東京でカラヴァッジョ 日記

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「インド細密画」(府中市美術館)

2023年10月06日 | 展覧会(東洋・アジア美術)
インド細密画
2023年9月16日〜11月26日
府中市美術館
 
 本展は、日本画家でインド美術研究家の畠中光享氏が半世紀に渡って収集したインド美術コレクションから、インド細密画約120点を紹介するもの。
 
 インド細密画は、16世紀後半から19世紀半ば(英国の植民地となるまで)に、インド各地の宮廷で楽しまれた、一辺20センチ程の小さな絵。
 
 インド細密画は、イスラム教国における「ムガル絵画」と、ヒンドゥー教国における「ラージプト絵画」の二つに大別されるという。
 
 
「ムガル絵画」
・地域的には、デリーなどムガル帝国の都を中心とする地域と、インド南部のデカン地方のイスラム教国で制作される。
・ペルシアの画風を手本とし、ヨーロッパの画法を取り入れた、緻密でリアルな描写が特徴とされる。
・16世紀の中頃、ムガル帝国の第2代皇帝(在位1530-56)がペルシアから招いた二人の画家に始まる。第3代皇帝(在位1556-1605)は宮廷画院の発展に力を注ぐなど、第5代皇帝までは盛んに制作が行われる。
・主題としては、イスラム教では神の像を崇めることを固く禁じられているため、宗教的な主題ではなく、皇帝の業績、貴人の肖像、宮廷生活などが描かれる。
・しかし、第6代皇帝(在位1658-1707)は細密画の製作に熱意を示さず、画院も閉鎖。制作自体はその後も続けられたが、このとき多くの画家がラージプト諸国へ流出する。
・古くからヨーロッパでは「ムガル絵画」は知られており、例えば、レンブラント(1606-69)のコレクションにも含まれていたという。
 
 
「ラージプト絵画」
・インド北西部のラージャスターン地方や北部のパンジャブ地方のヒンドゥー教諸国で制作される。
・画風は多様であるが、大きく見れば、ムガル絵画のようにリアリティは追求せずに、強い色彩であえて平面的に描き、絵画としての美しさを目指す傾向にある。
・肖像画もあるが、主題の中心はヒンドゥー教の神々や英雄。
・ラージプト絵画が、ムガル絵画と区別して理解されるようになったのは、1916年に解説書を出版したスリランカ出身の美術史家の功績。しかし、欧米では、その後も長くインド細密画と言えば緻密なムガル絵画であったが、近年はラージプト絵画にも注目されてきているという。
 
 
 「ムガル絵画」、「ラージプト絵画」は、もちろん、時代や地域などにより、さらに画派を細分化することができる。
 同じく畠中氏のコレクションによる2020年の岡崎市美術博物館「小宇宙の精華 インド宮廷絵画」展では、より細分化された「◯◯派」により各絵画を紹介したようである。
 
 一方、本展では、「ムガル絵画」か「ラージプト絵画」か、で紹介される。
 欧米の展覧会のように「多様性」に注目し、画派ごとに紹介することも可能であるが、本展ではあえて「統一性」に注目し、より大きな視点で眺めることとした、とのことである。
 私のようなインド細密画初心者には、ちょうど良い。
 
 
【本展の構成】
1章 インド細密画の歴史 二つの宗教と二つの画派
 ・細密画の始まり
 ・ムガル絵画
 ・ラージプト絵画
2章 細密画に描かれた世界
 ・ヒンドゥーの神々
 ・クリシュナとラーマ
 ・建物のすがた
 ・人のかたち
 ・音楽を絵にする
 ・絵の中の動物
 ・愛を描く
3章 細密画の絵づくり
 ・線と色
 ・空間と構図
 ・ポーズの美
 ・布を描く
4章 細密画との対話
 
 
 初めて触れるインド細密画の世界。
 緻密さ、色彩の鮮やかさ、構図の面白さ、神々・英雄たちの物語の楽しさ、溢れる詩情。
 インド細密画が初めてであることに加え、そもそもインドにそれほど関心を持ったことがないこともあって、分からないながらも、豊かな世界が繰り広げられていることは分かるような気がする。
 
 
 以下、展覧会サイトから画像を借用する。
 
【ムガル絵画】
 
《宮廷のクシュリナ》
1770-80年、28.7×18.0cm
 
《ポーズをする女》
1780年頃、14.1×8.9cm
 
 
【ラージプト絵画】
 
《憩うクシュリナとラーダー》
1780-90年、12.7×18.7cm
 
《楽器を持つ女》
1760年、16.6×10.5cm
 
 
 ムガル絵画には、西洋婦人の肖像やマグダラのマリアの絵もあって、西洋風にインド風が加わった像をおもしろく見る。
 
 また、インディアン・イエロー。
 水とマンゴーの若葉だけを与えて飼育した、若い牝牛の尿を精製した絵具。
 発色が良く、しかも退色しないこの黄色の絵具は、15世紀頃からヨーロッパにも輸入され、フェルメールやターナーも愛用したとのこと。
   ただ、マンゴーの葉にはほとんど栄養がないため、牝牛は過度の栄養失調の状態になってしまう。これは動物虐待だということで、20世紀になって取引が禁じられ生産されなくなったとのこと。
 当然と言えば当然なのだろうが、インディアン・イエローはヨーロッパ向け輸出用として生産されたわけではなく、自国の絵画制作においてもふんだんに利用している、そのことを知る。
 
 
 一部作品は前後期で入れ替えとのことなので、余裕があれば再訪したい。


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