安倍政権、学校・土地・ナショナリズムめぐるスキャンダルに直面
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2017年03月17日 BBC
新しい学校とのつながりを喜ばない首相は普通、あまりいないだろう。しかし、日本の安倍晋三首相は現在、ひとつの学校から距離を置こうと必死だ。ナショナリズムと幼稚園児と土地取引がからむスキャンダルにまみれた学校のせいで、支持率は急低下し、夫人の活動に疑問が持ち上がっているので。
スキャンダル浮上のきっかけ
すべての始まりは、大阪府豊中市の空港にほど近い、放置された土地をめぐる報道だった。
今年2月、この国有地を運輸省が愛国主義的な教育をする「森友学園」に異例な安価で売却していたという報道が出た。
付近の地価の6分の1という、学校にとって非常に有利な取引だった。しかし財務省近畿財務局は、森友学園と10年の定期借地契約をした後に産業廃棄物が見つかったことから、土地売却額から廃棄物処分の費用を差し引いたと説明した。
野党議員やメディアで発言している評論家らは、政府高官が異例の低い価格で売却するよう圧力をかけたと非難している。圧力は安倍首相に近い関係者からだったという主張も出ている。
安倍首相は疑惑を強く否定し、もし関係していたと分かれば、首相も国会議員も辞任すると述べている。
この学校がなぜ議論を呼んでいるのか
日本の学校の多くは公立で、一部には森友学園のような私立の学校法人によって運営される学校もある。しかし森友学園は、日本のアニミズム信仰、神道に基づく、並はずれて愛国的な教育方針で知られる。
今では、学校法人としての森友学園そのものが厳しい視線にさらされている。
森友学園はすでに大阪市内で塚本幼稚園を運営している。幼稚園の愛国主義的な思想に基づく教育は、戦後の日本では珍しく、議論を呼ぶものだ。
天皇の写真に頭を垂れ、軍歌に合わせて行進し、1890年に明治天皇の言葉として出された教育勅語を朗唱するなど、戦後日本の学校教育では長らく見られなかったような教練を園児たちにさせる様子が、相次ぎ報道された。
学校の集まりで園児たちが、いざという時にはお国のために身を捧げよ、と唱和する姿もあった。
幼稚園が保護者たちに配布した文書に、中国人を侮蔑した表現や、日本に住む朝鮮・韓国人や中国人が「よこしまな考え方」があると主張したことなどが、ヘイトスピーチ(憎悪表現)にあたるとして、元保護者などは今週、大阪府に調査や指導を求める申し入れ書を提出した。多くの中国系、朝鮮・韓国系の人は何世代にもわたって日本に居住している。
なぜ安倍首相の名前が
森友学園が問題の土地に開設する予定だった小学校は当初、「安倍晋三記念小学校」という名前で寄付金を集めていた。
学校のウェブサイトは、安倍首相の昭恵夫人を「名誉校長」として名前を挙げていた。
安倍首相は、自らの名前が寄付金集めに使われていたと分かった時には抗議したと語った。昭恵夫人は相談もなく自分の名前を使われていたものの、しぶしぶ承諾したと話した。
安倍首相は、森友学園の愛国主義的な教育内容について詳しく知らなかったと説明している。
国会予算委員会で先月、幼稚園が運動会で園児たちに「安倍首相頑張れ」と宣誓させていたと指摘された安倍氏は、「(園児たちに)言ってほしいとは思わないし、適切とは思わない」と述べた。
いずれにしろ、森友学園は少学校新設の申請を取り下げており、大阪府は認可をめぐる一連の取引について調査するととしている。
しかし、安倍首相との結びつきはこれだけではない。
森友学園の籠池泰典理事長は、戦前日本の価値観を称賛し、平和主義を標榜する現在の憲法に反対するナショナリストのロビー団体「日本会議」の大阪支部で、運営委員を務めている。
安倍首相と閣僚メンバーらも、日本会議と強いつながりが指摘されている。日本会議は、森友学園の土地取引をめぐる一連の疑惑で籠池氏を批判している。国会では、来週23日に籠池氏を証人喚問することで、与野党が合意している。
日本国内の受け止め方
政府に関連した金銭取引をめぐるスキャンダルは珍しいことではない。しかし、幼稚園児たちが軍歌に合わせて行進する姿に、多くの国民は衝撃を受けた。
日本では今、歴史修正主義的な教科書や内容がどの程度カリキュラムに含まれるべきかをめぐって激しい議論が戦わされている。
今回の場合、怪しげな土地取引に加えて、幼稚園児たちの保護者に送られた手紙にあからさまな人種差別表現があったことは、安倍首相の評判に深刻なダメージを及ぼすリスクがある。
安倍首相の支持率は急低下を続けている。共同通信が今月11、12日に実施した世論調査では、内閣支持率は55.7%と過去1カ月で6ポイント減った。日経新聞電子版が読者を対象に今月初旬に実施した調査では、内閣支持率は36.1%と、前週調査の63.7%から急落した。
(英語記事 A scandal over schools, land and nationalism in Japan)