2019.07.30 HEALTH PRESS
6月17日、ロンドンで開かれた「民衆法廷」で、ある大きな国際的疑惑に対する最終裁定が出た。
約1年にわたり中国の臓器収奪問題について50人以上の証言と調査の結果を審議し、議長(元検事総長
ジェフリー・ナイス卿)は、中国では移植手術の供給のために臓器収奪が行われているとの事実を、
ほぼ認定した。さらには、各国の政府や企業などに対して、共産党政権の中国における国家的な人道に
反する罪を認識するよう呼びかけている。
この日、有罪と断じられたのは、中国で継続して行われている移植のための強制的な臓器摘出、
いわゆる「臓器狩り」だ。
新鮮な移植用臓器がたった数週間で用意されている
中国では十数年前から臓器移植の件数が急激に増加している。いまやアメリカに次ぐ世界第2位の
移植大国だ。ところが、ドナー(臓器提供者)の報告がされることもほとんどなかった。しかも、
外国人患者向けの臓器移植のあっせん(売買)サイトが多数存在し、肝臓=1000万円~、
腎臓=600万円~、心臓=1300万円~、角膜=300万円~などと臓器別の値段を明示し「若くて新鮮な
臓器が、早ければ数週間以内に見つかる」などとアピールしている。
移植大国・アメリカの10分の1程度の金額、しかも他国では2年も3年も待たなければならない
適合臓器が、「たった数週間で見つかる」との謳い文句に各国から移植希望者が殺到している。
もちろん、日本からの移植希望者も相当数含まれている。こうした状況は、かなり早い時期から
国際的な注目を浴び、疑問視されていた。
しかし、中国国内の状況は非常にわかりにくく、一部の人権団体や調査機関などもその実態解明に
取り組んでいたが、2006年初めから中国の収容施設での臓器収奪を告発する内部関係者の証言が
相次いだ。
事態を大きく動かしたのは2006年3月、元中国医療関係者の女性が米国で自らの体験を証言した
ことだった。女性は遼寧省蘇家屯の病院に勤務する医療事務員で、夫は脳神経外科医。病院地下には
5000~6000人の法輪功学習者を監禁しており、そのうち約4000人が薬物注射で仮死状態となり心臓、
肝臓、腎臓、角膜などが摘出され、その後、身体を病院近くのボイラー室で焼却しているという。
法輪功は中国の伝統的健康法である「気功」を体得するための修練法だが、1999年に邪教と
定められ活動が禁止された。以降、実践者たちは逮捕、投獄、収容所での虐待などを受けていると
いわれる。
関係者による赤裸々な証言を受け、カナダの元アジア太平洋地区担当大臣デービット・キルガー氏、
人権弁護士デービッド・マタス氏が「臓器狩り」の独立調査団を結成。これまで『Bloody Harvest:
Organ Harvesting of Falun Gong Practitioners in China(血まみれの臓器狩り:中国での法輪功
修煉者からの臓器収奪)』と題する報告書、および『Bloody Harvest-The Killing of Falun Gong
for Their Organs (Seraphim Editions)』とのタイトルの本にまとめている。
同書は2013年に日本で翻訳書『中国臓器狩り』(アスペクト社)として出版されている。
臓器狩りが中国にとっては数十億ドル規模のビジネスに成長
マタス氏は自著の中で事の経緯を簡潔に説明している。
「中国はまず、死刑囚の臓器を使って臓器販売を始めた。しかし、世界的に臓器の需要は大きく、
また病院にはお金が必要だったために、死刑囚の臓器だけでは供給が追いつかなかった。そしてそこに、
法輪功の学習者が登場する。彼らは迫害され、人間性を奪われていた。人数も膨大で、身元不明という
無防備な立場にあった。これらの要素が組み合わさり、法輪功学習者が、臓器のために殺された。
摘出された臓器は外国人に売られ、中国にとっては数十億ドル規模のビジネスになった」
(p.112『中国臓器狩り』)
臓器供給源となっているのは囚人や法輪功学習者だけではなく、ウイグル族やチベット族などの
少数民族も対象になっていることが今回の民衆法廷で指摘されている。囚人からの臓器提供は中国政府も
認め、中国当局は2015年までに死刑囚からの臓器移植を段階的に中止するとの発表も行っているが、
今回の民衆法廷では最悪の事態はまだまだ継続しているとの見解を示している。
ヨーロッパ各国や米国はここ数年、相次いで中国共産党による臓器摘出問題を公に非難している。
2016年6月13日、米下院で343号決議案が満場一致で可決。「中華人民共和国で、国家認定のもとで
系統的に合意のない良心の囚人から臓器が摘出されているという信頼性のおける報告が継続的に出されて
いることに関して懸念を表明する」「(犠牲者には)かなりの数の法輪功修煉者、その他の信仰を持つ
人々並びに少数民族グループが含まれている」と言及している。
欧州議会主席も同年7月27日、414名の議員が共同署名した48号書面声明を正式に発表。中国共産党に
対し、囚人からの臓器摘出を停止するよう要求した。
今回最終裁定を出した「民衆法廷」は、これまで国際法上問題があると考えられる議題を有識者らが
公開検証する独立調査パネル。これまでイラン、ベトナム、北朝鮮などでの人道犯罪を取り上げ、
世界各地で開かれてきた。今回は中国臓器収奪が議題となり、中国から脱出した少数民族、信仰者、
人権専門家、医師、作家らの証言を基に、英ロンドンで裁定を下した。
議長のナイス卿は、最終裁定により各国政府および国際機関は「義務を果たすべきだ」と述べた。
そして、中国臓器収奪問題は、いまだに大量虐殺が進行している可能性があることから、国際裁判所や
国連に訴える必要があるとした。
日本での当事者意識の少なさと無関心は共謀に匹敵する
中国の臓器収奪問題に詳しい、多言語メディア「大紀元」の元編集長でジャーナリストの張本真氏は、
こう語る。
「国連人権委員会の調査、アメリカ議会、欧州議会などでの決議案をはじめ、あまりにも多くの国際的な
非難に耐えかね、2005年、中国は公式に死刑囚からの臓器摘出を認めた。しかし、事態は何も変わって
いないし、手口はより巧妙になっている。もちろん、今回の判決は大変いいことだが、臓器収奪は中国の
共産党が主導し国家ぐるみで行われている犯罪。共産党による統治体制が変わらない限り、大きな変化は
期待できない。ただ、正しい道への修正には時間がかかる。地道にこの問題を世界に訴え続けて行く
べきだと考えている」
また、マタス氏はたびたび来日し、「まさに現在進行形のホロコースト(大量虐殺)である」と、
国会議員などに対しても惨状を訴えているが、同行したことのある張本氏は「日本での反応は、
あまりにも鈍い」と指摘する。
「中国の移植業界と日本とは深いつながりがある。日本人向けの移植ツーリズムの需要に応えた
移植センターは、日本の移植ブローカーと連携している。日本で移植技術を学んだ移植外科医も多い。
中国は日本から大量の移植関連薬剤を輸入してきた。日本政府が一部資金を提供している中国の
移植病院もある。私が報告書を発表してから10年以上経過したが、中国の移植乱用に関して日本が
共犯となることを避けるための措置はとられていない。日本の官僚も医療界も、何もしない。
日本が何も言わず、何もせず、何も知らないと主張する理由は、能力が不足しているからではない
はずだ。見て見ぬフリをしているだけだ。それは沈黙という共謀になる」(マタス氏)
メディアの責任も大きい。これだけ大きな問題を、なぜ日本の主要メディアは取り上げないのか。
2016年のマタス氏の講演会で、日本のメディアがこの問題にまったく関心を示さないことが話題に
なったとき、大手新聞社の記者だった男性が「囚人からの臓器摘出などはもちろん知っていた。
仮にその問題を取り上げれば、中国にある支局はすべて国外退去となる。どのメディアもそんなことは
できるはずがなかった」と発言した。状況は今でもそれほど変わっていないようだ。
新鮮な臓器の摘出のために脳死マシーンまで開発
ある日本の移植専門医によると、「中国では人を意図的に脳死させる<脳死マシーン>を開発して
いるとの噂を耳にした」と明かす。
側頭部を打撃することで脳幹を停止させ、人を瞬く間に脳死に陥らせるこの機械については2017年、
韓国テレビ局の調査報道番組「セブン」が、中国臓器移植の病院や関係者の現地取材を基に、
脳死マシーンの模型を製作している。「脳死にすることで移植用臓器の鮮度を長時間保つための機械
ではないか」と指摘している。臓器保存液を必要とせず、運搬時の虚血許容時間を考慮する必要が
ないため、新鮮な状態を保つことが可能となるのだ。
2016年に発表された、マタス氏ら3名による報告書『血塗られた臓器狩り/大虐殺―更新版』では、
「中国では年間6~10万の臓器移植を実施している」「中国共産党政府は、精神と宗教の自由を大規模に
弾圧するために、大量の法輪功学習者、ウイグル人、チベット人、家庭教会信者の殺害に関わっている」
などと指摘している。
ロンドンの民衆法廷は、これまでの報告書や証言、資料などを基に最終裁定を下している。
この過程で中国衛生部、在ロンドン中国大使館、中国共産党政府高官にそれぞれ反証の機会を与え、
民衆法廷の開催について通知しているが、返答はなかったという。中国政府は、死刑囚の臓器を
移植手術に使用を中止することや、海外からの渡航者への移植手術は中国臓器移植法で禁止されて
いるなどの見解を示しているだけである。