物。
1789年、アイヌの人々が和人の非道に耐えかねて蜂起、71名を殺害する。松前藩は直ちに鎮撫隊を派遣し、有力なアイヌの首長たちの力を借りて「徒党の者」たちを出頭させ、37名を首謀者として処刑する。「クナシリ・メナシの戦い」である。
本作は、事件の翌年1790年に、松前藩主の命により、12人のアイヌの首長の「蜂起したアイヌの逃亡を防いだ」「蜂起したアイヌの武器を見つけ出した」「蜂起したアイヌを説得し、戦いを終息に導いた」「弓の名人」などの功績を讃えるという名目で描かれる。
翌1791年には、絵は京都に持ち込まれて評判をよぶ。時の天皇の目に触れ、諸藩の大名たちにより数々の模写がつくられる。
「突発的な不祥事はあったけど、基盤は盤石であり、きちんと治めてますよ」と藩をアピールするための作品である。
ブザンソン美術考古博物館所蔵の《夷酋列像》11図の他、函館市中央図書館所蔵の別作品や、模写、粉本、波響の他作品が並ぶ。
興味深く見たのは、《夷酋列像》に描かれたものと同種の衣装や道具の実物の展示。大陸製の衣装、ラッコ皮、アザラシ皮の靴、煙草入れ、弓矢など。
これらの品々の向こう側に、当時のアイヌの人々を巡る社会状況・国際経済関係、和人の蝦夷地に抱いていたイメージなどが語られる。
北海道博物館で開催された展覧会が巡回。次は大阪(国立民族学博物館)を巡回する。国立歴史民俗博物館では常設展示のなかの特集展示との扱いで、常設展料金420円で鑑賞できる。8頁のカラー版パンフレットも用意されている。会場は二つに分かれていて、広大な第3展示室および広大な第4展示室の小さな一画にある。案内掲示はしっかりあるので場所に迷うことはないが、辿りつくまでに展示室内を結構歩くことになるかも。
会期当初の平日の昼食時間帯の訪問。他に観客はなく、《夷酋列像》を心ゆくまで独占できたのは幸運であった。