レオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展
2015年5月26日~8月9日
東京富士美術館
レオナルドの失われた未完の壁画≪アンギアーリの戦い≫を巡る展覧会。
≪タヴォラ・ドーリア≫を軸とする。
これだけの作品をよく日本に持ってこれたなあ、と感心する。
美術展というよりも、歴史展の趣きである。
1)1500年初頭のフィレンツェ
会場冒頭の次の3点の展示で、気持ちは1500年初頭のフィレンツェ共和国に飛ぶ。
ミケランジェロ≪ダヴィデ≫の頭部の石膏模造
油彩画≪シニョーリア広場におけるサヴォナローラの処刑≫TK
油彩画≪マキアヴェッリの肖像≫
2)優美なるレオナルド
レオナルド≪聖アンナと聖母子≫の16世紀模写(ウフィツィ美蔵)
図録を見て驚いたのは、≪レダと白鳥≫の1500年代の模写(ウフィツィ美蔵)が掲載されていること。次の巡回先、京都と仙台に出品される。
≪レダと白鳥≫の模写といえば、ボルゲーゼ美蔵の作品は近年2回来日し、じっくり鑑賞できた。ウフィツィ美蔵の作品はその別バージョンで、画集でもよく見かける作品。
オリジナルが現存している模写作品よりも、現存しない模写作品のほうが見たい。
3)1460年代のカッソーネ(婚礼用の長櫃)
アンギアーリの戦いを描いたレオナルド以前の絵画作品としては、3点のカッソーネ(婚礼用の長櫃)の装飾画が知られているとのこと。そのうちの1点、アイルランド国立美術館蔵の2点1対の作品が出品されている。「15世紀前半のフィレンツェ共和国の非常に重要な戦勝の記憶」2件は実に魅力的な作品である。
≪アンギアーリの戦い≫TK
≪ピサの攻略≫TK
4)レオナルド壁画≪アンギアーリの戦い≫
≪タヴォラ・ドーリア≫
16世紀前半、ウフィツィ美術館
≪アンギアーリの戦い≫の模写
16世紀(1563年以前)、パラッツォ・ヴェッキオ博物館
≪アンギアーリの戦い≫の模写 TK
16世紀、ホーン美術館
現存する16世紀の油彩模写は4点とのことで、そのうちなんと3点も出品(もう1点は、個人蔵(旧ティンバル・コレクション蔵))。あと、仙台会場では、ウフィツィ美術館蔵の1553年の素描模写が出品される。
「「模写画は価値の低い作品だ」という思い込みを捨て去ることが、意識上の必須の前提」と言われても、思い込みを捨て去ることは難しい。
5)ミケランジェロ壁画≪カッシナの戦い≫
アリストーティレ・ダ・サンガッロ≪カッシナの戦い≫
1542年、レスター伯爵コレクション
ミケランジェロによる競作≪カッシナの戦い≫の失われた下絵を直接の手本としてその構図を伝える唯一の油彩模写。
隣に展示のライモンディによる版画2点(TK)も興味深く見る。
6)ティツィアーノの失われた大戦闘図
≪スポレート(?)の戦い≫
16世紀、パラティーナ美術館
1513年に注文を受け1538年に最終的に完成した、ヴェネツィア・パラッツォ・ドゥカーレの大評議会広間を飾るための作品。1577年の火災により焼失。本作は、焼失前に制作された「彩色を備えたものとしては唯一の、貴重な資料的価値を持つ作品」。
7)≪アンギアーリの戦い≫とルーベンス
1600年(23歳)~1608年、イタリアに滞在したルーベンスは、壁画を直接目にすることはできなかったが、模写作品を通じて≪アンギアーリの戦い≫からインパクトを受ける。
ルーベンスに帰属≪アンギアーリの戦い≫
17世紀初頭、ウィーン美術アカデミー絵画館
ルーベンスの≪アンギアーリの戦い≫といえば、16世紀の素描にルーベンスが加筆したルーブル美術館所蔵作品が有名。本作はそのルーブル美所蔵作品に基づいて制作されたとされる油彩画。ただし、帰属作品。
ルーベンス≪軍旗争奪≫T
1600年以降、大英博物館版画素描部
≪アンギアーリの戦い≫をもとに構想された素描。本展出品作で最も見応えのある作品かもしれない。
東京・京都・仙台と3会場を巡回する本展。
基本となる作品は3会場とも出品されるが、素描を中心に一部作品に入れ替えがある。
本記事で取り上げた作品(13作品)については、作品名のあとにTと記載したものが東京会場のみの出品(1作品)、TKと記載したものが東京・京都会場の出品(4作品)、無印(8作品)は3会場とも出品である。
なお、本記事では触れていないが、レオナルド自身の素描が、東京1、京都2、仙台1点出品される。これはすべて入れ替わる。