横山華山
2018年9月22日〜11月11日
東京ステーションギャラリー
好評らしく、ずっと気になっていた「横山華山」展。
先週あたりに会期終了しているよなあ、と念のため確認すると、その日が会期最終日。で、その日の訪問先に急遽追加する。会場内はたいへん混雑との情報も聞こえるので、遅い時間帯、16時頃の到着にて予定する。
楽しかった。
「かつて有名であったにもかかわらず、忘れ去られてしまった絵師」の画業を紹介する初めての(または、何十年ぶり、など久々感・再評価感を強調する)回顧展は、私の好みからは外れていてあまり楽しめないことがこれまでしばしばあったのでそれほど期待していなかったが、この回顧展はよかった。
最初の方に登場する、曽我蕭白《蝦蟇仙人図》と横山華山《蝦蟇仙人図》の隣り合わせ展示。
蕭白作品の仙人の手足などに見られる不自然な描き方について、華山のオマージュ作品では自然な形態に修正して描いているところが興味深い。個人的には、蕭白の激しさが好み(先入観たっぷり)。
華山の代表作の一つ《祇園祭礼図巻》。これは凄い。
上下巻で約30メートル。前後期で半分ずつの公開だろうと過去の展覧会経験から勝手に想像していたが、とんでもない、通期全公開。絵巻には不向きなはずの背の高い「鉾」を大胆にトリミングしたところが魅力のポイント。また、綿密な調査とその作品への反映により、絵画資料としても祇園祭界では唯一無二の存在となっているらしい。
個人的には、下巻の最後。河川敷での出店(西瓜や寿司など)・宴会光景の場面、および、芸妓が練り歩き、沿道の野郎どもがおひねりを投げる「AKBグループ総選挙」のような「神輿洗練物(みこいあらいねりもの)」の場面の2場面を好む。
また、祭りを描いた作品、華山《賀茂競馬図屏風》、《やすらい祭図屏風》、そして華山の弟子・小澤華嶽作の「天保10年(1839年)のハロウィン」という例えが適切かどうかは分からないが、京都で大流行した(狂乱の)仮装祭《ちょうちょう踊図屏風》も面白い。
そして、本展におけるマイベスト作品。
横山華山
《夕顔棚納涼図》
大英博物館蔵

久隅守景作の国宝《納涼図屏風》を偏愛する私、単にこの主題がツボなだけかもしれないが、同主題のこの華山作品に一目惚れ。夫婦の描線が実に素晴らしい。
本作は大英博物館所蔵であり、この先お会いする機会が期待できないだろうことはさびしい。
なお、本展の海外からの出品は、ボストン美術館所蔵の華山作品13点のうち5点、大英博物館所蔵の華山作品6点のうち3点(うち日本初公開計7点)とのことであり、その観点からも力が入った回顧展である。
華山の代表作の一つ《紅花屏風》、「東北や北関東の紅花の産地を二度も訪れて取材し、制作された大作で、華山の最高傑作」「紅花栽培から収穫、加工品への生産過程までを正確に描く」「京都の紅花問屋による依頼品で、祇園祭の屛風祭で飾られて好評を博した」 、は前期限りの出品で見れなかったのは残念。
横山華山(1781/4〜1837)は、海外では早くから評価されており、日本でも夏目漱石の小説『坊ちゃん』や『永日小品』に華山の名前が出てくるなど、明治時代までは国内でも知られていたようです。しかし画壇の潮流に左右されず、幅広い画域をもつ規格外な面は、美術史のなかでは分類しづらく、いつしか忘れ去られ、知る人ぞ知る絵師となってしまったのかもしれません。

本展は、東京のあと、宮城と京都に巡回する。
宮城展
2019年4月20日〜6月23日
宮城県美術館
京都展
2019年7月2日〜8月17日
京都文化博物館