東京でカラヴァッジョ 日記

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「吉田初三郎の世界」(府中市美術館)

2024年05月31日 | 展覧会(その他)
Beautiful Japan 吉田初三郎の世界
2024年5月18日〜7月7日
府中市美術館
 
 
吉田初三郎(1884-1955)
 京都に生まれる。友禅の図案絵師への奉公等を経て、洋画家・鹿子木孟郎が主宰する画塾で学び、鹿子木より示された商業美術の道に進む。
 大正3(1914)年に《京阪電車御案内》が皇太子(後の昭和天皇)の目に留まり「奇麗で解り易い」との言葉を受ける。
 鉄道省による旅行ガイドブック《鉄道旅行案内》の挿絵と装丁を手がけ、また観光誘致を盛んに行った鉄道会社からの依頼による沿線名所案内を数多く描き、「大正の広重」と呼ばれた。
 昭和5(1930)年には鉄道省国際観光局によるポスター《Beautiful Japan》を描くなど、大正末から昭和戦前期にかけて観光グラフィックの分野で幅広く活躍し、生涯に手がけた鳥瞰図は1600点以上とも言われる。
 
 
【本展の構成】
1章 初三郎の時代
 ・鉄道旅行案内
 ・国際観光の時代
 ・初三郎の絵画
 ・初三郎の絵葉書
2章 魅力に迫る
 ・立ち上げられた遠景
 ・まっすぐに連ねられた景色
 ・拡大された中心
 ・歪められた周縁
3章 制作に迫る
 ・印刷技術の進展
 ・取材から印刷物へ
 ・作品の流通
 
 
大型の肉筆鳥瞰図(10点以上の出品)
 圧倒的な迫力。以下、4選。
 
《高千穂名所図絵》
大正13年、国(三の丸尚蔵館収蔵)
 宮崎県西臼杵郡が皇室に献上した作品。
 
《長野県の温泉と名勝》
昭和7年、長野県立歴史館
 松本・諏訪・茅野を観光したばかりなので、特に面白く観る。
 
《神奈川県鳥瞰図》
昭和7年、神奈川県立歴史博物館
 2021年の府中市美術館、2023年の所蔵館に続く3度目の鑑賞となるが、箱根・強羅や、横須賀美術館(観音崎、早水神社)、神奈川県立近代美術館葉山館の所在地辺りを確認し、デフォルメされながらも確かな地図となっていることに、改めて感嘆する。
 「東京湾要塞司令部」と「横須賀鎮守府」の検閲済印(7.8.11)が右隅にある。
 
《岩手県観光鳥瞰図》
昭和8年、岩手県立博物館
 気仙沼から久慈・種市まで、三陸海岸の姿に見入る。
 
 
大震災・戦争の鳥瞰図3選
 
《関東震災全地域鳥瞰図絵》
大阪朝日新聞・新聞付録
大正13年、神奈川県立歴史博物館
 
《朝日新聞 昭和17年1月1日4面「太平洋を中心とした大東亜戦争鳥瞰図》
朝日新聞社・新聞
昭和17年、個人蔵
 
《HIROSHIMA》
広島印刷会社・冊子
昭和24年、個人蔵
 
 後者2点は、壁面ケースに平置で、距離もあって、実質的に鑑賞不可。そんな展示品が結構ある。今からでも改善を望む。
 
 
その他
 《京都鳥瞰図》(ポスター、大正4年以降、堺市博物館)により京都中心部、《小田原急行電車開通記念》(ポスター、昭和2年、個人蔵)や《南武鉄道開通》(ポスター、昭和4年、個人蔵)、《京王電車沿線名所図絵》(印刷折本、昭和3年、個人蔵)などにより東京近郊・多摩地区、など、程度はさまざまだが多少土地勘のある地域の観光を楽しむ。
 
 初三郎による鳥瞰図は、実際の地形を正確に表現するものではなく、変幻自在の工夫が施された画面となっています。
 例えば見えないはずのランドマークが描かれていたり、中心となる建物が極端に大きく描かれていたりするのです。
 かと思えば、線路には当時走っていた車両が描かれ、桜の名所には桜の木が、温泉には湯煙が立ち上る様が丁寧に描き込まれています。
 大胆なクローズアップやデフォルメが施された構図と、細部まで手を抜かない描写は目を楽しませつつも非常にわかりやすく、絵の中を旅するかのような気分を味わうことができます。
 
 
 鉄道省、各地の交通業者、旅館・ホテル、地方公共団体、新聞社を顧客として、皇族や軍人とも交友があって、内地のみならず外地からも殺到する依頼を驚異的なペースでこなしていったことが伺える。市場を独占、どこに行っても吉田初三郎の観光絵図ばかり、という状況を想像する。


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