歯科医物語

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『鬼滅の刃』 日本中世史の専門家が 古典からひもとく

2020-11-02 23:14:18 | ☆BD・MANGA・ILLUST.ANIME
映画も公開され、ますます人気沸騰中の漫画『鬼滅の刃』(『週刊少年ジャンプ』/集英社)。大正時代の日本を舞台に、“鬼”と戦う鬼狩りたちを描いたダークファンタジーだ。作中で登場する“鬼”は、実は私たちにとって身近な存在がルーツになっているのだという説がある。日本中世史を専門とする小和田哲男先生に、古典からひもとく“鬼”の存在を、『鬼滅の刃』に絡めて解説いただいた。



『鬼滅の刃』に登場する“鬼”とは?



『鬼滅の刃』の魅力のひとつは、主人公・竈門炭治郎(かまど たんじろう)たちのキャラクターもさることながら、さまざまな過去を持つ個性豊かな鬼たちといえるだろう。すべての鬼の始祖であり、主人公たちの宿敵・鬼舞辻無惨(きぶつじ むざん)や12人の最上位ランクの鬼たち十二鬼月(じゅうにきづき)をはじめとする鬼たちは、血鬼術(けっきじゅつ)と呼ばれる妖術を使って主人公たちを苦しめる。


 すべての鬼はもともと人間であり、無惨の血を分けられたことで鬼となる。ケガを負っても再生・回復することができ、不老不死である。鬼の力は、無惨から分けられた血の量と食べた人間の数によるとされる。鬼の数少ない弱点は日光であり、もし浴びてしまえば体がボロボロに崩壊して消滅してしまう。そのため鬼たちは夜間にしか行動できない。 これらの鬼の特徴を整理してみると、すべて人間と対極の存在といえる。人間は「人以外のものを食べる」「必ず死ぬ」「妖術は使えない」「太陽の恩恵がなければ生きられない」存在といえるからだ。



古代や中世の人々にとって“鬼”は恐怖の対象だった
人間と鬼とは、真逆の存在である一方で、『鬼滅の刃』の鬼はすべて元人間であり、さまざまな悲しい過去や逃れがたい境遇、自らのコンプレックスなどを持っていたことで、鬼となった。このことをまとめると、鬼とは「普通の人間とは異なる特徴を持ち」「人間の悲哀や欲望といった感情を強く持っている」存在であるといえる。そしてこのような鬼の概念は、古典においても変わらない。 今日、生物として「鬼」が存在することを信じている人は少ないだろう。では、古代や中世の人々はどうだったのか。


例えば、9世紀の『日本霊異記(にほんりょういき)』には鬼の説話が載っているが、これらは実話として語られている。また『日本書紀』や『日本三代実録』などの正史(政権がまとめた公式の歴史)にも鬼は登場する。こうしたことから、鬼は実在する恐怖の存在という認識だったことがわかるだろう。 しかし、これらの記録の多くは、権力者によって卑しめられた抵抗勢力だったり、社会秩序が及ばない山中などに棲む特殊技能を持つ人々、恨みを抱くあまりに狂気を宿した人々であることが多い。現代と異なり、情報が限定的だった古代や中世では、このような異質なものをリアルな鬼として恐れたのだ。


『鬼滅の刃』の“鬼”が元人間なのはなぜ?


『鬼滅の刃』に登場する鬼が、人間とは異なる別種の生き物としてではなく、すべての鬼が元人間である設定にしたことと無関係ではないだろう。どの時代においても、鬼は人間が「鬼」とみなした「人間」なのだ。 これを象徴するのが第14話だ。


無惨によって突如、鬼にされた人を押さえ込んだ炭治郎は「この人に誰も殺させたくないんだ!!」と叫ぶ。そこに鬼になりながらも無惨と反目する医師・珠世(たまよ)が現れ、「あなたは鬼となった者にも『人』という言葉を使ってくださるのですね」と語り、助力してくれることになる。


相手を鬼と見るかどうかは、見る側によって異なることを象徴的に示しているエピソードといえるだろう。 昔話の『桃太郎』に登場する鬼ヶ島の鬼たちをはじめとするパターン化された鬼のイメージと、『鬼滅の刃』の鬼たちではだいぶ異なる。実は、頭にツノが生え、虎のパンツを穿き、金棒を持つ鬼は近世に入ってから生まれた比較的新しい鬼の姿である。このような姿の鬼は日本の古典に登場する鬼のほんの一部に過ぎないのだ。 社会秩序からはじかれた、あるいは自ら外れた『鬼滅の刃』の鬼たちの姿は、人間社会から「異質なもの」=「鬼」としてみなされた日本の古典的な鬼の姿といえるのだ。


 


 
 
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