春よ、来い
齋藤 貢
新年には
南の風に跨またがって
暖かいことばが春の笑顔を運んでくる。
列島の頬にも
まぶしい朝のひかりが注ぐだろう。
でも、どこかに
寒さにかじかんでいる
手がある。
誰にも届けられない
ことばがある。
それは、今も故郷に戻れないひとの
涙をじっとこらえている
遠い春だ。
北国からの手紙が届く。
そこでは
今もまだ、春はうつむいたままで
ことばは凍てついている。
ことばは
いつも寒さに震えていて
しもやけだらけ。
泣きべそをかいて
沈む夕日の背中を必死に叩いている。
だから
新聞配達の少年が吐く白い息のような
走っていく清々しいあしうらのような
少しも汚れていない春を
あなたに届けたい。
早朝の門口で呼びかわす
新年の挨拶のように
言祝ことはぐ春を
大きな声で呼びながら
春よ、来い。
ここまで、やって来い、と。
新しい春は
寒さに縮こまっている新年を
懐に入れて
腕組みしながらまだ思案している。
あなたに
今年は
どんな春の知らせが届くのだろう。