「ここにも、厳島神社が?」神田は何か因縁めいたものを感じ始めていた。
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「それで、その鉄の棒が剣が峰から奥宮へと移ったいきさつは?」高見刑事が、神田が口を開く前に尋ねた。
「それは存じております」宮司は静かに答えた。
「先ほど刑事さんがおしゃっていらしたレーダードーム。あれが建てられるかなり前のことです。1895年といいますから明治28年のことでございますよ」宮司は引き締まった顔で軽くうなずきながら話を続けた。
「野中至(のなかいたる)という方が、私財をはたいて、その富士山頂、剣が峰に気象観測所をお作りになられましてましてね。それはそれはご苦労をされ、なにしろ、今でさえ山頂での越冬は大変なことですのに、当時は、まだ、ましな装備もないことでしょうし、日本国のことを心底思ってのことでございましょうねぇ・・・」そう言って、袂(たもと)からハンカチを取り出し目に当てた。
「それで、その鉄の棒は?」高見刑事は質問を続けた。
「はいはい、それで、その観測所を作るために、剣が峰の大きな石を動かしたところ、鉄の箱が出てきたらしゅうございまして、その中に、なにやら、御文書(ごぶんしょ)と一緒に、その、鉄の棒が納められていたらしいのです」お茶を一口飲んで、落ち着きを取り戻し、話を続けた。
「これは、私が直接聞いたことではございませんで、先代の宮司から私は聞いたものですから、確かなことは分かりかねますが、なにやら、そういうことらしゅうございます。そして、野中様は、これは、富士山頂に丁寧(ていねい)に納められていたところから察するに、富士山と、よほどのいわく、因縁(いんねん)があるものであるものに違いない、とまあ、こんな風に思われたのでございましょうね。先々代の宮司に頼んで、爾来(じらい)、浅間大社奥宮にお祀(まつ)りさせて頂いていたのでございます」
「誠に恐縮ですが、その、鉄の棒を、捜査協力ということで、しばらく、拝借(はいしゃく)できないものでしょうか?」高見刑事は、両手をテーブルに置いて宮司を見つめた。
「私といたしましても、あれが宮島さんと何かの関係があるということが分かりましたし、あの鉄の棒と私どもとの関係が解明できるのであればありがたいことでございます。それに、あれは、もともと、神社庁とはかかわりのあるものではございませんし、後日、返還いただける、ということを条件にお貸しいたしましょう」宮司はニッコリと微笑(ほほえ)んだ。
「ありがとうございます。ご協力感謝申し上げます」神田と高見はテーブルに両手を着けて頭を下げた。
「じゃあ、明日にでも、登ってみますか?神田(かみた)さん」高見刑事は神田を見て言うと、神田は、
「でも、もうシーズンも終わりましたし、鍵が掛けられているのでは?」そう言って宮司を見た。
「いえ、ちょうどよろしゅうございました。明日は職員が、鍵を開けますので」
「と、言いますと?」
「新聞社の取材が急に入りましてね。何でも取材の皆さんは明後日にはお国に帰られるとかで、この台風でスケジュールが大狂いだと嘆いておられましたよ。本来ならば、丁重にお断りするのですが、何しろ、大使館からのたってのお願いでございまして」
大使館と聞いて、神田と高見は緊張して尋ねた。
「大使館?どちらの?」
「中国でございます」
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「それで、その鉄の棒が剣が峰から奥宮へと移ったいきさつは?」高見刑事が、神田が口を開く前に尋ねた。
「それは存じております」宮司は静かに答えた。
「先ほど刑事さんがおしゃっていらしたレーダードーム。あれが建てられるかなり前のことです。1895年といいますから明治28年のことでございますよ」宮司は引き締まった顔で軽くうなずきながら話を続けた。
「野中至(のなかいたる)という方が、私財をはたいて、その富士山頂、剣が峰に気象観測所をお作りになられましてましてね。それはそれはご苦労をされ、なにしろ、今でさえ山頂での越冬は大変なことですのに、当時は、まだ、ましな装備もないことでしょうし、日本国のことを心底思ってのことでございましょうねぇ・・・」そう言って、袂(たもと)からハンカチを取り出し目に当てた。
「それで、その鉄の棒は?」高見刑事は質問を続けた。
「はいはい、それで、その観測所を作るために、剣が峰の大きな石を動かしたところ、鉄の箱が出てきたらしゅうございまして、その中に、なにやら、御文書(ごぶんしょ)と一緒に、その、鉄の棒が納められていたらしいのです」お茶を一口飲んで、落ち着きを取り戻し、話を続けた。
「これは、私が直接聞いたことではございませんで、先代の宮司から私は聞いたものですから、確かなことは分かりかねますが、なにやら、そういうことらしゅうございます。そして、野中様は、これは、富士山頂に丁寧(ていねい)に納められていたところから察するに、富士山と、よほどのいわく、因縁(いんねん)があるものであるものに違いない、とまあ、こんな風に思われたのでございましょうね。先々代の宮司に頼んで、爾来(じらい)、浅間大社奥宮にお祀(まつ)りさせて頂いていたのでございます」
「誠に恐縮ですが、その、鉄の棒を、捜査協力ということで、しばらく、拝借(はいしゃく)できないものでしょうか?」高見刑事は、両手をテーブルに置いて宮司を見つめた。
「私といたしましても、あれが宮島さんと何かの関係があるということが分かりましたし、あの鉄の棒と私どもとの関係が解明できるのであればありがたいことでございます。それに、あれは、もともと、神社庁とはかかわりのあるものではございませんし、後日、返還いただける、ということを条件にお貸しいたしましょう」宮司はニッコリと微笑(ほほえ)んだ。
「ありがとうございます。ご協力感謝申し上げます」神田と高見はテーブルに両手を着けて頭を下げた。
「じゃあ、明日にでも、登ってみますか?神田(かみた)さん」高見刑事は神田を見て言うと、神田は、
「でも、もうシーズンも終わりましたし、鍵が掛けられているのでは?」そう言って宮司を見た。
「いえ、ちょうどよろしゅうございました。明日は職員が、鍵を開けますので」
「と、言いますと?」
「新聞社の取材が急に入りましてね。何でも取材の皆さんは明後日にはお国に帰られるとかで、この台風でスケジュールが大狂いだと嘆いておられましたよ。本来ならば、丁重にお断りするのですが、何しろ、大使館からのたってのお願いでございまして」
大使館と聞いて、神田と高見は緊張して尋ねた。
「大使館?どちらの?」
「中国でございます」
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