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ヒア アフター

2011年02月19日 20時36分06秒 | 映画 は行
評価:★★★★【4点】


「ここでは何でもできる。宙に浮いてる感じが、かなりイケてる」


冒頭からの津波映像は、デザスター映画専門屋のR・エメリッヒ作品のようだった。
まさか、イーストウッド監督がここまで完成されたVFXを作品に入れ込むとは
予想だにしなかったことである。

その津波シーン、流されている主人公のニュースキャスターを追うように
カメラは溺れかけている彼女を近接撮影しているから、かなりリアルなものとなっている。
エメリッヒ作品と違うのは、全体像のなかのひとりの人間に焦点を当てていることで
溺れかけの瞬間の息苦しさなどが鮮明に分り、そういうきめ細かい演出がいいんですね。

にしても、あの水中で意識のない人間がゆっくりと沈み流れていく様子は
近年稀に見る美しい水中シーンだった気がしました。
あれが、もしも楽器だったとしたら映画『ピアノ・レッスン』ってところでしょうか。



パリのジャーナリスト、マリーは、恋人と東南アジアでのバカンスを楽しんでいた。
だがそのさなか、津波に襲われ、九死に一生を得る。
それ以来、死の淵を彷徨っていた時に見た不思議な光景(ビジョン)が忘れられないマリーは、
そのビジョンが何たるかを追究しようと独自に調査を始めるのだった。

サンフランシスコ。かつて霊能者として活躍したジョージ。
今では自らその能力と距離を置き、工場で働いていた。
しかし、好意を寄せていた女性との間に図らずも霊能力が介在してしまい、2人は離ればなれに。

ロンドンに暮らす双子の少年ジェイソンとマーカス。
ある日、突然の交通事故で兄ジェイソンがこの世を去ってしまう。
もう一度兄と話したいと願うマーカスは霊能者を訪ね歩き、
やがてジョージの古いウェブサイトに行き着く。そんな中、
それぞれの事情でロンドンにやって来るジョージとマリー。

こうして、3人の人生は引き寄せ合うように交錯していくこととなるが…。
<allcinema>




【ネタバレに要注意】

出だしからインパクトある画作りに圧倒されてしまい
そこだけで作品全体像を勝手にイメージしてしまったら、中盤以降、静かな展開にアレ?となるかも。
まずは、そういう危険度を持ち合わせた映画といってもいいのかもしれない。

物語は、まったく別の場所での三つのエピソードを“死”というキーワードに基づき描かれている。

香港での巨大津波に遭遇したフランスの女性ニュース・キャスター。
死者と交信ができる力を持つサンフランシスコ在住の苦悩する元霊媒師。
ロンドンで母子家庭の一卵性双生児の兄の不慮の交通事故と、まるでオムニバス映画のよう。

さて、一見まったく繋がりのない三つのエピソードを、最終的にどう関連付けるのか。
終盤になると、これが上手い具合にまるでマジックのように融合されていくのです。
この辺りの脚本の上手さは自然で、どこにも突っ込みどころが見当たらない感じ。

以前、北野武監督がインタビューで言っていたことばに
「映画はラストから撮る。そうすれば途中で、話がおかしな方向に行かずに済む」
これをイーストウッドがやっていたかは知らないが、初めから三つの話が既に繋がっていたかのように
そんなふうに思わせるテクニックは、やはり凄いことだと思った。
ひとの心象心理を表すのに影を巧みに使い分ける演出法は『父親たちの星条旗』や
『チェンジリング』でも決まってたな~。
いつも、大袈裟な演出を極力排除しヨーロッパ映画のヒューマン・ドラマを観ている雰囲気がある。

ま、さすがは世界の巨匠・イーストウッドというところか。

ワタシ的に、三つのエピソードのなかで特に良かったのは
双子の兄の死により、残された弟が亡き兄に対する強い想いではないでしょうか。
母子家庭の彼らは、アルコール依存症の母をそれでも愛していた。
福士課の保護観察中で訪問面談の際にも、機転の利く兄のおかげで母の更生施設行きを
うまくかわしていたのであった。
そんな頼れる兄の不慮の死が、結果として自分の身代わりとなったことへの無念さが
その後の彼の行動で痛いほど伝わってくる。

二度と戻らない兄に、せめてひとことだけでも話がしたかった。
死者と交信ができる霊媒師を訪ね歩き、ことごとく期待を裏切られてきた彼の前に
偶然にも遭遇したのがジョージ(マット・デイモン)であった。
避ける彼を追い、肌寒いなかアパートの前で十数時間も待つ姿に涙を誘うのです。

根負けしたジョージは彼の要望に応え、しかたなく霊媒行為をしてあげるのですが
マーカスがそれまで診てもらった霊媒師とちがい、ジョージはものの見事に言い当てていきます。
そして最後に兄の言葉として言って聞かせたことは
「ココは凄いところだ!なんでもできる。宙に浮いている感じで、かなりイケてる」
この言葉を聞いた途端マーカスの泣き顔が、みるみる変化していったのは言うまでもない。

分るんです!マーカスにとって、あの世に居る兄のまるで後悔などしていないことばで
そこは決して不安や淋しさなど存在しない素晴らしい場所だと聞き、どれだけ救われたことか。
あのとき、例えそのことばがジョージの気使いだったとしても
それはそれで良かったのではないかと思わせる名シーンになっていたと思います。

苦悩する元霊媒師ジョージの顔には、初めてひとを救った充実感が見てとれた。
彼はもうすこし時間を掛けてから復職するように思えてならなかった^^


三つのエピソードが、最後でそれぞれすべて解決していくことが心地良い、そんな映画でした。



おまけ)
・この映画に出てくるそれぞれの主人公の背景などが描き足りないともいえますが
 さすがに三つにもなるストーリーで、まともにそれをやったら4時間作品になったかも^^;
 ある程度、観てる側が彼ら彼女らの設定に歩み寄っていってあげないといけないのかな。

 主人公以外にも助演の女性で、その過去がかなり気になりましたから。
 ワタシが想像したのは父親との近親○姦?(←おい)

・ジョージが勤めてた会社も不景気で従業員数の3割カットってかなり深刻な状況ね。
 そんな状況だったにも関わらず、工場でも覇気が見られなかったジョージは
 そりゃあ、解雇の対象になるでしょうに^^;
 っていうか、あの年齢で月給二千ドルって、ひとり暮らしならそんなものか。

・ジョージの気持ちを思いっきり勘違いしてたマーカスくんでしたが、最後にすばらしい行為を。
 これは今風な男の子っていう感じで、脚本を書いた人に賛辞を贈りたい。

・今回の映画に出演している双子は『ソーシャル・ネットワーク』で使われていた
 ボディダブルではないようですね。本物の双子みたいです。
 こういうところで無駄なお金を掛けないイーストウッド監督でした^^

・ところで、なんで「ヒアアフター」でも「ヒア・アフター」でもなく
 半角空けた「ヒア アフター」なんでしょうか(←知らんがな)^^;
-----------------------------------------------------------------------------------
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ピーター・モーガン
撮影:トム・スターン
音楽:クリント・イーストウッド


出演:マット・デイモン/セシル・ドゥ・フランス/フランキー・マクラレン/ジョージ・マクラレン/


『ヒア アフター』








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22 コメント

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そうですね。 (rose_chocolat)
2011-02-20 00:39:58
賛否両論あると思います。
私は大丈夫な方でしたけど。

死者に対しての温かいまなざしというものは
あったように感じました。
人生が交差することへの応援というか。
そんなのがあったと思ったんだけどね^^
返信する
賛否ありましたね~ (ituka)
2011-02-20 11:26:26
roseさん、こんにちは。

概ね、イーストウッド監督の映画作りはこういう感じで静かに進行していきますよね。
ただ、今回は冒頭からのインパクトある映像に
ある意味、イーストウッドらしからぬサービス精神が逆に働いたというところでしょうか。

イーストウッド自身、80歳を超えて、今ここで死というものが他人事でない事実として
1本こういうのを作ってみたくなったのかなって思ってます。
死者に対する温かいまなざしは強く感じました。
彼独特の繊細さがにじみ出ていたように感じた一作でしょうか^^
返信する
☆お、イキましたねー☆ (TiM3)
2011-02-21 00:23:00
この週末は、ちょっと劇場で観る時間が取れませんでした(×_×)

そんな中にあって・・本作は
今、1番気になっとる作品です。

津波のような「観たい欲」に襲われ続けてます(⌒~⌒ι)
返信する
画像がまた変わりましたね。 (オリーブリー)
2011-02-21 15:45:49
こんにちは~こちらの女優さんは何となく存じてますが、この頃の女優さんて、皆同じに見えてしまう、私…(苦笑)

随分と賛否が分かれてますね~「ザ・タウン」以上に(笑)
私も受け入れられ派ですが、イーストウッドの過去作に比べると、うーん…とはなります。

大人でも辛いのに、マーカス君の喪失感は大きいものだったでしょうね。
生きる者に優しい導きを感じさせてくれたのは、イーストウッドならではと思いました。

ところで、ブライス・ダラス・ハワードが妙にエロかったですね~あれは最初から計算ずくだと思ってたんで、ああなって良かったと思いましたよ(汗)
男性ウケはしそうですが、私は嫌いなタイプですわ(爆)

死を受け入れるまでって、結構キツイですよね。
私も20年ほど前に父が他界した時、数年、辛くて沈みがちでしたが、今では兄弟たちと「天国良いトコ1度はおいで、酒は上手いし、ネエチャンはキレイだぁ~」(←古ッ!!)盛り上がってると思ってます(笑)
返信する
TiM3さんへ (ituka)
2011-02-21 23:40:31
こんばんは。

お忙しそうですね。
無理なさらないようにしてくださいね。
ワタシも平日はブラック会社並みに22時ごろまで残業続きで嫌になります^^;
36オーバーで訴えてやる~(爆)

この映画は賛否がかなりありますからご覧になった時にどちらに転ぶか楽しみにしてますね^^
返信する
オリーブリーさんへ (ituka)
2011-02-22 00:02:29
こんばんは。

この画像は録画しておいた作品をテレビに向かって写真を撮ったのです(爆)
だって、画像がほんとに無いんだもの~

本作、面白いくらい賛否両論ですよね。
冒頭からのインパクトある映像に、そっちの方の期待値を上げてしまうとダメかもしれませんね。
ジョージの「あ!今戻って来た」(←ほんとかよ!)って突っ込みました^^
以後、アドリブだっていいのです。マーカスくんのお顔が明るくなっていったのが嬉しかったですから^^

>ところで、ブライス・ダラス・ハワードが妙にエロかったですね~

『ヴィレッジ』のヒロインでしたね~
どこかで見たぞこの女優!ってずっと考えてました。
レビューを書いてるときに分りました^^
ワタシもワザとらしい仕草に見えましたが、男は弱いんです。
特にジョージの下心にちょっとサスペンスを感じました(笑)

オリーブリーさん、それ古いよ(爆)
この作品観たら死んでも怖くなくなりましたよ。
あの世は誰もが20代の若者になると丹波さんが言ってましたが、どんなパラダイスなんでしょうね~(爆)
返信する
☆街の不良共に死を!(おいおい)☆ (TiM3)
2011-02-25 00:31:23
観て来ました~

思ったよりも重苦しい訳でもなく、
寛いで観ることが叶いました。

津波のシーンでは、マリーの後頭部にボートの先端部が
「ズゴッ!!」と激突するシーンがあり、そっちの方こそが
観てて痛かったです、、

あれで脳組織に損傷を受け、フラッシュバックするように
なったんかな~とか勝手に推理を繰り広げてました(⌒~⌒ι)

ブラダラさんは、私的には結構好きでしたね。
何となくジュリエット・ルイス系にも見えてしまいますが・・

ワタシの感想で言えば、アレは間違いなく「近親姦」じゃないかな・・
ってトコですが。。

地下鉄のシーンでは、帽子を追いかけてるうちに線路に
転落するんじゃないか?! とか気を回し過ぎて疲れました(×_×)
返信する
お~!ご覧になったのですね (ituka)
2011-02-26 00:39:49
TiM3さん、こんばんは。

意外にも、あの不良どもはその場から逃げずにオロオロしてましたね。
まだカワイイところがあるんだと少し救われました(←ってひとが死んでるし)

マリーの後頭部にボートが激突してたのは見逃していたかも^^;
流されて行くシーンは、スクリーンいっぱいに情報量多過ぎて追いつけませんでした(爆)
そのせいでフラッシュバックするようになったなら、それで1本映画が出来そうですね^^
監督はロバート・ゼメキスでお願いします。

>何となくジュリエット・ルイス系にも見えてしまいますが・・

いわれてみれば、それ言えるかもですね。
どことなくキュートで守ってやらないといけない女性というか、男心を擽りますよね^^
ココのところ『ザ・タウン』から賛否の分かれ目がなんとなく見えてきました。
男女差で見る角度が若干違うのかな~ってね^^

>ワタシの感想で言えば、アレは間違いなく「近親姦」じゃないかな・・

ですよね!アメリカはそういうのが多いそうですよ。
特に労務系低所得者のおっちゃんというパターンとか。
もしかしたら『宇宙戦争』のトムクルもヤバかった(笑)

>地下鉄のシーンでは、帽子を追いかけてるうちに線路に
>転落するんじゃないか?! とか気を回し過ぎて疲れました(×_×)

あれね~^^
誰かが釣り糸で引っかけたわけじゃなかったですよね。
しかも、這って追いかけるもんだから、ひとに踏まれるんじゃないかと心配しちゃいました^^;
返信する
☆ヒア・アフター・トゥモロー・ネヴァー・ダイ☆ (TiM3)
2011-02-26 16:10:18
どもです。

色んな理由をつけて、
女の子の手をとにかく握りまくりたいです(おいこら!)

>そのせいでフラッシュバックするようになったなら、
>それで1本映画が出来そうですね^^
>監督はロバート・ゼメキスでお願いします。

原作&脚本はスティーヴン・キングに、
主演はクリストファー・ウォーケンに、
お願いしましょう(=^_^=) でっどぞ~ん?

>ココのところ『ザ・タウン』から賛否の分かれ目が
>なんとなく見えてきました。
>男女差で見る角度が若干違うのかな~ってね^^

男性目線なのは、基本、ダメなんでしょう。
ブラダラさんのキャラによっては、多少女性観客ウケは
良くなったかも知れませんね。

>もしかしたら『宇宙戦争』のトムクルもヤバかった(笑)

「トライポッド」って言う兵器の名称からして「3本の脚」
ってことで、何となく「男性」の隠喩な気もしますしね。
(考え過ぎや!!)

>誰かが釣り糸で引っかけたわけじゃなかったですよね。
>しかも、這って追いかけるもんだから、ひとに踏まれる
>んじゃないかと心配しちゃいました^^;

もうちょっと自然にやったら『妹の恋人』でのジョニデに
勝てるかも知れませんね(←パントマイムかよ!)
返信する
今度は決められた運命に逆らう男 (ituka)
2011-02-26 21:02:23
TiM3さん、こんばんは。

マット・デイモンの最新作は追われる男を演じる『アジャストメント』です。
民間人+諜報員÷2っていうキャラと読みましたが^^;
相手のお姉さんはエミリー・ブラントというもうひとつ伸び悩んでいる女優さんが相手です^^

キングとウォーケンといえばソレですよね!
レンタルで見ましたが、たしか2回くらい観たような気がします。
ウォーケンも80年代以降はなんだかアンドロイドみたいになっちゃいましたね^^;
整形失敗という噂もチラホラ(←いや、オモイチガイかも)

>男性目線なのは、基本、ダメなんでしょう。

経済効果も含めて女性受けしないと、世の中生き残っていけない恐ろしい惑星です(←トミーかよ)^^;
『ヴィレッジ』のころは良かったのにね^^
シャマラン映画ではいちばんのお気に入りでした。

>もうちょっと自然にやったら『妹の恋人』でのジョニデに

その妹の病も相当な感じもしましたが、演じてるのがメアリー嬢ってことだけでレンタルしまた記憶が^^
ジョニデのパントマイムがあったのですね。
映画泥棒のおっちゃん系?
多分、途中でヒロインキャラがウザくなって再生中止したような気がします^^;

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