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蜜月も束の間、中国とフィリピンに緊張高まる。 ついに、南シナ海の南沙諸島めぐり軍事衝突の危機が顕在化

2019-04-05 06:02:01 | フィリピン

蜜月も束の間、中国とフィリピンに緊張高まる

ついに、南シナ海の南沙諸島めぐり軍事衝突の危機が顕在化

2019.4.4(木)

フィリピン・マニラで同国のテオドロ・ロクシン外相(左)と握手するマイク・ポンペオ米国務長官(2019年3月1日撮影)


「火種の島」で知られる南シナ海の南沙諸島(英語名はスプラトリー)。

 

 フィリピンが実効支配しているパグアサ島(フィリピン名、英語名はティトゥ)はここに

位置している。


 この島を巡り、フィリピンと中国の間にいま緊張が高まっている。

 ワシントンポストなど米メディアなどによると、パグアサ島近海で今年1月から3月末までの間、

中国船が数百隻航行しているのが確認されという。


 3月29日、フィリピン政府が外交ルートを通じ中国政府に抗議を行ったことも明らかになった。

 フィリピン軍幹部によれば、中国の船舶やボート、計275隻がパグアサ島付近で航行するのを

確認しているという。

 同幹部は「こうした中国船は、同海域への侵入と離脱を頻繁に続けており、実態はつかめて

いない」とし、実際には、「(この数より)はるかに多い船舶の航行があるのではないか」と

警戒を強めている。


 一方、上陸や災害対処の訓練を行うフィリピン軍と米軍、豪州軍による定期合同軍事演習

「バリカタン」が1日から12日まで、フィリピン各地で展開されている。

 今回、初めて投入されている米軍の最新鋭ステルス戦闘機「F35B」は、長崎・佐世保基地に

配備中の強襲揚陸艦ワスプに搭載されたもので、同軍事演習中、南シナ海上空を飛行している。


 主に、ルソン島西部のサンバレス州沖から内陸のタルラック州を目指すが、フィリピンと

中国が領有権を争うスカボロー礁(中国名・黄岩島)は、そのサンバレス州にある。

 同海域の航行を拡大している中国海軍を牽制する目的だ。

 

南シナ海の南沙諸島に位置する、フィリピン実効支配のパグアサ島は、フィリピン、マレーシア、ベトナム、台湾、ブルネイ、中国の6か国・地域の領有権争いの最前線で、「火種の島」と称され、軍事衝突の危機と常に隣り合わせだ

 パグアサ島の緊張した事態を受け、フィリピン政府関係者は筆者の取材に応じ、中国政府に

対して以下のような抗議文書を送り、「(4月2日時点で)中国政府からの回答を待っている状況」

であることを明らかにした。

 

(1)フィリピン政府が確認した上記のような事実を中国政府が把握しているのか。

 (2)フィリピンが実効支配するパグアサ島付近に中国政府はなぜ頻繁に船舶を侵入させているのか。その具体的な理由は何か。

 (3)今後、中国政府がこのような行為を行わないことを求める。 

 

 南沙諸島は、南シナ海の中央に位置し、100以上の島や環礁、暗礁からなる。パグアサ島

周辺は豊かな漁場に恵まれ、石油や天然ガスの埋蔵も期待されている。

 

 米国が南沙諸島を「国際的空域かつ海水領域」と主張する中、フィリピン、中国、マレーシア、ベトナム、台湾、ブルネイの6か国・地域の領有権主張が複雑に交錯し、常々、軍事衝突の

懸念がささやかれてきた。

 

 こうした中、中国政府は同諸島にある環礁に人工島を造成し、2016年頃から港、滑走路や

軍事的建造物の建設を急ピッチで進め、「力による現状変更」を画策・実行してきた。

 

 南沙諸島が「火種の島」と呼ばれるゆえんでもある。

 

 パグアサ島は、フィリピン西部のパラワン島の北西約450キロに位置し、町の職員や

漁師などが暮らしている。

 

 100人の島民のうち、約40人が小さな子供たちという。昨今の中国の軍事的脅威で、

フィリピン政府軍に警察、沿岸警備隊も常駐しているが、安全保障上、その実働部隊の詳細は

明らかにされていない。

 島には、小学校、診療所、発電所などの施設はあるが、携帯電話の電波は届かず、島民同士は

無線で連絡を取り合っているという。

 

 海軍の艦艇や町所有の船2隻ほどで、数日かけてパラワン島から、食料や生活必需品が運ばれ、

島民の日々の暮らしを支えている。

 住民の多くが漁師で、近海の漁で生計を立てており、中国政府の軍事拠点化が進む中、

漁場への懸念を高めている。

 「かつては平和そのものだった」と話す島民の生活は一変した。今では「中国海軍と

海警局が、我々フィリピン人の行動を監視しているようだ」と、島民を怯えさせる状況に

なっている。


 こうした中、ドゥテルテ大統領の報道官、サルバドール・パネロ氏は「フィリピンや国民の

安全性を脅かす行為には、異議を申し立てていく」と話す。

 しかし、ドゥテルテ大統領は、約3年前の大統領就任後、対中強硬派だったアキノ前政権の

政策を180度転換。中国からの投資促進を目的に「対中太陽政策」に舵を切っている。


 逆に、欧米とは経済面、軍事面で距離を置いた。

 この政策転換はどうだったのか。現在のところ、中国依存政策はフィリピンに実質的な

収益をもたらしていないようにみえる。


 ドゥテルテ大統領就任後、中国はフィリピンにとって最大の貿易相手国に躍り出て、

中国からの対フィリピン直接投資は約20倍に膨れ上がった。

 とはいうものの、フィリピンへの海外直接投資額では日本、米国、韓国、オランダ、シンガポールに大きく水を空けられている。

 

 2016年10月、同大統領は北京訪問時、中国の習近平国家主席と会談し、27件の協定に署名。

中国は港湾、鉄道、採鉱、エネルギーなどのインフラ整備などに対する150億ドルに上る

直接投資、さらに90億ドルの低利融資など、支援規模総額240億ドルを約束した。

 

 しかし、3年を迎えようとする今も、投資プロジェクトはほとんど実施されていない。

 それどころか、当時、フィリピンのエネルギー会社と中国の電力会社が水力発電所の

共同建設(総工費10億ドル)で合意したものの、中国側が再三延期を申し出た。


 最終的に2017年2月までの延期で合意したかにみえたが着工の目処が立たず、フィリピン側から

契約を中止させた経緯がある。


 中国支援による借款協定は、7300万ドルの灌漑プロジェクト1件で、橋梁建設が2件始まった

だけ。

 「計画は大幅に遅れ、2018年の中国からの純投資額は約2億ドルほど」(ペルニア国家経済

開発庁長官)と大国・中国にしてはお粗末な額だ。


 さらに、ディオクノ予算長官も「中国は官僚主導で政治決断が遅い。習近平主席が約束した

全プロジェクトが遂行されるよう圧力をかけるべきだ」と、政権内部からも批判や不満が

表面化し始めている。


 昨年11月末、習近平氏は中国の国家主席として2005年の胡錦濤(フー・ジンタオ)氏以来

13年ぶりにフィリピンを訪問。

 石油や天然ガス開発に加え、中国の一帯一路下の鉄道などインフラ整備を含む広範囲の分野で

相互協力することで合意した。


 しかし、習近平主席訪問直前に実施された世論調査では、「南シナ海での中国のインフラや

軍事拠点開発に反対」が84%、「中国が違法占拠する領土を奪回すべき」が87%で、

「海軍を中心としたフィリピンの軍事力拡大が不可欠」が86%にも達した。

 

 さらに、習近平主席の歴史的なフィリピン訪問の際にも、国内のメディアや国民は

ドゥテルテ大統領の対中政策に疑問を呈し、中国にそっぽを向いた。

 

 「フィリピンの海域を守れ!」「中国は南シナ海から出て行け!」とシュプレヒコールを

上げ、マニラの中国大使館前には、数千人ものフィリピン国民が習国家主席のフィリピン訪問に

抗議した。


 さらに、旧米海軍スービック基地が中国資本の手中に陥る懸念まで浮上している。

 今年に入って、サンバレス州のスービック湾に造船所を運営する韓国の造船会社の現地法人が

経営破綻。負債総額は約13億ドルに上り、フィリピン史上最大級の経営破綻になっている。

 会社更生法の適用を現地の裁判所に申請したが、同社救済に名乗りを上げたのが、

中国企業なのだ。


 もともと、スービック湾地域は、スペインが海軍基地として1884年に利用を開始し、米国に

管理権が移ったのが1889年。91年に、米軍が撤退するまでは米海軍の環太平洋における

重点的軍事拠点だった。


 シンガポールの面積を上回るスービック基地は、経済特別区に生まれ変わり、日系企業も

同工業団地に拠点を構えている。


 中国が海洋進出を図る南シナ海に面するスービック湾は、米軍基地そのものはなくなったが、

日米の艦船の寄港地で、昨年9月には、海上自衛隊の護衛艦「かが」が、スービック湾に初の

海外寄港として入港した。


 ドゥテルテ氏は、中国からの経済財政援助によるインフラ開発で高い支持率を維持したいところ。


 一方、犯罪対策などの効果があり、海外からの総固定資本形成(投資)は大幅増加し、

2017年の一人当たりの名目GDP(国内総生産)は、約2900ドルに達し、過去最高を更新。

堅調な経済成長はドゥテルテ大統領の人気を下支えしている。


 しかし、中国からの援助は現在のところ絵に描いた餅にとどまっている。逆にこの先、

中国による軍事的脅威に直面する国家的危機を迎えるかもしれない。


 再選の許されないドゥテルテ大統領にとって大きな審判になるのが、今年5月に行われる

2022年の大統領選を占う中間選挙だ。


 後継者選びで頭を悩ませており、自身が取り組んできた親中国政策が、「チャイナ・リスク」

として跳ね返ってくるのはほぼ間違いない。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55993