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MY FAVORITES ALBUM AWARD 2009

■ MY FAVORITES ALBUM AWARD 2009

 2009年の総決算、年の瀬恒例の「マイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アワード」を。“00年代”ラスト・イヤーということで……という清いもなく、いつものとおり、チャランポランなスタンスで行こうと思います。

 その前に2008年までの受賞作をおさらいしておきます。

◇◇◇

【過去の授賞作品】

◇ 2005年
ERIC BENET『HURRICANE』

◇ 2006年
NATE JAMES『SET THE TONE』

◇ 2007年
≪洋楽部門≫
LEDISI『LOST & FOUND』
≪邦楽部門≫
AI『DON'T STOP A.I.』
≪新人賞≫
CHRISETTE MICHELE『I AM』
≪功労賞≫
ICE

◇ 2008年
≪洋楽部門≫
Raheem DeVaughn『Love Behind The Melody』
≪邦楽部門≫
有坂美香『アクアンタム』
≪新人賞≫
Estelle『Shine』


 では、(毎回ですが)生意気に総評でも。

◇◇◇

【総評】

 2009年は復活がテーマとなった気がする。それは文字通り、リユニオン(再結成)であったり、長期にわたりシーンを留守にしたミュージシャンたちが復帰作をリリースすることが多かったと思う。2008年までのオートチューンの浸透がいつしか手軽さとなってしまい、ジェイ・Zが「デス・オブ・オートチューン」(Death of Autotune)なる楽曲をリリースするなど、ブラックの本質の枯渇を憂う雰囲気もあった。  
 そのような流れを察知するかのように、こちらも旧き良きソウル・サウンドへの回帰もあった2008年だが、その流れがビッグヒット・アーティストたちの復帰と重なって、2009年の潮流となっていったのかもしれない。ドラッグやプライヴェートの苦渋から這い上がったホイットニー・ヒューストン、寡作かつブランクの長かったマックスウェルが三部作の1作目をリリースなどはその顕著たるものだ。そして、そこへ晴れやかな形でマイケル・ジャクソンのロンドン公演が加わるはずだったが、周知のとおり、そのロンドン公演を目前に彼は逝ってしまった。だが、悲しいかなこの死が史上空前のマイケル・ブームを呼び起こし、彼の過去作へ大きなスポットが当たった。本格的な活動を知らない若い世代やそれまでゴシップとしてのマイケルにのみ接していた人々にも彼の偉大な業績の数々が知れ渡ったことは、不幸中の幸いというには切なすぎるが、彼の作品を継承する世代が多く生まれたこととして喜びたいと思う。

 “キング・オブ・ポップ”ブームは、(特にブラックにおける)ミュージック・シーンで目や耳にするポップに対する蔑みに一石を投じてくれたのかもしれない。ポップと名乗ることは決してチープなのではなく、リアルでもありうるのだと。だが、その一方で、売れるための安易なポップ化も著しく多かったような気がする。一見、矛盾するようではあるが、ポップ・ミュージックを突き詰めて堂々とポップを歌うことと、ポップ寄りにスタンスを変えてキャッチー(親しみやすさ)のみを売りにすることとは相反することだ。トピックとなるようなコラボ曲が2、3曲入っていれば、あとはそれほど作り込まずともヒット・アルバムが出来る……といった類に。

 日本でもミリオンセラーがとうに姿を消し、世界的にも楽曲単位で音楽を“購入する”あるいは“落とす”(ダウンロードする)ということが普遍的となってしまった今、アルバムとしての勝負は時代遅れなのかもしれない。その時代の潮流を是とするアーティストもいるし、その利点はあってしかるべきだ。だが、ビートルズのボックスがニュースのトップ・トピックをさらい、マイケル関連作が飛ぶように売れ、また、再発盤のリリースが頻繁に行なわれていることなどを鑑みるに、それらを凌駕するような“今”を代表する音楽が見当たらないということもいえる訳だ。安易なカヴァー、ヒット・スタイルに躍起になった明確な意図不明の便乗作……要するに、オリジナルへの労苦を伴わない楽曲が、チャートはおろかさまざまなところまで少なからず跋扈してしまっている(させてしまっている)のではないか。真を持っているアーティストが60、70年代への懐古やそのアティテュードを取り入れた作品を多く発表しているのは、そのような警鐘もあるのかもしれない。

 邦楽については、年々聴く機会が減ってきてしまっている。実際耳にしないということはないが、ここでいう“聴く”とは受動的ではなく能動的に聴こう、聴きたいという思いが伴った行為だ。前述の楽曲単位が主流の音楽シーンに個人的に合わないと感じているところも大きい。着うた、配信楽曲の年間チャート上位には、GReeeeNや嵐など一部のアーティストの寡占市場となっている。これはそれらに絶対的な固定ファンがいるということもあるが、以前に比べて売り上げの規模が小さいこともあるだろう。さまざまなアーティストや楽曲から抜き出てきたという訳ではなく、押し出されてのランキングということだ。
 能動的に聴くというスタイルは少数に追いやられ、手軽に身近に楽曲をいつでも置けるというスタイルに完全に変わってしまった。それがCD売り上げの減少にも繋がっている(クリセット・ミッシェル『エピファニー』がビルボード1位となるも、歴代最低枚数での1位というのも同様)。
 邦楽に未来はない、などいうつもりは毛頭ないが、誰もが一度は手にしたくなるアーティストの楽曲がこれからも出るのだろうか、という危機感が頭の中を過ぎっているのも事実。それはアーティスト自身というより、この業界にむしろ問題があるのかもしれないが。
 昨年の総評同様に、「安易なヒットだけを求めないで、ロング・タームで聴けるオリジナル曲で勝負していってもらいたいところ」という思いは変わらない。

 ちなみに、マイケル・ジャクソン関連作は、個人的に別腹というかエポック・メイキングたる史実になってしまっているので(リリースは過去作の再発、『ディス・イズ・イット』にしても過去作と未発表曲を合わせたサントラという位置付けなので)、ここでは除くこととする。

◇◇◇

 では、2009年の“マイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アワード”のノミネート作品の発表です。

◇◇◇

<ノミネート作品>

【最優秀作品】

≪洋楽部門≫

AMERIE『In Love & War』
ANGIE STONE『Unexpected』
BRANDY『Human』
CHOKLATE『To Whom It May Concern』
CHRISETTE MICHELE『Epiphany』

DARRIEN『If These Walls Could Talk』
DARRIUS『Can't Get Enough』
DRU『The One』
JOCELYN aka INDIGO『The iNDI1st PROJECT...BREAKTHROUGH』
JOE『Signature』

K'JON『I Get Around』
KYLE AULDIST『Made of Stone』
LEDISI『Turn Me Loose』
MAXWELL『BLACKsummers'NIGHT』
MARY J. BRIGE『Stronger with Each Tear』

MUSIQ SOULCHILD『On My Radio』
N'DAMBI『Pink Elephant』
RYAN LESLIE『Ryan Leslie』
THE SA-RA CREATIVE PARTNERS『Nuclear Evolution, The Age of Love』
SHAFIQ HUSAYN『Shafiq En' A-Free-Ka』

以上20作品(A→Z)


≪邦楽部門≫
Perfume『⊿』
FU-TEN『FREE』
45 aka SWING-O『The Revenge of Soul』

以上3作品(あ→ん)


【新人賞】
LAURA IZIBOR『Let The Truth Be Told』
MAYER HAWTHORNE『A Strange Arrangement』
RYAN LESLIE『Ryan Leslie』『Transition』

以上3作品(A→Z)


◇◇◇

 洋楽部門は20作品に対して、邦楽は3作品のみ。洋楽は近年、国内盤のお得感というか特典や販売スタイル、リリース速度といった面を総合的に考えて、輸入盤を上回るという個人的納得を見つけられなくなり、輸入盤を多く購入するようになりました。それにより、予算に対する購入枚数率が増えたほか、輸入盤のみのアーティストの動向をより求めるようになったことで、さまざまなアーティストに触れる機会は増えたというメリットもあったと思います。しかし、これは国内の音楽業界に金が落ちないということも意味し、歌詞の意味などを容易に知ることが出来なくなることも含め、複雑ではあります。

 毎回思うのが、12月のリリース作をどうするか。昨年もメアリー・J.ブライジ作で悩んだが(毎回12月のリリースって、メアリー姐は昔のユーミンか!……笑)、今年のメアリー姐作も12月。ただ、よく聴き込めたので、2009年の対象としました。ブランディーについても輸入盤は2008年にリリースされていたが、昨年は対象外としたので(日本国内盤が3月だったので)2009年に。一方、安室奈美恵とMISIA、アリシア・キーズについてはまだ聴き込めてないこともあって、今回は選外に。アリシアは日本国内盤の来年1月リリース盤があるので、2010年として要検討したいと思います。

 ということで、2009年の“マイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アワード”の発表です!

◇◇◇

【MY FAVORITES ALBUM AWARD 2009】

【最優秀作品】

≪洋楽部門≫
CHOKLATE『To Whom It May Concern』
(チョコレイト『トゥ・フーム・イット・メイ・コンサーン』
Choklate_twimc

≪邦楽部門≫
該当作品なし

≪新人賞≫
RYAN LESLIE『Ryan Leslie』
(ライアン・レズリー『ライアン・レズリー』)
Ryan_leslie_rl

◇◇◇

 最優秀洋楽アルバムはチョコレイト『トゥ・フーム・イット・メイ・コンサーン』に。チョコレイトは“Kajmere Sound Recordings”からのリリースもあるフィメール・シンガーで、芯の強くソウルフルな歌唱はジル・スコット+アンジー・ストーン×ジャズミン・サリヴァンといった風。オープナー「TIME TELL INTRO」ではバラク・オバマの大統領就任演説を採り入れたりと、時流を逃さないながらも元来のソウルを体現しようという心意気を感じるファンキーなヴォーカルがグッド。制作はヴァイタミン・Dを中心にジェイク・ワンなどで、70年代の黒さがチラチラと窺えるようなグルーヴは彼女とピッタリの相性といえます。ジャジィな「GROWN FOLK」のような曲もあるが、基本はやはりファンクネス。なかでも「THE TEA」や「6.8 BILLION」などがヘヴィロテでした。
 制作のヴァイタミン・Dはシアトル人脈なのですが、ノミネートに挙げたダリウス(DARRIUS)もこの人脈になります。同じくノミネートに挙げたドゥルー(Dru)はカナダだし、今年は北方にアンテナが反応したのか?
 
 このチョコレイトと迷ったのが、「ジョン・レジェンド、ミュージック・ソウルチャイルド、スティーヴィー・ワンダーを彷彿させる天性のソウル・シンガー…」というキャッチがついたとかつかないとかというダリエン。アーバン・メロウR&B路線をしっかりと体現してくれています。
 という流れからすれば、本家のミュージック・ソウルチャイルド『オン・マイ・レディオ』も素晴らしいアルバムでした。アンジー・ストーンは“予想外”というタイトルにしながら、本筋ではしっかりフィリー・ソウルしていたし。

 そうそう、マックスウェルの復活作でもよかったんですMVPは。ただ、三部作の第一作ということで、三部聴いてからと泣く泣く落とすという(って、彼の場合、三部作をちゃんと立て続けにリリースするのかっていう心配がかなりありますが…)。ジョー『シグニチャー』はピロー・トーク・バラード集(笑)として完璧な傑作だし、レディシ『ターン・ミー・ルーズ』も凄まじきほどの熱量。メアリー姐、アンジー、レディシ、ブランディー、マックスウェル、ダリエン、ダリウス、ミュージック……このあたりは本当に僅差というか、どれが選ばれても可笑しくない出来でした。上記ノミネート作は、どれも名盤だと思います。

 ビヨンセが別人格サーシャ・フィアースとともにR&Bからポップ・アイコンへと進み始めてしまった今、キャッチーなノリノリR&Bというアルバムや人材はどうなるのかと思ったところで、エイメリーが『イン・ラヴ・アンド・ウォー』でやってくれました。このようなアップ満載のアルバムは“キャッチー&ポップな類”として片付けられてしまうこともありますが、個人的にはアリな路線なので枯渇して欲しくないところ。とはいえ、ただノリノリでイケイケでってだけではダメで、しっかりとフロア対応して、息詰まったらスローでもみたいな小細工をしないで…ということが重要で、そういうところではエイメリーはわかってらっしゃる。序盤から“エイ! エイ!”連発のオリジナリティ爆発の楽曲の連打。オープナーの「Tell Me You Love Me」はシアラがジャスティン・ティンバーレイクとコラボした「Love Sex Magic」を想起させるコーラスだったり(しかもテディ・ライリー制作)、トレイ・ソングスを迎えた「Pretty Brown」はミント・コンディション「Breakin' My Heart」を配したり…と個人的なツボが豊富だったり。こんなにいうなら最優秀でいいんじゃないの、って? まぁ、それはそれで。(苦笑)
 同じく、前作『ファイアード・アップ』が日本国内のみのリリースとなってしまい、本国UKでは事実上のデビュー作となったアリーシャ(・ディクソン)『ジ・アリーシャ・ショウ』も同様のアップ路線を行く好盤。アルバムを1つのエンタテインメント“アリーシャ・ショウ”に見立てて作っているところも好感ですな。さすが、“デスチャへのUKからの回答”といわれたミスティーク出身ですな。そういう意味では倖田來未の『TRICK』なんかはそういうコンセプトで作られているけれど(R&Bやヒップホップを重視しようとしている気持ちは解かるけれど)、どうしてもシングルやバラードを入れなくてはならないという事情もあってか、アルバム・クオリティとして中途半端な感じも否めなかったのは残念でした。

 最優秀邦楽アルバムは…ノミネートが3作品では、ということもあり該当なしに。アニヴァーサリー・ベストをリリースしたm-flo、クリスタル・ケイ、AIなどは対象外としたので、目ぼしい作品にありつけなかった。その中では、Utada『ディス・イズ・ザ・ワン』というビッグ・リリース作があったのだが、これはもうなんというか、リード・シングル「カム・バック・トゥ・ミー」を聴いた瞬間に、「なんだよ、このマライア・キャリーのお下がりみたいなバラードが先行シングルってのは!」と思ってしまったところが大きくて、スターゲイトやトリッキー・ステュワートがプロデュース参加といっても、最優秀として挙げるまでには至りませんでした。聴き込んでみると(今も聴きながら書いているのですが)、意外と面白いアプローチから制作していたりしてなかなかと思わせるところもあるのですが、前述の強烈なインパクトと「オートマティック・パート2」というタイトルや、「戦場のメリー・クリスマス」でも敷いとけみたいな安易な発想には、自分自身をちょっと納得させられず、ということで。「メ・ムエロ」とか「ダーティ・デザイア」とかはいいのに(あと、ジャケット内の写真もキュートなのに、あのブックレットの色使いはないと思う……)。もったいない。
 宇多田は昨年も『HEART STATION』で「ぼくはくま」が配されたことで違和感が消えず、最優秀から外したのだった。好きなアーティストに対しては要求が多くなるってことでしょうかねぇ。

 新人賞はライアン・レズリーに。新人といっても、“Bad Boy”のプロデューサーとしてキャシー(Cassie)「Me & U」をはじめとするヒット作を持ち、ハーバード大学卒という博識キャリアでも話題だったから知名度は抜群。「Diamond Girl」「Addiction」などのヒット・シングルを網羅したセルフ・タイトル・アルバムをリリースしたと思ったら、2009年中に早くも2ndアルバム『Transition』をリリースしたこともあり、合わせ技で新人賞としました。アイルランドのアリシア・キーズことローラ・イジボアのアルバムもよかったんだけれどね。
 ライアン・レズリーは歌唱はそれほど上手くはないけれど、楽曲のツボというか、輝かせ方を知っている感じ。楽しませる要素を解かっていて構築しているというか。たとえが合っているかどうかは別として、大人でも楽しめるコミック『ケロロ軍曹』的な、チラチラと「オッ」と思わせる要素が散りばめられているんですよ。これで、解かるでしょうか…。(苦笑)

 来年は、特に耳離れしてしまった邦楽シーンで、オオッと思わせるアルバムが出て欲しいところです。まだ聴いていない安室やYOSHIKA、復活するSOULHEADなど、期待出来そうなニュースもすでにあるので、2010年こそ大いに楽しませ、悩ませてもらいたいところです。


◇◇◇

 今年を代表する(邦楽の)一曲……が思いつかないので、とりあえず、今気に入ってるPVでも貼り付けておきます。

BoA / BUMP BUMP! feat.VERBAL(m-flo)
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VERBALは相変わらずいいプロデュースをしますネ。

“ボアちゃんイェイイェイ一緒に乾杯~”って。(笑)

※ 終わりの方にある“ヤ、チュムチョバ”ってのは「ねぇ、踊ってみて」という意味らしい(未確認)

 次回は誰も望んでなくても、“マイ・フェイヴァリッツ・ライヴ・アワード 2009”をお届けします。

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