投錨備忘録 - 暇つぶしに借りた本のメモを残すブログ

李朝の白磁


朝鮮自慢の白磁である。

鄭 良漢 「李朝の白磁」 近藤出版社

「朝鮮白磁は何故白いのか?」と言うことをなんとなく調べたくて読んだ本。この本を読むまで、白磁とは真っ白なものを指す言葉だと思っていた。ところが掲載されていた写真を見ると絵付きもあったのだと言うことに素直に驚いた。私の頭にあったものは純白磁と言うらしい。

本筋には関係ないことだが、読み進めていくと、やたらと壬辰倭乱と言う文字が出てくる。朝鮮人にとっては息をするがごときである。こんなことは気にしていては読めない。が、ついつい朝鮮磁器が衰退したのは秀吉が原因か、と思わされて読むのを投げ出したくなる。鬱陶しい。

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巻頭の総説に、李氏朝鮮では磁器の種類はいくつかあり粉青沙器が16世紀の中頃まで主流であったが、壬申倭乱後に衰退し、その後は白磁が主流になった、と言うようなことが書いてあり、朝鮮の磁器は白磁にならざるを得なかった理由がある、とも書いてある。

そして、本の最後は下記の文章で終わる。

「朝鮮王朝の陶磁器は、自然と呼吸を同じくし、自然との調和を致し、器皿事態の均衡を重んじ、常に健康で諧謔にあふれ発刺さがある。堅緻な磁質と実用的な陶磁器、そこには煩雑さも、無理も、誇張もない。もっともすぐれた純白の白磁に、また淡々とした色調、単純な線、単純な形態に、人々は美を発見した。」

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これだけを読むと白磁だけが残った理由は、朝鮮人が自ら主体的に白磁、それも純白磁を選んだ結果だ、となる。ところが本文には全然違うことが書いてあるんだな。

資源の枯渇、繰り返される窯の移設、安価な輸入品の流入、経済的な困窮、維持できない窯。こんな文字があちこちにちりばめられている。

大げさに言えば、時を経るにつれて絵を付ける力もなくなってしまった、と言うのが本当のことらしい。材質を生かして白くなるしかなかったのだ。

李氏朝鮮の磁器の変遷は下記のようになる。これは現存するものと窯跡から発掘されるものから判断しているようだ。

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■前期

・青磁(青磁釉)       
・粉青沙器(粉装灰青沙器の略、胎土の上に白土で粉装し青色の釉薬をかけたもの)
・白磁
 --- 純白磁
 --- 青華白磁(コバルト系の青色顔料を使い画を描いたもの)
 --- 白磁象嵌(紋様を刻んで象嵌にしたもの)
 --- 白磁鉄画紋(鉄絵具で紋様を施したもの)
 --- 白磁辰砂紋(酸化銅で施紋したもの)
 --- ・・・
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青華白磁に使われるコバルト系の青色顔料は中国からの輸入品。「呉須」のこと。中国自身、アラビアから輸入していた希少品だった、と書いてある。。

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■中期

・白磁
・青華白磁
・白磁鉄画紋

中期の説明にはこんな言葉が出てくる。

・柴木、燔木、10年に一度の移設、密輸、鄭成功
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ここからは私の推測が入るが、中期(ここでは17世紀末から18世紀にかけて)には、朝鮮では燃料となる樹木の枯渇が始まり、新たな地を求めて窯の移設を繰り返すようになる。品質維持が難しくなる。時代は明から清に移る頃。景徳鎮が一時衰退。オランダ東インド会社は、景徳鎮からの輸出を中断。(景徳鎮の代わりは日本になる。)行き場が無くなった中国の品質は悪いが安価な青華白磁(コバルト系顔料を使った磁器だから「呉須」を用いた藍色の絵が付けられた磁器)が大量に朝鮮に持ち込まれる。朝鮮の青華白磁は太刀打ちできなくなる。

こんなところだろう。

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■後期

・白磁
・青華白磁


後期の説明で出てくる言葉は

・柴木、燔木、移設、水運、濫用警戒、贅沢、洋呉須は堕落、困窮、英視三十年の王命、清代青華磁器の影響
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一目瞭然、時代が下がるにつれて白磁が主流になっている。

後期では、ますます資源が枯渇し、窯の移設は頻繁になる。オランダ東インド会社は、景徳鎮からの輸出を再開するが、欧州向けにはならない低品質の磁器は清から依然と持ち込まれる。朝鮮の青華白磁も清の青華白磁の影響を受ける。色を付ける呉須も高価な輸入品。ついに洋呉須を用いた磁器は「贅沢」であると言うことで、王の命令により流通を禁じてしまう。洋呉須は堕落とまで言いだす。

結果、朝鮮の磁器は自前が可能で見栄えのする純白磁の生産に偏って行くことになったのだ、と思う。

まあ、これも自主的に選択したとも言える。
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