
現在進行形のポップ・バンドの矜持を示した夜。
80年代に一世を風靡したイギリスの4人組、カルチャー・クラブが2000年以来約16年ぶりにオリジナルメンバーで来日。カルチャー・クラブ、ワム!、デュラン・デュランのUK3組は若き頃に自分の洋楽嗜好をさらに高めた存在で、その情報を知った際には「これは外せない」と前のめり気味に。だが、来日公演の詳細を確かめると、東京では平日のZepp Tokyoでオールスタンディングが前売りで13500円(2階席は25000円、ミート&グリート付きVIPはその倍以上!!)。確かにビッグネームではあるが、かなり高価な設定ゆえチケットが捌けるのかと心配になったが、残念ながらその不安は的中。フロアに入ると、通常は高台となっている後方エリアが立ち入り禁止となっており、約2400名収容の1階エリア(2階は200席+α)に約半分の集客ほど。開演直前まで周囲からは「やっぱりチケット代が高いからねぇ…」という声がちらほら聞こえてきた。
だが、蓋を開けてみると、チケット代についてウダウダと言っていた自分が恥ずかしくなるほどの素晴らしいステージ・パフォーマンスを展開。オリジナルメンバーのボーイ・ジョージ、ジョン・モス、ロイ・ヘイ、マイキー・クレイグの4名だけでなく、キーボード、ホーン・セクション3名、ギター、パーカッション、女性バック・ヴォーカル3名を加えた総勢13名のビッグバンド編成で、ホーン・セクションと黒人女性ヴォーカルを厚く配するあたりは、ブランニュー・ヘヴィーズやインコグニートあたりの同じくUK出身ユニットにも似た種。懐かしさだけに終わらず、良質なバンド・サウンドを妥協せずに奏でようという姿勢がヒシヒシと伝わって来た。
中心は『キッシング・トゥ・ビー・クレイヴァー』『カラー・バイ・ナンバーズ』の初期ヒット・アルバムからの楽曲だったが、ところどころに最近公開された(次作『トライブス』に収録予定?)「ヒューマン・ズー」「ライク・アイ・ユースト・トゥ」「ディファレント・マン」「ラナウェイ・トレイン」などを組み込み、以前と変わらないグッド・メロディを鳴らしているのを聴くにつけ、特異なヴィジュアルとスキャンダルを賑わせたヴォーカルが率いる80年代の人気グループというレッテルを仮に持っていた人がその場にいたならば、その思いは一気に崩れ落ちたはずだ。一気にフロアを陽気なレゲエの世界へと導いた「エヴリシング・アイ・オウン」、黒人女性ヴォーカルとの掛け合いが魅力のゴスペルやソウル色が強い「ブラック・マネー」、レクイエム風のフレーズも印象的なバラード「ヴィクティムズ」、良質のミディアム・ソウル・ポップス「タイム」など、多彩なバックボーンに裏打ちされた浸透性の高いポップスは単に過去のヒット・ソングだけに留まらない、眩しい輝きの粒を放っていた。「ポイズン・マインド」で幕を開けた当初は照明などとの呼吸がイマイチ合わない場面もあったが、次第にステージと一体化。ボーイ・ジョージの脇を固めるロイとマイキーのテンションもオーディエンスの興奮をさらに上昇させるのに充分で、その多くが青春を謳歌したであろう曲を歌い、歓喜し、バンドが奏でる音を一音たりとも逃さないよう耳を傾けていた。

“ファンキーに行こう!”の煽りで演奏した「ライク・アイ・ユースト・トゥ」「ディファレント・マン」などの近年の楽曲は、いわゆる代表曲ほどの抜群の反応まではなかったものの、純粋にその楽曲に酔いしれて手を挙げ、身体を揺らす人の波が絶えなかった。さらに「ミス・ミー」を投下すると、さらに会場の熱気のギアが上がり、本編ラスト「モア・ザン・サイレンス」までその熱度が下がることはなかった。
アンコールでは代表曲「カーマは気まぐれ」で“カマカマカマカマ…”の大合唱。中盤に日本語で“ナキソウ”と語ったボーイ・ジョージも感慨に耽るような表情でオーディエンスにマイクを差し向ける。16年待ち望んだ瞬間は過去の姿との落胆など微塵もない、現役ポップ・バンドの気概に満ち溢れたステージとなった。
ドラマティックなイントロ・アレンジで楽曲の振り幅を提示して見せた(“センソウハンターイ”の歌唱はなかったが)「戦争のうた」を経て、ラストはなんとT・レックスの「ゲット・イット・オン」を。「戦争のうた」のアウトロから被せ気味にロイがフックのギター・リフを奏でると、フロアはミラーボール煌めくパーティ・タイムへ。あまりイメージにないかもしれないが、ボーイ・ジョージのデビュー前のヴィジュアルはデヴィッド・ボウイやマーク・ボランを意識したグラム・ロック風メイクだったことを考えると、恐らくボウイやボランの影響を受けていたのだろう。「ゲット・イット・オン」のグルーヴに乗り、時折叫び声を挟みながらライヴを純粋に楽しむメンバーたちがそこに存在していた。

ボーイ・ジョージは80年代絶頂時の滑らかでフェミニンなヴォーカルではなくハスキーな低音ヴォーカルへと変わっていたが、あまり気にならなかったのは年を重ねた渋味としていい塩梅だったことと、しっかりとバンドが奏でるメロディやサウンドと溶け合っていたからだろう。以前にジョージが恋煩いしていたジョン・モスとの仲違いなどで不安にさせた当時のカルチャー・クラブから、時代を重ねても音楽への探求を止めることなく良質な楽曲を生み出し続ようとする“野心を持ったポップ・バンド”としての姿を眼前にすると、懐古や郷愁などという思いはどこかに消え去っていた。
メンバーが次々とステージを去るなか、マイキーは“また戻ってくるよ!”と2、3回叫んだ。フロアの反応にも好感触を得たのだろう。次はさらに現役感を高めたセットリストで驚かせてほしい……そう感じながら、歓喜の声が飛び交う会場を後にしたのだった。

◇◇◇
<SET LIST>
01 Church of the Poison Mind(*2)
02 It's a Miracle(*2)
03 I'll Tumble 4 Ya(*1)
04 Move Away(*4)
05 Human Zoo(*6)
06 Everything I Own(*8)
07 Black Money(*2)
08 INTERLUDE
09 Victims(*2)
10 Time (Clock of the Heart)(*1)
11 Like I Used To(*6)
12 Different Man(*6)
13 Miss Me Blind(*2)
14 The Crying Game(*7)
15 Do You Really Want to Hurt Me(*1)
16 More Than Silence(*6)
≪ENDORE≫
17 Runaway Train(*6)
18 Karma Chameleon(*2)
19 Starman(*5)
20 The War Song(*3)
21 Bang A Gong(get It On)(Original by T.Rex)
(*1):song from Album〈Kissing to Be Clever〉
(*2):song from Album〈Colour by Numbers〉
(*3):song from Album〈Waking Up with the House on Fire〉
(*4):song from Album〈From Luxury to Heartache〉
(*5):song from Album〈Don't Mind If I Do〉
(*6):song from Album〈Tribes〉?
(*7):song from Album“BOY GEORGE AND CULTURE CLUB/AT WORST...THE BEST OF”
(*8):song from Album“BOY GEORGE/SOLD”
<MEMBER>
Culture Club are:
Boy George(vo)
Roy Hay(g,key)
Mikey Craig(b)
Jon Moss(ds)
band:
(key)
(tp)
(tb)
(sax)
(g)
(per)
(back vo)
(back vo)
(back vo)

◇◇◇
Time (Clock Of The Heart)
Miss Me Blind
The War Song
Like I Used To