トルコの経済混乱、エルドアン氏の再選阻むか
通貨リラ下落で試される、繁栄を演出した大統領への支持
【イスタンブール】6月24日に行われるトルコの大統領選・総選挙で、レジェプ・タイップ・エルドアン大統領に手ごわい敵が
出現した。それは米ドルだ。
エルドアン氏が2003年に権力の座に就いて以来ほぼずっと、トルコの有権者は抗しがたい1つの理由から、彼の独裁的な
政治手法や変わりやすい外交政策、周辺の汚職疑惑を甘んじて容認してきた。その理由とは、経済変革により普通のトルコ国民の
生活水準を押し上げ、かつてない繁栄をもたらしたことだ。
世界銀行の統計によれば、トルコの1人当たり国民所得は2003年以降ほぼ70%増加し、一部欧州連合(EU)諸国の水準を
上回るまでになった。
だがその繁栄は今や脅威にさらされている。外国からの投資に大きく依存しているトルコ経済が困難に直面しているからだ。
ここ数週間、トルコの通貨リラは暴落に見舞われている。その一因は、エルドアン氏が中央銀行の独立性に制限を設けるのでは
ないかの懸念が生じたことだ。リラは、2014年に行われた前回の大統領選時には1ドル=2.15リラだったが、
先週には急落を演じ、4.92リラを付けた。その後は、トルコ中銀の大幅な利上げや他国の中銀の介入を受けて、
下げ分の一部を戻し、4.50リラ前後で小康状態となっている。
「トルコには深刻な経済混乱が生じている。誰もが注視する主要な経済指標は、今ではドル相場となっている」と、
トルコのエコノミストであるムスタファ・ソンメズ氏は語る。「国内外の投資家の信頼を大幅に喪失している。国民には
エルドアン氏が何をしたいのか分からない」
エルドアン氏と与党の公正発展党(AKP)は、この通貨リラ下落が同氏のプランを失墜させようとする外国からの陰謀だと
述べている。トルコを世界的な大国かつイスラム世界のリーダーにするという同氏のプランに対する陰謀だというのだ。
同氏は5月26日に東部エルズルムで行われた決起集会で、「枕の下にユーロやドルをためている同胞諸君は、それをリラに
交換しに行くべきだ。金融界がわれわれの投資家や起業家に背くようなゲームをするなら、いずれ高い代償を払うことになる」と
訴えた。
だが、こうした奨励の効果は限定的だ。それは、AKPが同じような約束を以前にしたことがあるが、無駄だったからだ。
2017年1月、外貨を売ってリラを買えというエルドアン氏の当時の呼び掛けを受けて、地元のAKP関係者たちがドル札で
鼻をかんだり、ドル札の山に火をつけたりする様子をテレビ向けに演出し、放送した。
だがその後、リラ相場は20%以上下落している。
最近の世論調査では、エルドアン大統領の不支持率が支持率を上回っている。そんななか、分裂状態のトルコ野党勢力は
同大統領を攻撃するにあたり、この経済状況を利用することに最大限の力を注いでいる。
野党・共和人民党の大統領候補として有力視されているムハレム・インジェ氏は、「汚職、イデオロギー的な執着、経済機関の
独立性奪取、予算の透明性の消滅、資源の不適切な配分。そうしたこと全てが、わが国の経済を地獄の一歩手前まで追い込んだ」と
述べ、「トルコの全ての機関が疲弊している。経済問題があまりに深刻なため、彼(エルドアン氏)は今回、これを隠し通すことが
できないだろう」と話した。同氏は6月24日の大統領選で現職のエルドアン氏の得票率が50%を超えなかった場合、
決選投票で対立候補になる可能性が最も高いとされている。
「わたしは変化の風を感じている。トルコは今、このワンマン独裁政権に飽き飽きしている」と同氏は付け加えた。
以前、トルコの野党政治家には同じように高い期待が寄せられていた。過去のいくつかの国政選挙の際や、大統領の権限を
大幅に拡大した昨年の国民投票を控えた際だ。しかし現実にはエルドアン氏とAKPが、1回の例外を除き、2002年以降のあらゆる
国政選挙で勝利した。例外は15年6月の総選挙だったが、その後、野党勢力は一つに結集できず、AKPは4カ月後に行われた
再選挙で絶対過半数を取り戻した。
しかし今回は、トルコの主要野党の一部の間で異例の協調姿勢がみられる。大統領選と並行して行われる国会の総選挙の
運動でインジェ氏の世俗政党・共和人民党は、伝統的なイスラミスト政党の至福党、新たな世俗的ナショナリスト政党の改善党と
共闘している。
少数民族クルド人系の国民民主主義党(HDP)は、党指導者たちがエルドアン氏によって拘束された。だが世論調査によれば、
法的な壁である10%以上の得票率をHDPが再び確保して議員を送り出せれば、与党のAKPは、たとえエルドアン氏が大統領に
再選されるとしても、議会で絶対過半数を失う展開が十分にありうるという。
現在、野党はメディアへのアクセスをおおむね拒否され、独立系のジャーナリストが繰り返し投獄されている。
こうした対立が先鋭化する現況のなかでは、たとえ経済が悪化していても、エルドアン氏の魅力をそぐのは十分でないかもしれない、
とワシントン近東政策研究所(WINEP)トルコ・プログラムのディレクター、ソネル・チャアプタイ氏は言う。
同氏は「経済が崩壊しつつあるとの理由で投票する候補者をくら替えする人はごく少数だろう」と述べ、「トルコ人の半分は
エルドアンが大好きで、悪いことはできない人だと思っている。経済がトラブルに陥っているのは悪い統治のためではなく、
誰かがエルドアン氏をおとしめようとしているからだと彼らは考えているのだ」と述べた。
欧州外交評議会(ECFR)のトルコ専門家、アスリ・アイディンタスバス氏もこの見方に同意している。同氏は、アンカラが
国政選挙を1年半繰り上げて実施すると決意したのは、懸念されている経済危機が本格化する前に有権者に投票させようとしている
ためだと述べた。
同氏は「われわれは(経済悪化の)初期段階にあり、この時点でトルコの有権者たちが経済の落ち込みの深刻さを強く感じて
いるかは不透明だ」と述べ、「経済の落ち込みは、究極的に有権者行動に影響するだろう。だが問題は、それが今起こっているのか
ということだ」と語った。