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「核のごみ」減らす切り札 理研が新型加速器を考案

2019-09-10 08:14:22 | 核(軍事)・原発・非核化・制裁

「核のごみ」減らす切り札 理研が新型加速器を考案

 核変換に関する基礎データの取得に用いられた理化学研究所仁科加速器科学研究センターの超電導リングサイクロトロン「SRC」(理化学研究所提供)


 原発の使用済み核燃料から生まれる高レベル放射性廃棄物は「核のごみ」と呼ばれる。地下に埋める

処分方法が進まないなかで期待されるのが、廃棄物に含まれる放射性物質をより安全な物質に変換する

手法だ。その根幹となる新型加速器が理化学研究所で考案され、技術的なめどがついたとして、

2040年の実用化に向けた開発が本格化する。

 

20秒で死に至る放射線量

 高レベル放射性廃棄物は、原発を稼働させて生じた使用済み核燃料を処理し、再利用するウランや

プルトニウムを取り出した後の残留物のうち、特に放射線量が高いものだ。

 人間が近くにいると20秒足らずで致死量に相当する放射線を浴びてしまう。廃棄物にはさまざまな

放射性物質が含まれ、崩壊によって量が半分に減る半減期も異なるが、中には1000万年を超える

ものもある。


 現在は原発の敷地内で保管されているものも、将来は高温で溶かしたガラスと混ぜ合わせた上で

冷却して固めた「ガラス固化体」と呼ばれる状態で保管される予定だ。ガラス固化体は地下深くに

埋められ、半減期が来るのをひたすら待つことになるが、近隣住民の不安などから埋設する場所は

決まっていない。

 この状況を打開する将来技術として期待されるのが、廃棄物に含まれる放射性物質をより安全または

処理しやすい物質に置き換える「核変換」の技術だ。

 

原子核を壊して別の物質に“変身”

 放射性物質には放射能を持つ原子が含まれる。原子の構造は、中心に陽子や中性子から成る原子核が

あり、周りを電子が回るイメージで、陽子などの数は物質によって違う。

 言い換えれば、人工的に原子核の陽子や中性子の数を変えれば、他の物質に“変身”する。放射性物質を、

放射能を持たなかったり、半減期が短い別の物質に置き換えられるわけだ。


 そこで、理化学研究所仁科加速器科学研究センターの櫻井博儀副センター長らの研究チームが考案

したのが、新型加速器で作り出した中性子を原子核にぶつけて壊す手法だ。


 新型加速器の全長は200~250メートル程度で、発射装置から陽子1個と中性子1個が組み

合わさった重陽子のビームを打ち出す。

 重陽子ビームはプラスの電荷を帯びている。プラスの電荷はマイナスの電極に引き寄せられるという

性質を利用して、重陽子を新型加速器を通過中に光速の約6割まで加速。加速器の出口で容器に入った

液体リチウムにぶつけ、重陽子から陽子をはがして中性子だけのビームを作り出す。

 この中性子ビームを放射性物質にぶつけると、原子核を構成する陽子や中性子の数が変わって別の

物質に置き換わるわけだ。


 研究チームが目下のターゲットとしている放射性物質は「ヨウ素129」(半減期1570万年)と

「テクネチウム99」(同21万1千年)の2種類だ。


 このうちヨウ素129は水に溶けやすく、地中で長期間保管した場合、地下水に溶け出す可能性が

他の物質に比べて高いため、核変換への期待が大きい。核変換に関する基礎データの取得には、理研の

超電導リングサイクロトロン「SRC」を使った。

 

原発20基分のごみ処理が可能

 核変換自体は既存の加速器でも可能だが、ビームの出力が弱く、原発の稼働に見合った十分な

処理量を確保できない。

 これに対して新型加速器は、ビームの出力が既存の加速器の300倍という400メガワットで、

打ち出すビームの直径は10センチにも達する。新型加速器1台で、原発20基分のヨウ素129や

テクネチウム99を処理できる計算だ。


 実現にあたっては、重陽子ビームを加速する空洞を90個連続して並べるなどの手法を考案。

今後の課題はビームの安定化に向けた加速器の詳細な設計や素材選びなどだ。


 理研の奥野広樹・大強度標的開発チームリーダーは「加速器の開発はまだ始まったばかりで、

長い戦いの『始めの一歩』を踏み出した段階にある。核のごみという人類の課題を解決するため、

何とかやり遂げたい」と意気込む。

 

 
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